第105話 いざエルンへ向けて出陣

 あの定例会議から一週間後、ゴドールではエルン地方平定戦の準備が整った。


「リタ、ミリアム。それじゃ行ってくるよ」


「ねえ、エリオ。生まれてくる子供の為にも無事に帰ってきてよ」

「そうですよエリオさん。無事に帰ってこないと許しませんからね」


「ハハ、大丈夫だよ。俺は油断もしてないし気も抜いていない。生まれてくる子供の為にも周囲の脅威を減らしてこの地域をより安全にしたいだけさ。君達の夫である俺を信じろ!」


「ふふ、言ってみただけさ。あたしはあんたを心の底から信じてるからね」

「私もエリオさんを信じてますよ。なんてったって私の愛する旦那様ですもの」


「二人のその気持が何よりも俺の心の支えになる。俺も心から君達を愛してるよ」


「そういえば、コルとマナも連れて行っちゃうんだよね」

「遊ぶ相手がいなくなって寂しくなっちゃいますね」


『コル、マナ。リタとミリアムが寂しがってるぞ』


『リタさんとミリアムさんも大事ですけど、僕は主様が一番大事です』

『仕方ないですね。帰って来たらお二人にいっぱい撫でさせてあげてもいいですわよ』


 コルは俺が大好きなんだな。そしてマナの方はさすがお姉さんと言うべきか、二人に気を遣ってくれている。


「リタ、ミリアム。この二匹の従魔は俺にとっても大切な存在だからね。戦いの場に赴く俺には精神的な支えとしてこの二匹の力が必要なんだよ。だから暫くの間我慢してくれ」


「仕方ないわね。その代わりにさっさと終わらせて早く帰ってきてよ」

「コルちゃんもマナちゃんも旦那様を守ってあげてね」


「ああ、任せてくれ。コルとマナも俺を守ってくれるさ」



 二人に見送られながら俺は領主館を出て護衛を引き連れて集合場所へと向かう。戦った後の統治まで計算に入れての出兵なので少し準備に時間がかかったが、その代わりに待たされた時間を有効な訓練に費やした軍の士気は高いまま保たれていた。


 それと、この一ヶ月の間に密かに工作活動と根回しを進めておいたおかげでエルン地方の住民達は俺達に好意的だ。既にエルン地方の街や村々は俺達に恭順を示す意向を内々に示しており、進攻の妨げになるような事態は避けられていて、青巾賊本隊と戦う前に不要な戦いや消耗がなくなるのは正直ありがたい。


 今回の平定戦に参加するのは第一軍から第三軍までの正規軍と俺の親衛隊だ。そしてゴドールの防衛はゴドール金山駐屯部隊の人員を暫定的に増やして半分をグラベンに配置。コウトやサゴイからはグラベンに援軍を派遣してもらっている。援軍はエルン平定軍の後詰めの役割りも兼ねているので、状況に応じて臨機応変に動いてもらう手筈になる。


 形式上はロドリゴの親衛隊にジゲルさん達新規お抱え組を組み込み、親衛隊と一緒に俺の手駒として遊撃隊のような役割りを任せるつもりだ。


「エリオ殿、出陣の準備が整いました」


 グラベン郊外の演習場にエルン平定軍が集合して俺の出陣の号令を今か今かと待ち構えている。いずれも優秀な将軍に率いられた精鋭達だ。


「それでは皆の者、これよりエルンに向けて出発する。相手に我がゴドールの強さを思う存分見せてやれ! 勝つのは当然俺達だ。いざ出陣!」


「「「応ッ!!!」」」


 愛馬に跨がる俺と従魔の二匹を先頭にゴドール領内を平定軍が進んでいく。街道脇にいるゴドールの住民達に俺を先頭としたゴドール兵の威容を見せつける目的もあるからだ。粛々と俺の後に続く大勢の兵達も住民達にとっては心強い存在に見えるだろう。


 漆黒の装備に身を包み、二匹の従魔を従えた俺の姿は住民達にとって何よりも憧れの存在らしい。この乱世では誰よりも強い統治者が求められているのも憧れの理由としてあるのだろうな。


 隊列は俺と従魔を先頭にしてすぐ後ろに馬上のロドリゴ。そしてその後方には一時的に俺直属にしてあるジゲル、ロメイ、ルネの三人が馬に乗って付き従っている。


「義兄さん、また義兄さんの体からオーラが出てるっすよ」


 ロドリゴが俺のすぐ後ろからそんな声をかけてくるけどさ。悪いけどそのオーラとやらは俺自身には見えないんだよな。何でだろう、何でだろう、本当に何でだろう。


 グラベンを出発したゴドール軍。その後は順調に行軍を続けて領の境界に到着した。ここから先は事実上青巾賊が支配するエルン地方だ。エルン地方南部に関してはゴドール地方に近接してるという地域性もあり、すぐ隣のゴドールの発展ぶりに憧れる人達が多く、俺達に親近感を持つ住民達が多数を占めている状況だ。


 そして境界を跨いだ最初の村で俺達ゴドール軍は村人からの大歓迎を受ける事になった。一人の老人が前に進み出て俺に向かって歓迎の言葉をかけてきた。


「ようこそゴドールの人達よ。我々セナイの村は貴方達の到着を今か今かとお待ちしてましたぞ。ところで、貴方様がゴドールの希望と呼ばれている漆黒のエリオ様ですかな?」


「そうだ。俺がゴドール領主のエリオット・ガウディだ。我らを歓迎してもらい心から感謝申し上げる。出迎えご苦労様」


 歓迎して貰ったのは嬉しいけど、俺の呼び名というか二つ名が増えてないか。何だよゴドールの希望ってさ。どこからそんな呼び名が出てきたんだよ。恥ずかしくて穴があったら入りたいよ。


「やはり、貴方様がゴドールの希望と呼ばれている漆黒のエリオ様でしたか。聞きしに勝る男ぶりですな。しかも体からオーラのようなものが出ている。既に我らの村だけでなく、エルン地方全体は貴方様に大きな期待を寄せております」


「ああ、任せてくれ。俺達は青巾賊を討伐してこのエルン地方を平定する為にやってきた。平定したあかつきにはこのエルン地方もゴドールに引けを取らない発展をするように努力するつもりだ。だから安心して俺達に協力してくれないか」


「わかりました。全力で協力させていただきます」


 エルン地方のセナイ村で大歓迎を受けた俺達ゴドール軍は、この村を今日の宿泊地として明日からの作戦行動に備えるのだった。

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