第135話 合流、そしてここが踏ん張りどころ

「エリオ様、早馬に乗った伝令からの報告があり、先程から我らの軍とザイード軍との間で戦闘が始まったようです」


 伝令の報告が伝えてきたものは既に戦闘状態に入ったという報告だった。


「例の場所まであとどれくらいだ?」


「あと少しです。前方に見える登り坂を登った先になります」


「そうか、わかった。カウン将軍とゴウシ将軍をここに呼んでくれ」


「了解しました!」


 俺達の軍が到着する前に戦いが始まってしまったようだ。出来れば俺達が到着して合流した後に戦いを開始出来ればより万全だったがこの程度の誤差なら想定内だろう。先に布陣していた味方の軍が持ちこたえていればやる事は変わらないからな。勿論、持ちこたえるだけの準備と備えもしてある。


 前方の登り坂を見ながらそんな考えに耽っていたら、後方から馬が地を蹴って駆ける音が聞こえてきた。振り向くと武装に身を包んだカウンさんとゴウシさんが俺の元へと馬の速度を落としながら近づいてきた。


「兄者よ、それがしをお呼びですか?」

「エリオの兄貴、おいらの出番かい?」


「ああ、ここからは見えないが既に前方で戦いが始まっているとの報告が来た。これからは二人は作戦の打ち合わせ通りに動いてくれ」


「わかりもうした。地形的に前方に見えるあの場所が例の場所ですな」

「なるほど、あそこがそうなのか。おいらの働きをみせてやるぜ」


「二人とも頼むぞ。二人の働きがこの戦いの趨勢を決定づけるからな」


「兄者よ、それがしにお任せを。見事にその大任を果たしてみせますぞ」

「兄貴、おいらに任せてくれ。やる時はやるぜ!」


 俺の指示を受けた二人はそれぞれ自軍に戻っていった。後は彼らに任せるしかない。俺は俺の仕事をやるだけだ。とにかく今はジゲル将軍やベルマン将軍のところまで行って合流しないとな。俺の後ろにいる自軍に向かって大声で号令をかける。


「皆の者、この先では既に戦いが始まっている。到着したらすぐに我らもその戦いに加わるつもりだ。者共よ、準備は出来ているか! 敵はすぐそこだから気合を入れていけ。全軍進め!」


「「「応ッ!!!」」」


 よし、もうすぐ敵との戦いが待っている状況で我が軍の兵達の士気は高い。兵力は向こうの方が多くても、この士気の高さなら想定通りの戦いが出来るはずだ。あとは全てが俺達に上手く行く事を信じるのみだ。


 登り坂を登り切ると、今までとは違って道の両脇には山肌が近くに迫ってきており平らで大きな空間がなくなってきた。


「エリオ様、第四軍と第六軍の背が見えてきました」


 兵士の報告の通り、下り坂の向こうにガウディ家の旗をはためかした軍の後ろ姿が見えてきた。目を凝らして見てみると、徐々にゆっくりと下がってはいるが、散々に負けて潰走中という恐れていた事態にはなっていないようだ。さすが守りに定評があるジゲル将軍とベルマン将軍が率いる軍というところか。


 少しも疑っていなかったと言えば嘘になるが、俺は二人を信頼してたからね。とりあえず前方の様子を確認した俺は味方に近づいていった。


「第四軍と第六軍の者達よ、我らが到着するまでよく持ちこたえてくれた! このエリオット・ガウディが来たからにはこの戦いは必ず我らの勝利に終わるはずだ。皆の者、ここが踏ん張りどころだぞ!」


「「「応ッ!」」」


「ジゲルとベルマンはいるか!?」


「わしならここにおりますぞ!」

「到着したのかエリオ。俺はここだ!」


 前方に展開している味方の軍団に向かって二人の所在の確認をすると、左右の軍団の中ほどから俺の呼びかけに対しての返答が聞こえてきた。将軍という呼び方をしなかったのは必要以上に相手に余計な情報を与えない為だ。


「二人ともその場で聞いてくれればいい。よく持ちこたえてくれた。この働きはとても大きい。この場所で敵を足止めして持ちこたえる事こそがこの戦いの行方を決定づける作戦の肝だったからな。二人ともご苦労だった!」


「ありがたいお言葉。わしの能力を信じてくれたエリオ様には感謝致しますぞ」

「ガッハッハ! エリオにそんなに褒められるなんて照れ臭いぜ」


 二人には難しい任務を押し付けてしまったからな。労いの言葉の一つや二つでは足りないくらいだ。さて、策を成功させるにはこの戦線を維持する必要があるので壁を強化しないとな。


「ロドリゴはどこだ!」


 俺が呼びかけるとすぐに後ろからロドリゴの声が聞こえてきた。


「義兄さん、ここにいるっすよ。いつでも行けるっす!」


「よし、おまえは近衛軍を率いて第四軍と第六軍の支援をしてくれ」


「了解っす。今は敵を食い止めるだけでいいっすか? それとも攻勢に出て押し返せばいいっすか?」


「敵の全軍を完全に誘う為にまだこちらからは攻勢はかけなくていい。ロドリゴよ、カウンさんとゴウシさんの軍が本格的に戦いに加わってくるまでこちらの損害を出さないように相手を少しずつ倒しながら焦らすように上手く立ち回れるか?」


「少し難しいかもしれないっすけど何とかやってみるっす。カウン将軍とゴウシ将軍の軍が本格参戦した後、敵軍が崩れて身分の高そうな敵側の将がいたら戦ってみてもいいっすか?」


「そうだな……戦うのは構わないが、出来れば敵の将がいれば殺さないで生け捕りにしたいんだ。敵の将と戦うとすれば、ロドリゴの言う通りこちらの作戦によって敵が崩れた後で反転攻勢をかけるタイミングだな。その役目は個人の武に秀でたロドリゴとルネに頼みたいと思っている。相手の将がかなり強くても、おまえとルネはそれを上回っていると思うからな」


「義兄さん、生け捕り出来るように頑張ってみるっす」


「ロドリゴ頼むぞ。期待してるからな!」


「ういっす!」


 俺の元から離れた義弟のロドリゴが軍を率いて前方に向かっていった。その動きに呼応するように第四軍と第六軍が左右に分かれ、中央にロドリゴの近衛軍がその空間を埋めるように入っていく。


 ここから前方は下り坂なので、こちらからは前方の戦況が見渡せてしっかりと確認出来る。逆に向こうはいきなり新手の軍が自分達の前に現れたので、何が起きたかわからずに驚いているぞ。


 この作戦の肝は敵を警戒させずにここまで引き付けるのが第一目標だったので、今のところその目標は達成出来ている。敵が我らを侮って御しやすいと思って攻勢をかけてくれるかが大きなポイントだったのだ。


 ロドリゴの軍も加わって安定してしっかりと守れているようだ。あとは適切なタイミングでこちらから反転攻勢をかけるだけだ。

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