第94話 ここにもやっぱり豪傑タイプがいた
馬車から降り立つと、領主館に到着した俺を門前で出迎えてくれている武装した人達の姿が見える。見た感じだとグラベンの街を守っている兵士達だろうか?
一番前に立っている人がこの兵士達を率いてる人なのかな?
ああ、俺の第六感が反応して告げている。この人は絶対に豪傑タイプの人だ。きっとカウンさんやゴウシさん、カレルさんと同じタイプの人で間違いないだろう。見た目からして背が高く筋肉質でガッチリとした体つきで、頬には斜めに傷跡が走ってるよ。
「敬礼!」
その人の掛け声で後ろに控えていた兵士達も俺に向かって敬礼をしてくる。部隊としても練度が高そうだ。俺も答礼を返すとその豪傑タイプの人は品定めをするように俺の姿をジロリと睨んできたぞ。何となく嫌な予感がしてきたんだが。
「出迎えご苦労。新しくこのゴドール地方の領主に就任するエリオット・ガウディだ。よろしく頼む」
「吾輩は守備隊隊長のラッセルと申します。新領主様は誰にも負けない武力自慢とお聞きしておりますがそれは本当ですかな? もしかして噂だけで口ほどにもないなんて事はありませんでしょうな。吾輩は新領主様の武人としての力をこの身で直に知りたい。さあ、ご返答は如何に?」
やっぱりな……この人も相手と戦って語り合う系かよ。
「お主、控えよ。兄者に対して無礼ではないか!」
「エリオの兄貴が出るまでもない。こんなふざけた野郎はおいらが相手をして叩きのめしてやる」
「外野の連中は黙っていてもらおう。吾輩は新領主様にお尋ねしておるのだ!」
あー、皆ドン引きしてるよ。何でこうなるのかな。俺の経験からしてこういうタイプには己の力を示さないと心から納得してもらえないんだよな。
「カウンさん、ゴウシさん。下がってくれ。このラッセルさんが俺の武人としての力を試したいのなら相手になるよ。それでラッセルさんが心から納得してくれるだろうし」
「さすがは新領主様だ、話が早くて吾輩も助かりますな」
「エリオ様、何も今じゃなくてもよろしいのでは…」
俺を案内してくれたブラントさんがオロオロしながら近づいて声をかけてきたけど、俺はそっとブラントさんに手のひらを向けて制し首を横に振る。
「大丈夫ですよ、すぐに済みます。何も心配は要りませんよ」
「ほう、新領主様は相当な自信があるようだ。ならば、吾輩と真剣勝負といこうではありませんか」
「いいですよ。でも、ラッセルさんはこのゴドール地方では貴重な戦力なので、俺に敵わないと思ったらすぐに参ったと言ってください」
「フハハ、これは面白いですな。吾輩は強いですからな。参ったと言うのは新領主様の方かもしれないですぞ」
ふと見ると、ゴウシさんがそんな奴なんてやっちまえという目つきで俺を横目で見ているよ。いや、本当にやってしまう訳にはいかないってば。
「見たところ、この領主館の中庭が丁度広くて良さそうだ。ラッセルさんここでいいですね?」
「勿論ですとも」
俺は暗黒破天を取り出し右手に持つ。黒ずくめの装備で来て良かった。着替える手間が省けるからな。一方のラッセルさんは大斧が付いたハルバードが愛用の武器のようだ。前に俺達が倒したカモンが持っていた武器と同じだな。
あの時はゴウシさんとカウンさんに任せたから俺は実際には戦っていないので、試すには丁度良い機会だ。
中庭に移動して少し距離を空けてラッセルさんと対峙する。さすがに自分で強いと豪語するだけあってその佇まいからは強者の匂いを感じるよ。
「カウンさん、始まりの合図を出してくれ」
「わかりました。それでは両者とも試合を始めっ!」
合図と共にラッセルさんはハルバードを振りかぶり、叩きつけるように俺に振り下ろしてくる。それを俺は太い柄の部分で真正面から受け止めた。
『ドゴーン!』
大きな音が中庭いっぱいに響き渡る。普通の人間なら一撃で倒せるような力強い攻撃だ。さすがというか武人として力量の高さを感じ取れる。
「吾輩のこの攻撃を受け止めるとは! ならばこれならどうだ!」
今度は横に振りかぶって振り回すように俺の胴を目掛けて叩きつけてきた。その攻撃も俺は柄を盾のように使い一歩も動かずに堂々と受け止めてみせる。
『ドゴーン!』
一度ならず二度までも渾身の攻撃を苦もなく簡単に受け止められた事に驚いたのか、驚愕の表情で俺を見つめるラッセルさん。
「さあ、今度は俺の番だ! 頭上から攻撃するから受け止めてみせろ」
俺はそう言い放つと、ラッセルさんが俺に仕掛けてきた攻撃と同じように暗黒破天を振りかぶり、頭上から叩きつけていく!
『ドゴーン!』
ラッセルさんは俺の攻撃を辛うじて受け止めたが、頭上からの振り下ろし攻撃に耐えきれずにその場にドンと膝をついた。俺は暗黒破天を手元に戻し、顔が引き攣っているラッセルさんに立ち上がれと促して体勢が整うのを待ってやる。そして立ち上がったラッセルさんに向けて言葉を投げかけた。
「よし、次は胴を狙うから受け止められるなら受け止めてみせろ!」
俺はそう宣言して言い放つと、暗黒破天を横に振りかぶりラッセルさんの胴を目掛けて叩きつけていく。宣言通りに高速で叩きつけられた俺の暗黒飛天をラッセルさんはハルバードの柄で必死に受け止めるが、勢いよく叩きつけた武器の破壊力を受け止めきれずにラッセルさんは体ごとふっ飛ばされてごろごろと向こうへ転がっていった。
俺はすかさずその転がった先に駆けていって倒れているラッセルさんの胸元に暗黒破天の穂先を突きつけた。
「まだやるか? それとも降参するか!」
「こ、降参だ。参った。参りました!」
「それまで、勝負あり!」
審判役のカウンさんの試合終了の合図が中庭に響いて俺の勝利が確定した。それを聞いて固唾を呑んで見守っていた周囲の空気が一変して一斉にどっと沸き上がる。もの凄い歓声だ。そして、俺は目の前で倒れているラッセルさんに手を差し伸べて立たせてやった。
「どうですか? 俺の強さは噂だけでしたか?」
「いえ、新領主様の強さは噂以上でした。吾輩ごときの力量ではあなた様の足元にも及びません。これほどの強さの方と手合わせを出来て吾輩はとても感激しております。このラッセル、あなた様に忠誠を誓い一生ついていく所存であります。新領主様、申し訳ありませんでした。どうか今までの数々のご無礼をお許しください。この通りでございます!」
あーあ、せっかく立たせてあげたのに土下座を始めちゃったよ。手合わせして相手の強さを実際に感じないと心を開かないタイプは、一度心を開くとその熱い想いを全力でぶつけてくるんだよな。
「わかった、許してあげるよ。そもそも俺は怒ってもいないんだけどな。但し、二度と俺を試そうなんてしないように。次はラッセルさんの胴が真っ二つになるからね」
「はい、我輩をお許し頂いてありがとうございます」
「あー、良かった。一時はどうなるものかと思い心臓が破裂しそうになりました。エリオ様、大丈夫ですか?」
ハハ、いきなりこんな事になってしまってブラントさんには心配をかけちゃったようで申し訳ないな。
「大丈夫ですよ。待たせてしまって申し訳ない。それじゃブラントさん、領主館を案内してくれないかな」
「わかりました。改めて新領主様であるエリオット・ガウディ様を領主館の新しい主として歓迎させていただきます」
領主館の中庭でラッセルさんと戦うという予期せぬハプニングがあったものの、俺はようやく新領主として本当にこの街に迎えられたのだと心から感じていた。
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