第132話 ザイード家の不穏な動き
「クライス地方のザイード家で不穏な動きがあるって?」
俺は領主館の執務室でラモンさんの部下の情報部員から隣のクライス地方で不穏な動きがあるとの報告を受けていた。
「はい、クライス地方で商会を営んでいてこちらに通じている商人からの情報ですと、ザイード軍からの食糧の注文が先月から急に増えているとの事です。それに加えてザイード軍の一部がこちらへ向けて密かに移動しているとの情報も入っています。これは別の情報筋からも同様の報告があり、移動先の方向から見てクライス地方がゴドール地方と接する一番近い街ウルバンに集結して来るのは確実とみられる状況です」
現時点ではお互いに品止めをして経済冷戦状態だが、相手の動きから推察する限り、とうとうザイード家は実力でゴドール地方を奪いにきてるのかもしれないな。まだ確定した訳ではないが、その動きからしてほぼそうではないかと言えるだろう。ただ、だからといってこちらから先に攻撃をすると、向こうはこちらから攻めてきたと大々的に周りに言いふらして自分達に有利になるように動くと予想される。俺達が新興勢力で成り上がりのどこの馬の骨かわからない奴らと煽り、俺達に悪い印象を与えるつもりだろう。たぶんそれを狙っている。
「ラモンさんに単刀直入に聞く。受け身としてこちらのやりようはどうだ?」
「そうですな……相手がゴドールに攻め込んでくるという前提で話をします。戦力は向こうの方が多いかもしれないですが、戦いになればこちらが負けるとは思えません。ただ、こちらが不意打ちを受けた形にして相手側に先手を取らせるとなると、取る作戦もまた違ってきます」
「具体的には?」
「一旦こちらが軍を引いた形にして相手を我が軍の有利な場所に誘い込むのが良いでしょう。地形などを参考に何通りかの場所が候補にあります。侵攻してくるザイード軍と最初に当たる我が軍団は、守りが堅くて忠実に任務を行う軍団を当てるのが妥当かと思われます。そしてその作戦にうってつけの将兵もおりますからな」
我が軍で守りが堅くて忠実なのはジゲル将軍の第四軍だ。嘗ての所属国で北方の異民族の侵入を防いでいた実績があるからな。次に守りが堅いと評価されてるのが守備に拘りがあるベルマン将軍の第六軍だ。既に第四軍は警戒配備で配置済みだから、第六軍を追加配備してこの二つの軍団をゴドールの西側に展開させよう。ベルマン将軍とジゲル将軍なら少ない損害に抑えて忠実に任務をこなしてくれるだろう。
「わかった。作戦会議を行う為に招集をかけてくれ」
「承知しました」
俺の言葉を受けた配下達が慌ただしく行動を開始した。既にゴドールの西に警戒配備されているジゲル将軍の第四軍には後ほど作戦が決まり次第伝令を出すつもりだ。
次の日になり、俺が発した招集によって駆けつけてきた武官や内政官が作戦会議室に集まった。既に配下からある程度現在の状況を聞いているので、集まった者達は何れも表情は固い。
「兄者よ、やはり戦いになりそうなのか?」
「エリオの兄貴。戦いになったらおいらの出番だな」
「エリオ、さすがに今回は笑い事じゃねえな。エルン地方を守っていてこちらに来るのが難しいバルミロの分も俺が頑張らないとな」
「義兄さん、普段は義兄さん達やグラベンの街を守っている僕の軍も迎撃戦に参加させてもらえるっすよね?」
「私はエリオ様の為に戦う」
「エリオ殿、私を含めた主だった内政官が皆揃いました」
急な招集にも関わらず、呼びかけた配下達は会議の時間に遅れずに集まってくれたようだ。カウンさんの軍はグラベンの街から少し遠い位置に訓練目的で行っていたはずだが馬を飛ばして駆けつけて来たのだろう。確かカウンさんの今の愛馬はカレルさんが交易をしている他の商会主に、良い馬が手に入ったので買わないかと薦められて手に入れた駿馬だ。
毛並みは艷やかで赤っぽく、体も大きく見栄えも素晴らしくて立派な馬だ。最初はカレルさんから俺に献上されたのだが、カウンさんが以前から良馬を探しているのを聞いていたので俺からカウンさんにサプライズプレゼントしたのだ。
その時のカウンさんときたら、俺が持ってきた馬を見るなり「いいなぁ、そんな良い馬に乗れる兄者が羨ましい」と、顔を下に向けながら両手の人差し指を胸の前でつんつんしながら拗ねるようにぶつぶつと独り言を言っていたのだが、俺がカウンさんにプレゼントする為に持って来たんだと種明かしをすると、まるで花が咲いたような顔になって飛び上がりながら喜んでいたっけ。その厳つい顔で今の気持ちは乙女かよとツッコミたくなったものだ。
「それでは全員集まったようですので会議の始まりを宣言します」
そんな事を考えていたらいつの間にか配下によって会議の始まりが宣言された。思考を現実に戻して会議に専念しないとな。
「この会議で皆が招集された目的は既に情報として聞いているだろうけど俺から改めて直接話そう。情報部門の活動によって隣のクライス地方のザイード家に不穏な動きが確認された。おそらくこちらに攻め込む準備をしているのは間違いないだろう。ザイード家との全面的な戦いになるものと考えてくれて構わない」
「やはり戦いになるのか!」
「腕が鳴るってもんよ」
「ガッハッハ、負けるつもりはない」
「戦いになればわしの活躍をご覧あれ!」
「僕も頑張るっすよ」
「何度でも言うが、私はエリオ様の為に戦う」
「皆、静かに。そこでこの会議は我々の取るべき行動を全員で共有化する為に集まってもらったのだ。細かい説明はこれからカウン長官が行う。その内容は資料として後で全員に配布をしておくからもう一度目を通しておくように。機密事項だから取り扱いには気をつけてくれよな」
「それでは説明を始めますぞ……」
そしてその日の会議は遅くまで続けられたのだった。
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