第113話 帰還する弟分達を見送った後に鍛冶屋へ
軍の編成を変更して新しい体制になってから十日程が過ぎた。
基本的に新設された第四軍と第五軍は、元々エルン地方に住んでいた人達や新規募集に応じてエルンに来た者達で組織され人員の調整は上手くいったようだ。近衛軍は各軍からの選抜に加えて第六軍と同様にゴドールとエルン両方の地方で募集をかけて良い人材を確保している。
それで各軍の配置だが、新しく獲得したエルン地方はラッセル将軍の第二軍とバルミロさんの第五軍を駐屯させる方針だ。そして内政では大きな方針は俺とラモンさんとブラント内政官が配下を集めた会議などで方針を決め、エルンには代官所を置いて実務を行わせる事にした。代官は内政官の中から実直で俺に忠実なリグル氏を抜擢した。勿論、能力も極めて優秀だ。
そういう訳で、俺はまだこのナダイの街に残って色々とやる仕事があるが、第一軍と第三軍と第四軍は先にゴドールへ帰還する事になった。いつまでもゴドールを空にしておく訳にもいかないからね。
ナダイの街を出てすぐの場所にゴドールへ帰還する第一軍と第三軍及び新規に編成した第四軍が集合して、後は出発待つばかりだ。俺は帰還する軍を見送りにその場所へたった今到着したところだ。
「カウン将軍、ゴウシ将軍、ジゲル将軍。一足先に戻ってゴドール地方の守りについてくれ」
「兄者よ、わざわざ兄者自らそれがし達の見送りに来てくれたのですか。ありがたき幸せ」
「エリオの兄貴よ、エルンでは思う存分暴れまわってスカッとしたぜ。先にゴドールに戻って兄貴が帰ってくるのを待ってるよ」
「エリオ様、放浪していたわしを登用してもらっただけでなく、将軍にまでしてくれた恩は一生忘れませんぞ」
「ああ、俺も仕事が片付いたらゴドールに帰還するつもりだ。それにジゲル将軍は申し分のない実力と実績があるのだから抜擢も当然だ。恩義に感じてくれるのは嬉しいけどさ」
「そういえば、兄者は奥方殿が懐妊中なので早くゴドールに帰りたいでしょう?」
「まあね。リタやミリアムの体の事を思うと毎日気が気でないんだけど、こちらでの仕事もあるからすぐには帰れなくてね。手紙でのやり取りはしているから気休めにはなってるよ」
「エリオの兄貴よ、弟分のおいらが先に帰って申し訳ない」
「ハハハ、気にしなくてもいいって。帰ったらリタとミリアムによろしく伝えておいてくれればいいからさ」
「エリオ様に跡継ぎがお生まれになれば安泰ですな」
「うん、そうだね。俺は男でも女でもどっちでもいいんだけどね」
カウンさん達と話し込んでいたら出発の時間が来たようだ。行程が決まっているので出発を遅らせる訳にもいかない。名残惜しいが送り出してあげよう。
「それでは兄者よ、お先にゴドールに戻っていますぞ」
「エリオの兄貴、そろそろ行かなきゃならねえみたいだ。コルとマナもおいら達を見送ってくれてありがとな」
「エリオ様、ゴドールの守りはお任せください」
「ああ、頼むぞ」
俺に見送られてカウンさん達は軍を引き連れゴドールへ向かって出発していった。今度会うのは俺がゴドールに戻ってからの定例会議になるのかな。暫くの間のお別れだ。
さて、ゴドールへ帰還する者達を見送った後は、出来上がったと知らせが届いた従魔用のヘルムを受け取りに行く予定だ。まだ現物を見ていないので何とも言えないが、俺は今から期待に胸が膨らんでいる。
『コル、マナ。二匹とも見送りに付き合ってもらってありがとうな』
『あの人達は良い人達なので僕も見送りが出来て楽しかったですよ』
『あの二人はエリオ様の弟分ですからね』
『それでだな。この前製作を依頼したおまえ達用のヘルムが出来上がったらしくてな。この後はそのヘルムを受け取りに行くからな』
『わーい、やったー!』
『ふふ、それは楽しみですね』
この前、街の視察のついでに訪れた鍛冶屋に従魔を連れて歩いて行く。この街の道もほとんど覚えたので、道に迷う事もなく最短距離で行けるようになった。まあ、うちの従魔は賢くて鼻が効くので俺が覚えていなくても大丈夫なんだけどな。
『主様、あの鍛冶屋ですよね』
『エリオ様、この前来た鍛冶屋に到着しましたよ』
『そうだ、確かにあの鍛冶屋だな』
ハハハ、うちの従魔は優秀だろ。
鍛冶屋の入り口から中を覗き込み、奥へ向かって大声で呼びかける。
「どうもこんちは。従魔用のヘルムが出来上がったと連絡が来たので受け取りに来ました。どなたかいらっしゃいませんか?」
俺が呼びかけて暫くすると、鍛冶屋の奥からこの前来た時に対応してくれた親方が足早にこちらへ駆けてきた。
「これはこれはエリオ様。こちらからお届けしても良かったのにわざわざのご来店ありがとうございやす」
「いや、気にしなくてもいいよ。今日も外に用事があってその帰りに寄ったのだからそれほど手間はかかってないしね。それよりも出来上がったという従魔用のヘルムを早速見せてもらえないかな」
「へい、少々お待ち下さい。今こちらへお持ち致しますので」
奥の工房に戻っていった親方が箱を抱えて来た。あの箱の中に出来上がったヘルムが入っているのだろう。
「こちらになります。従魔の頭に被せてみてください」
箱から取り出されたヘルムは黒くて渋い輝きを見せている。早速そのヘルムを従魔達の頭に装着してやると凄く似合っていて格好いいぞ。
『僕の姿はどうですか?』
『これなら激しく動いても大丈夫そう』
『似合ってるよ。いかにも強そうだ』
「エリオ様、どうでしょうか?」
「ありがとう。良い出来だと思うよ。俺の黒い装備とお揃いだから誰から見ても俺の従魔だと一目瞭然なのもいい。普段は装着しないけど、戦いの場ではこのヘルムを頭に装着させるつもりだ。これを作った職人さんにも礼を言っておいてくれ」
「ありがとうございやす。うちの職人にもそう伝えておきます」
よし、従魔達の装備も出来た。俺と黒でお揃いなのが嬉しいね。
いつもより凛々しく見える従魔達を見ながら俺はつい顔が綻んでしまうのだった。
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