第74話 出発準備

 サゴイの街に行こうと決めた俺は次の日には統括官に了承の返事をした。

 日程調整などをしながらサゴイへ行く為に予定を組んでいく。


 カモン達の事件を処理した後、再編などで少し忙しかったがそれも既に落ち着いている。コウトの街の近隣情勢も今のところ安定している。はっきり言って暇とも言える状態だ。北方面の地域にちょっと不安があるのが少しだけ気がかりだけどね。


 そういう訳で、俺は自分の住む借家でサゴイに持っていく服をどれにしようか悩み中だ。サゴイまでの道中はいつもの黒ずくめ装備で行くつもりだが、到着後に街の顔役である差配人と会う時はそれなりの服装をしておきたいところだ。


 それで、リタとミリアムが俺の家で俺の着る服を選んでるという状況なのだ。二人が言うには俺には服のセンスがないので普段から見ちゃいられないらしい。コウトの街の部隊長として恥ずかしくない服装で差配人と会いなさいと指摘されたのでその通りだと思ったのもある。


「エリオ、もう一度この服を着て」

「エリオさん、この服も着てみましょう」


 そう、二人が言うように俺には服装のセンスがないのだよ。ここに来る前はダムドみたいな田舎の街に住んでいたので服装になんて気を遣わなかったからね。二人に選んでもらった服を何度も着替えるという着せ替え人形状態になっている。とりあえず、会見時に着る正装の服を予備を含めて二着と、向こうの街中で着る平服の普段着を三着用意していく予定だ。


 それで、さっきから何度も服を着替えさせられているのだが、もうほぼ持っていく服は決まりかけてるのにこの二人はまだ着替えさせようとするんだ。しかも、服を着るのも脱ぐのも俺にさせずにこの二人がやろうとする。上半身を裸にして下半身を下着だけにしながら俺の体にべたべたと触ってくるしさ。美女二人に体を触られて邪な考えが浮かんできそうになるが二人とはまだそういう関係ではない。流れ的にそのうちそうなるのは確実だろうが今は出来るだけ思考の割合をそっちに分散させないようにしたいのだ。


「なあ、二人とも。そろそろ持っていく服を決めてもいいんじゃないか?」


「うーん、エリオの体をもっと触っていたかったけど仕方ないか」

「そうですね。もっと堪能したくて名残惜しいですけどこのくらいにしておきます」


 おいおい、もう二人とも本音を隠さなくなってきてるぞ。


 とにかくこれで着せ替え人形の役目も終了だ。二人に選んでもらった合計五着の服をバッグに入れて服選びが完了した。これで明日の出発に間に合いそうだ。二人ともありがとう。


「リタ、ミリアム。二人とも服を選んでくれてありがとうな。俺って服選びのセンスがないからとても助かったよ」


「エリオはそんなの気にしなくていいんだよ。普段は頼れる男だけど、たまに駄目な部分を見せる男が女にとっちゃ世話のしがいがあるってもんよ」

「エリオさんは全部人に頼ってしまう人と違って一人でも大丈夫なところと駄目なところが同居してるのがいいですよね」


 なるほど、二人から俺はそういう風に見られてるのか。リタとミリアムは普段の生活での俺の駄目な部分を補ってくれる存在だからな。親父が死んで一人きりで過ごしていた時に比べると、今は周りに俺を助けてくれる人がいて本当に助かる。でも、だからといって面倒なしがらみを気にせずに一人で行動するのも決して悪いもんじゃない。要はバランスの問題だ。


「エリオ、明日はいつ頃出発するんだい?」


「えーと、ガリン河の水運を利用して船に乗ってサゴイに行く予定だから午前中にコウトの街を出発する船に乗る予定だ。ミリアムが予約してくれたんだよな?」


「エリオさん、後で乗船券が届くはずですので失くさないように。コルちゃんとマナちゃんの分もその乗船券に組み込まれてますからね」


「ああ、渡し船は今までも普通に使ってたけど河の旅は俺も初めてだ。俺も少し調べたけど途中の中継地で一泊した後、次の日の早朝にそこを出て夕方前にサゴイに到着するらしい。途中で中継地に寄るのはそこから北西にガリン河の支流が流れているので荷物の積み下ろしの中継地点になってるのが理由だ。はっきり言って船便の主役は俺達じゃなくて荷物とその荷物を運んでくれる人の方かもな」


「そうね、あたし達が必要とする物を運んでくれる人がいないと困るもんね」


「うん、リタの言う通りだ。あの人達がいるおかげで俺達は何不自由なく暮らせる。荷物を運んでくれる人達には感謝の言葉しかない。コウトの街はすぐ横にガリン河という河が流れているおかげで水運が使える。陸上を行く荷馬車に比べて船は一度に運べる荷物の量も桁違いに多いしね。そもそも荷馬車ごと運べる大きな船もあるから便利なもんだよ」


「あー、そんな話を聞いてるとあたしもサゴイに行きたくなるなぁ」

「私も船旅には興味をそそられますので今回は残念です」


「ハハ、二人にはそのうちに埋め合わせをしてあげるよ。それはそうと、お土産は何がいい? 普段から君達には世話になってるから俺の小遣いで値段が高いものでなければ買ってきてあげるよ」


「あたしはサゴイの名産品の陶磁器の食器類が欲しい」

「私はティーカップのセットが欲しいです」


「陶磁器の食器類とティーカップのセットだね」


「エリオが買って来るのならどんな物でも嬉しいから自分で好きなのを選びなよ」

「お店の人がお薦めしてくれる何点かの品物の中で自分の好きなものを選べばいいですよ」


「わかった。自信はないけど自分で選んでみるよ。但し、二人とも俺が選んだとしても文句を言うなよ」


「貰う物も重要だけど、それよりも誰から貰ったかの方があたしにとってはもっと重要なんだよ」

「そうですよエリオさん。エリオさんが買って来た物なら何でも嬉しいです」


 そういうものなのか。まあ、出来るだけ二人に気に入られるような物を選んでこよう。その後、服を出して散らかった部屋を整理してくれたリタとミリアムはそれぞれの家に帰っていった。服を選んでいる最中は別の部屋に移動していたコルとマナも戻ってきたのでモフ分補給をして明日の出発に備えよう。

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