第88話 いきなり領主になるんだと言ったら驚かれるよね

 カレルさんが泊まる出張所は市場のすぐそばにあり、明日以降の予定を決めて俺はその場を後にした。


「それじゃカレルさん、明日もよろしく。昼前の午前中に第二部隊に来てくれ」


「こっちこそ、兄さんの仲間に会えるのが今から楽しみだぜ」


 さて、久しぶりの帰宅だ。

 留守中の家の手入れは合鍵を渡しているリタとミリアムに頼んであるから何も問題はないだろう。そういえば、さっきリタ達に会った時に部隊の様子を聞いておけば良かった。後の祭りだな。


 歩いているとようやく見慣れた我が借家が見えてきた。窓から灯りが漏れているところを見るとリタ達がいるのだろう。久しぶりの我が借家に着いた俺は玄関のドアを開けて家の中に入っていった。


「ただいま。リタ、ミリアム、いるのか?」


 俺がそう呼ぶと、台所の方からリタとミリアムがおずおずとした足取りで現れた。


「エリオお帰り」

「エリオさんお帰りなさい」


 二人とも声が小さいな。いつもの元気はどこへいったんだよ?


「ああ、ただいま。俺の留守中に何かあったか?」


「別にこれといって何もなかったよ。それよりもエリオに聞きたい事があるんだ」

「私もエリオさんに聞きたい事があります」


「いいよ、何が聞きたいの?」


「さっき市場の近所で会った時、エリオと一緒にいた人にあたし達を紹介してくれたじゃん。エリオはあたし達を俺の妻になる予定だとあの人に紹介してたよね。あれはエリオの本心なの?」

「私もあの言葉が気になってます。その場しのぎで言ったのではないですか?」


「ああ、さっき会った時の俺の言葉か。そうだな、なら改めて本気の気持ちで真面目に言うよ。二人とも俺の妻になって俺を支えてくれ。俺には君達二人が必要なんだ。久しぶりに君達と会ってどうやら俺もリタとミリアムの事を好きになっていると確信した。それとも二人は俺の妻になるのは嫌かい?」


「何言ってんのさ。嫌どころか大歓迎に決まってるだろ」

「私も勿論大歓迎です!」


「じゃあ、そういう事でこれからも俺の妻としてよろしくな。俺だって男だから今すぐ君達を抱いて完全に俺のものにしたいけど、ちょっとそれは少し先延ばしになるんで許してくれよな」


「どうしてさ? あたしはいつ抱かれてもいいのに」

「私もエリオさんのを受け入れる準備は出来てますよ」


「その理由なんだけど、実はこれから色々と忙しくなりそうなんだ。俺さ、コウトの街から北西方向にあるゴドール地方の領主になるのがほぼ決まったんだよ。だから君達とそうなるのはそれらが全て落ち着いて領主としての基盤がしっかりしてからにしたいんだ。今の俺は領主としての仕事に気持ちも体も集中したいからね」


「えっ、ちょっと待ってエリオ。今なんて言ったの?」

「あのー、私の耳にはゴドール地方の領主になると聞こえたのですが?」


「ああ、簡単に説明するけど俺はゴドール地方の領主になる予定なんだ。コウトの街の部隊長を辞めてゴドール地方に行きグラベンという街に住むつもりだ。だから君達も領主の俺の妻になる予定でゴドール地方一緒について来てくれ」


「え…エリオが領主に……あまりの驚きに何を言っていいのかわからないんだけど」

「サゴイに行って帰ってきたと思ったらエリオさんの妻になるのが決まったり、そのエリオさんがゴドール地方の領主になるなんて、私の頭は混乱して壊れてしまいそうです」


「ハハ、そうなった経緯は明日皆に集まってもらってしっかりと話すつもりだ。とにかく、君達は心構えだけでもしておいてくれ。それよりも料理の途中だったんじゃないか? 俺はお腹が減ったよ」


「いけない、忘れてた!」

「私も!」


 まあ、詳しい話は明日になってからだ。リタとミリアムは根掘り葉掘りと俺に聞きたそうだったが簡単に説明しただけだ。そうなるに至った詳しい経緯は個別で何度も説明するよりも皆に集まってもらって説明すれば一回で済むからな。


 リタとミリアムの手料理を美味しく頂いた俺は、その後二人に明日部隊へ出勤したら主だった人を集めておいてくれと頼んでおいた。最初にレイモン統括官に報告をしておかなくてはいけないので先にそっちへ向かう予定だ。それが済んだら俺の周りの親しい人に話しておかなければならない。


 この先も俺に付いてきてくれるのか……など、将来を決める選択をしてもらわないといけないからね。選んだ結果、俺から離れていくのもやむを得ないと思っている。出来ればついて来て欲しいけどね。


「二人の作ってくれた料理は相変わらず旨かったよ。それと俺の不在中の家の管理もありがとうな」


「美味しいって言ってもらうと作った甲斐があるってもんさ」

「エリオさんの留守中は窓を開けたり掃除も欠かさずやっておきましたよ」


「二人とも頼りにしてるからな」


「同じくらいあたしもあんたを頼りにしてるよ」

「エリオさん、遠慮せずにどんどん私を頼ってくださいね」


 リタとミリアムをそれぞれ自分達の家に帰して、俺はここ最近に起こった事を思い返してみた。サゴイの差配人のロイズさんから招待された事。サゴイへ行く途中に魔獣に襲われていた人達を助けた縁でイシムのカレルさんと兄弟分になった事。そしてサゴイの街でロイズさんと会い、いつの間にかトントン拍子で俺のゴドール地方の領主就任が内定した事。


 それだけでなく、俺の持つガウディという名に秘められた過去や、過去に綺羅星のように現れて広大な地域をその手に治め、歴史の表舞台で名を馳せた人物の血を俺が受け継いでいる事実。


 また、コウトへの帰り道でカレルさんと意気投合しただけでなく、俺の配下となって支えてくれると言われたのは驚いたけど嬉しかったな。


 さて、コルとマナを撫でて満足したら明日に備えて早めに寝ておこう。

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