第104話 エルン地方平定へ

 定例会議も休憩を挟んで後半戦に入った。


 たまにしか顔を合わさない人達にとってはお互いの近況報告などをする親睦会のような側面もあるので、休憩時間を入れながら会議を進めるようにしている。


「エリオ義兄さん、皆が休憩から戻って全員集まったっすよ」


 そう、この会議にはロドリゴも参加してるのだ。言葉使いだけ聞くとおちゃらけているように感じるかもしれないが、ロドリゴは姉貴であるリタの心理を読み解く解析能力があるように武力だけでなく地の頭も良いし頭の回転も早い。個人だけでなく、集団戦にも駆け引きや心理戦が必要なのは言うまでもないからね。意外かもしれないが、多少の贔屓はあるけど親族というだけで役職につけてる訳ではないのだ。


「皆、休憩から戻って集まったようだね。それでは会議を再開する」


「エリオ殿、それでは私から近隣情勢の報告をさせていただきます」


「ラモンさん頼む」


「はい、まず近隣情勢から報告しましょう。私どもの放っている情報部員達からの情報ですと、ゴドールやコウトの北にあるエルン地方は青巾賊に制圧されるのは確実な情勢であり、この地を統治していたガデル家はナダイの街を落とされ力及ばず滅亡した模様です。それに伴いエルン地方の住民達からエリオ殿に青巾賊討伐の要請が来ております。そしてゴドールの西にあるクライス地方なのですが、この方面からはしきりに間者らしき者達が送り込まれております。我々の部隊もそれらを見つけ次第に対応処理をしていますが、おそらくクライス地方を統治しているザイード家がこの地に目をつけているのではないかと」


 以前からエルン地方は不安定で内戦状態のようになっていたが、とうとう北の地は青巾賊に支配されそうなのか。それと、西のクライス地方のザイード家は要注意だ。ザイード家が穏健な体制ならこちらも色々とやりようがあるのだが、そうでないとすると不測の事態もありえるだろう。


「ありがとうラモンさん。それではこの報告を聞いた皆の考えを聞かせて欲しい」


「兄者よ、それがしから意見を述べてもいいですかな?」


「構わないよカウンさん」


「まず、エルン地方が青巾賊に支配されたとすれば確実に我々にとっても大きな脅威になるでしょう。エルン地方に我らが出兵して青巾賊を倒してこの地方を平定するのもありではないでしょうか。兄者はどのようにお考えですか?」


「そうだね。以前のゴドールならこの地を守るだけで精一杯だった。だけど今は豊富な資金をバックに軍備も整えられている。精強で質が良く、練度の高い兵達の強さは烏合の衆である青巾賊とは強さにおいて比較にならないだろう。俺もそろそろ乱世を安定させるという大義を掲げて周辺に打って出ても良いと思っていたところだ」


「兄者よ、それは本気ですかな?」


「ああ、本気さ。ただ、行動を起こすなら絶対に勝たなければ意味がない。逆に皆に問う。俺を信じてついてきてくれるか?」


「エリオの兄貴よ。そこはついてきてくれるか?じゃなくてついて来いだろ」


「ハハ、そうだったねゴウシさん。じゃあ、改めてもう一度言うよ。この先は茨の道になるかもしれないが皆覚悟して俺について来い!」


「「「応ッ!!!」」」


 期せずして皆の心が一つにまとまったようだ。


 全員が目標に向かって一丸となって進んでいく決意を示す事で、会議に参加してた人達の結束力も更に高まったのではないだろうか。それだけでなく、新しく加入した人達も溶け込みやすい状況を作り出せるだろう。


「ガデル家に代わって青巾賊が支配するようになったエルン地方の攻略と作戦立案は参謀達でまとめてくれ。それと、軍を動かすにあたって直前まで相手に気取られないように気をつけてくれ」


「エリオの兄さん、コウトやサゴイへの連絡や対応はどうするつもりなんです?」


「そうだね、それもやっておかなければならない。カレルさんにはゴドールからの使者として説明に行ってもらいたい。ゴドールがエルン地方へ軍を動かした後のこの地の守りを固める為にも両方の街からの協力が必要だ。同盟を組んでいるからには歩調も合わせなければならないしね。後で俺が書簡を書いて用意するからそれを持っていって渡してくれ」


「わかりやしたぜエリオの兄さん」


 俺達が軍を出してエルン地方の平定に動くとなれば、当然の事だが同盟を組んでいるアロイン地方にも少なくない影響が出るだろう。事前に話を通しておくだけでなく、緊密に連携して対応も考えておかなければならない。予期せぬ事態に慌てふためくというのは避けなければな。


「ところでエリオの兄貴よ。おいらの第三軍はエルン平定の戦いに参加させてもらえるんだろ?」


「まだ作戦が決まった訳じゃないので断言出来ないが、俺の考えではゴウシさんの第三軍にも参戦してもらうつもりだ。ゴドール防衛の為に一部の兵だけ残し、第一から第三まで全て動員して一気にエルン地方を平定しようと思っている」


「ヘヘッ、そうこなくっちゃな。さすがエリオの兄貴だぜ」


「エリオ様、少々尋ねたいのだがよろしいか?」


「ジゲルさんか、何を聞きたいのかな?」


「わしら新参組の役目はどうなりますかな?」


「ああ、配属や役割についてはとりあえず俺付きの武官という立場だ。エルン平定戦が上手くいけば編成を変更して何らかの役目や役職に付けようと思っている。今のところエルン平定戦においては俺直属の配置になるだろうからよろしく頼む」


「エリオ様、私は出来ればエリオ様の近くで戦いたい」

「仕官出来てすぐに戦いの場に出れるのは嬉しいですね。俺頑張っちゃいますよ」


 ジゲルさんには俺直属の部隊からとりあえず中隊規模を預けてもいいだろう。ルネとロメイは俺の副官待遇にして形勢を見ながら強力な遊軍として送り出してもいいな。


「作戦が正式に決まり次第臨時会議を開催する予定だ。今日の会議、皆ご苦労だった。これにて解散する」


 とうとう俺もこの乱世に大きく打って出る時が来た。

 ガウディの名を大きく世間に知らしめる機会が訪れたようだ。

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