第141話 願ってもない好機
「エリオ殿、これは願ってもない好機ですな」
俺にそう呟いてきたのはラモンさんだ。ゴウシさんが討ち取った人物は敵の軍団の司令官なのが判明した。つまり、今の状況を簡単に表現すると、攻め寄せてきたザイード軍を統括する司令官がいなくなり、ザイード軍の主だった将軍達もこちらに寝返っている状況だ。大軍を動かす能力がなくなって指揮系統が壊滅した烏合の衆という訳だな。
「ブンツに聞きたい。クライス地方におけるザイード軍全体の構成を教えてくれないか?」
こちらに寝返ったブンツからザイード軍全体の構成や編成を聞き出しておかないとな。
「はい、今回の遠征においてザイード軍の主力が投入されました。ザイード軍では単位としての軍団が二つあり、私が所属していたのはカムダン司令官率いる第二軍団です。第二軍団がザイード軍の主力であり、残る第一軍団は戦闘には不向きな者達の集まりで恐れるに足りません」
「なるほど。それならば第二軍団が壊滅した今、ザイード軍の戦える集団としての戦力は激減したという訳だな?」
「そうです。クライス地方の南部地域全体が第二軍団の担当であり、今回のゴドール侵攻も領の境を接している第二軍団が中央からの指示によって侵攻を担当する事になったのです。第二軍団は第一軍団よりも兵力の数では多かったので、これが壊滅した事によってクライス地方の防衛力は一気にガクンと落ちました。残された第一軍団は先程も申した通り戦闘経験がほとんどない者達ばかりです。おそらく我ら第二軍団がほぼ壊滅した情報が入れば、戦わずして逃げ出す者が多く出ると思われます」
「すると、クライス地方の南部の防衛は無きに等しく、北部のザイード軍の拠点があるマルドの防備も我々にとっては脅威ではないという事か?」
「エリオ殿の仰せのとおりです。ほぼそうなります」
「ブンツとガンロが治めていた街だが……おまえ達が説得すれば街ごとすんなりとこちらに従いそうか?」
「おそらく大丈夫かと。青巾賊を何度も討伐したエリオ殿の名声はクライス地方にも轟いております。エリオ殿に好感を持つ住民は潜在的にかなりいると思われます。今回は残念ながら敵味方で戦う事になりましたが、何を隠そうこの私も個人的にはエリオ殿には好感を持っていましたからな」
「そうか、とても参考になったよ。ご苦労ブンツ。下がっていいぞ」
「はっ!」
ブンツが下がったのを見届けた俺は居並ぶ配下達をぐるっと見渡す。
「さて、これからだが。俺はこの勝利の余勢を駆って一気にクライス地方に踏み込んで行こうと思っている。まず、こちらに寝返ったブンツとガンロの治めていたウルバンとアルマを我らで押さえ、クライス地方南部を我らのものにする。ここまでは相手の抵抗もなく余裕で行けるだろう」
「エリオ殿、まず問題ないでしょう」
「そしてその後はクライス地方の中心の都市でザイード家の拠点である中央北部のマルドを攻めようと思う。敵の戦力が弱体化している今こそ好機だろうからな。俺はザイード家を滅ぼしてクライス地方を我が領土に組み込むつもりだ」
「兄者よ、我らの軍はほとんど損害が出てないのですぐに行けますぞ」
「エリオの兄貴、おいらの軍もピンピンしてるぜ」
「ガッハッハ。俺の軍も普段から鍛えているから大丈夫だ」
「僕の軍もいけるっすよ」
「そうか、傷ついた兵士は今のうちに治療で治しておいてくれ。治療が終わって休息したら出発しよう」
『コル、マナ。おまえ達怪我はしてないか?』
『大丈夫です主様。敵の攻撃には全く当たりませんでしたから』
『私は試しに頭に被っているヘルムで敵の剣を軽く受け流してみましたけど大丈夫でした。それ以外の攻撃は全部躱していたのでどこも異常はありません。エリオ様、ご心配には及びませんわ』
『おまえ達の強さを知ってるから信頼してるけど、それでもやっぱり心配しちゃうんだよな。マナも試すとはいえあまり危ない事はするなよ。本当に体に怪我がなくて良かったよ』
『わーい、主様に心配してもらえて嬉しいな』
『エリオ様ったらそんなに私の体が大事なのね』
『コル、マナ。これから暫くは敵地に滞在する事になる。残った敵を倒すのにおまえ達にはまた活躍してもらうつもりだ。今はゆっくり撫でられないけど、後で暇が出来たらいっぱい撫でてやろう。だから頼むぞ』
『任せてください。後でいっぱい撫でてくださいね!』
『ふふ、エリオ様に頼られると嬉しいわ。撫でてもらうのが楽しみね』
負傷した者達の治療時間を利用して、その間にラモンさん達と地図を広げながら今後の日程を決めていく。とりあえず、クライス南部を平定して地歩を固めるのは迅速に進める予定だ。
「兵士達の治療が終わったようです。いつでも出発出来ます」
配下から出発準備が整ったと報告を受けたのでまずはウルバンの街を目指す予定だ。そこで簡単な拠点を確保した後はウルバンより北にあるアルマの街に進軍。そこをクライス地方北部の攻略拠点と定めてマルドに攻め上る計画を立てた。そのついでに南部にある鉱石採掘所も押さえるつもりだ。
先触れとしてウルバンとアルマの街に使者を飛ばし、ブンツとガンロの署名が入った封書を持たせて先に出発させた。街を治めていたブンツとガンロは既に俺達の仲間になっているのだから、双方の誤解による無駄なやり取りや戦闘は避けたいからな。
「準備は出来たようだな。それではいざ出発!」
俺の号令で各軍が行動を開始した。ここからはゴドール地方を超えてクライス地方に入っていく。後ろを振り返るとゴドール地方の象徴ともいえるサドマ山がその威容を誇らしげに見せていて、俺に向かって頑張れよと叱咤激励してくれているように感じたのだった。
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