第98話 ゴドールに希望の光が見えてきた
コルとマナの二匹の従魔を連れて、領内の資源調査と気晴らしを兼ねて朝からお出かけした俺は、山の中でとんでもない物を見つけてしまった。
とりあえず、見つけた場所を忘れないように近くにあった木や岩にマーキングを施し、地形を頭に入れた俺は出来るだけ山に入る前に通って来た街道から分かれた脇道に出られるように直線的に道標になるような印をつけながら山を進んでいった。
山を無事に下りて人通りのない脇道に出ると、周りに誰もいないのを確認して近くにあった木に短剣で傷をつけ、俺にはこの場所がすぐにわかるように細工をしておいた。
とにかく、一度グラベンの街に戻って報告をしないとな。その後は専門家や技術者を伴った調査隊を組んで本格的に調査をさせるつもりだ。もしかしたら、この発見はゴドール地方の財政を救う起死回生の宝の山になるかもしれないぞ。
『おまえ達、悪いけど今日の外出はこれで終わりだ。マナが見つけてくれた物のおかげで至急の用事が出来たので街に戻らないといけなくなった』
『主様、僕は構いませんよ。今日は主様とお出かけ出来て嬉しかったですから』
『さっき見つけた物を街にお知らせに行くのですね。仕方ありません』
『そう言ってもらえるとありがたいよ。でも、またおまえ達を連れてここに来るからすぐにお出かけする事になるけどな』
『やったー!』
『はい、楽しみにしています』
早く皆に知らせたいので街まで全力で走っていく。脇道から街道に出て久しぶりに全力で走ってるけど気持ちがいい。途中でこの領内の農民らしき人とすれ違ったが、俺と従魔が一緒にもの凄い速さで走っているのを見て驚いていたので手を振って愛想を振りまいておいた。これでも領主なんですよ俺。
暫く走っているとようやくグラベンの街を囲う壁が見えてきた。グラベンの壁はコウトやサゴイの街に比べると低くてお世辞にも防御力は高いとは言えない。そもそも、グラベンの街というかゴドール地方全体の価値が低かった結果、周りから見向きもされてなかったので攻められる心配がほとんどなかったからだ。
俺もこのグラベンに来てから少しずつだが、このゴドール地方についての知識を吸収しているからね。統治に役立てようと今までのこの地方の歴史なども勉強しているのだ。遠い過去には冷害や干ばつの影響で飢饉になってしまい、多くの被害者を出した事もあるらしい。
話が逸れてしまったが、さっき見つけた金鉱脈候補地とグラベンの間の距離は、俺の目安だと平坦な街道だ徒歩で二時間くらいの距離だと思える。グラベンの街からこの近さの距離で鉱山が出来れば街は大いに潤いそうだ。本格的に稼働を始めたら鉱山近くに村や街を作ってもいいかもしれないな。
鉱山作業員の宿泊場所や飲食店、生活品や日常品を売るお店なども必要になるだろう。酒場や色街関係はグラベンの街の状況とも兼ね合いがあるだろうし、そっち関係は利権が絡みそうなので街の連中と話し合いをしながら慎重に対応しよう。
未来予想図としてゴドール地方の薔薇色の未来が俺の頭の中に浮かんでくる。なにせ、金が採れる鉱山なんてどこにでもゴロゴロとある訳じゃないからな。埋蔵量や採掘量にもよるが、一地域の経済や財政を貧乏状態から一気に豊かにさせるくらいの爆発的な破壊力を持っている。いや、一地域だけでなく、周辺の国々とのパワーバランスさえ余裕で変えてしまう力を持っていると言っても過言ではないだろう。
街へと入る門のところには門番の衛兵の姿が見える。あの顔は見覚えがあるぞ。俺が早朝にこの街から出ていく時に挨拶した門番だ。向こうも遠くから黒ずくめの姿の俺と並走する従魔を確認したのか、領主の俺だと気がついて敬礼の体勢で待ち構えているぞ。
「俺だ、通るぞ!」
「はっ!」
一言、門番の衛兵に声をかけて俺は従魔と一緒に門を潜って街中へ入っていく。既に日が昇って人通りが多くなってきている時間なので、道を歩いている人達は何事が起きたのかと俺と従魔が走る姿を振り返って見てくるけど、今はそんな事を気にしてる訳にはいかないもんね。
領主館に戻ってきた俺は、ここでも門番に「帰ってきたぞ!」と言い放ちながら急いでラモンさんとロドリゴが住んでいる別館に駆け込んでいった。
「ラモンさーん! ロドリゴ! いるなら出てきてくれ!」
いきなり別館に飛び込んできた俺がラモンさん達を大声で呼ぶ声を聞き、別館担当の使用人が何事があったのかと部屋から出てきて驚いた顔をしている。そして大声の主が領主の俺だと知るや大慌てでこちらへ駆けてきた。
「エリオ様、何事ですか!」
「ああ、ゴメンゴメン。大至急ラモンさんとロドリゴに会う用事が出来たのでつい大声で叫んでしまったんだ。たぶんラモンさんは俺の声に気がついているだろうけど、ロドリゴの方はこの時間に在宅してるかどうかわからないから様子を見てきてくれないか?」
「承知致しました」
使用人がロドリゴの部屋まで走って様子を見に行ったのと入れ違いに、ラモンさんが小走りに二階から階段を降りて来た。
「どうしたのですかなエリオ殿。今日は休養日にするとエリオ殿がおっしゃっていたので私は自室で調べ物をしていたのですが。何かありましたか?」
「それなんだけど、何かあったどころじゃないんだよラモンさん。至急、ブラントさん達内政官を緊急招集してもらいたい。ロドリゴには軍関係の責任者のカウンさんとラッセルさんを呼び出してもらうつもりだ」
「それは緊急事態ですな。私には理由をお聞かせしてもらえるのでしょうか?」
「まだ誰にも話していないが、俺の従魔の行動がきっかけで山の中で金鉱脈らしきものを発見したんだ。それが素人目に見ても大規模な鉱脈っぽいんだよ」
「なんと、それはまさに緊急事態ではないですか! それも嬉しい方の緊急事態ですぞ! こうしちゃいられません、私は今から内政官達を呼んできます。そうだ、あと鉱物の採掘に詳しい技官や専門家も呼んで参った方がいいですな。とにかく行ってきます」
「ラモンさん頼む。それとまだ外部にはこの事を公にしたくないからくれぐれも限られた人達だけに知らせてくれ。この件は第一級機密事項に指定するから」
「それも承知いたしました」
そうラモンさんは答えると風のような速さであっという間に別館を出ていった。そのすぐ後に使用人に呼ばれたロドリゴが俺の前に姿を現した。
「エリオ義兄さん、どうしたんすか?」
「おお、いてくれて助かったよロドリゴ。実はロドリゴに頼みたい事があるんだ」
「構わないっすよ。それで僕は何をすればいいんすか?」
「軍本部にいってカウンさんとラッセルさんを連れて来てくれ。それに今はまだ詳しくは言えないが、ロドリゴも俺の命でこの件にそのうち関わってもらうからな」
「何だか知らないけど、僕が何かの仕事をするんすね?」
「ああ、そういう事だ。その時が来たら頼むぞ」
「わかったっす。それじゃ大至急カウンさん達を呼んで来るっすね」
ロドリゴも別館を飛び出していった。後は領主館で皆が来るのを待つだけだ。
『コル、マナ。領主館に戻るぞ』
『『はい』』
この街の、いやこのゴドール地方全体の未来を一気に好転させるような大発見をした俺と従魔は希望の光を感じながら意気揚々と領主館へと歩いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます