第73話 サゴイの街への招待に俺の判断は?

 サゴイの街の差配人が俺をサゴイの街へ招待して会いたいと言ってきた。

 そうレイモン統括官から聞かされた俺はサゴイの差配人の真意を測りかねていた。


 でも、俺の活躍が認められて周辺地域に名前が知られるようになるのは悪い気分ではない。活躍したい、他人に認められたいといつも願っていた底辺時代から考えると目覚ましい進化だ。俺に会いたいというのがその差配人のただの気まぐれなのかもしれないが、時間が許すのならサゴイという街にも興味があるし行ってみたい。


「わかりました。会いに行く前提で検討してみます」


 俺がそう言うと、レイモン統括官はほっとした顔で頷いた。


「サゴイの街への招待状に対して行くか行かないかの正式な返事は数日後で構わない。何度か会った事があるが少し変わった人でね。でも、あの人の人柄は素晴らしくて私も尊敬する人物だよ」


「ハハ、立派な人そうですね。行く前から緊張しそうだ」


「心配はいらない。君ならきっと大丈夫だよ」


 そして昼食会はお開きになって本部を後にした俺は、部隊に戻る途中の帰り道でさっき統括官と話した招待の話を受けてみようという気持ちが更に強くなるのを感じていた。何となくだが俺にとって大きな飛躍のきっかけになるような気がするからだ。


 部隊執務室に戻ると俺が統括官に呼ばれて行った顛末に興味津々のリタとミリアム達が、ドアを開けて部屋に入ってきた俺の姿を確認するやいなやすぐに近寄ってきて質問をしてきた。


「ねえエリオ、統括官との昼食会はどうだったのさ? ただ食事をしたって訳じゃないんだろ?」

「統括官がわざわざエリオさんを本部に呼び出してまで昼食を一緒に食べようなんて気になりますもんね」


 君達さ、野次馬根性が丸出しだぞ。


「エリオ殿、私も気になりますな。統括官とどんな話をされてきたのですかな?」


 まさかのラモンさんまで俺と統括官との昼食会が気になるのかよ。と言っても、リタとミリアムは興味本位での知りたがりで野次馬的なものだが、ラモンさんの場合は仕事面で何か重要な話があったのではという確認の質問であるからだ。さすがにラモンさんまで野次馬的な質問だったら驚きだけど、リタ達の緩い顔とは違ってラモンさんは真剣な顔付きだ。


「わかったよ、とりあえずそこの椅子に座ってくれ。順を追って話すから」


 俺が指差した先にはテーブルを挟んで向き合って置いてある椅子があるのでそこへ四人で座る。俺の横にリタが座り、向かい合う形でラモンさんとその横のミリアムが座った。


「最初に昼食を出されたので、統括官と差し向かいで食事をしたんだよ。そして食後には紅茶をご馳走してもらったんだ」


「エリオ、それって普通の食事会だったの?」


「まあ、そこまではね。紅茶を出された時に統括官が自分の娘の話を始めたので俺も少し身構えてしまったのはあったけど…」


「エリオさん、まさか統括官の娘さんとお付き合いするんですか!」


 おいおい、話が飛躍しすぎだぞミリアムよ。


「いや、そうじゃなくてその紅茶の葉を選んで買ってきたのが娘さんらしくて、親バカなのか知らないけど俺の感想を聞いてきたんだよ。それで、素直な感想を言ったら喜んでくれたって訳さ。それで娘さんの話はおしまい」


「なんだ、エリオがあたし達を捨ててその娘に鞍替えしようとした訳じゃなかったのか。それを聞いて安心したよ」


 あのね、捨てるとか鞍替えとか意味がわからないよ。


「それで本題はこれから。統括官からの話ではサゴイの街を差配している人物から俺をサゴイの街に正式に招待して会いたいとの要請が来たらしいんだ」


「ほう、それが統括官がエリオ殿を昼食に誘った理由なのですな」


「ああ、そうなんだ。サゴイの街については以前ラモンさんから簡単な説明を受けたよね。部隊長になってから地理関係と地図の把握はやっていたけど、実際にサゴイへは行った事もないし招待されたと聞いても最初はピンと来なかった」


「エリオ殿、私も街の名前を知る程度で詳しい訳ではありません」


「統括官の話では、コウトの街に青巾賊が襲来した時に俺達が寡兵で賊徒達を打ち破ったのが周辺地域全体に広まっているらしくて、サゴイの街にもその情報が流れているらしい。おそらく街と街を行き来している商人や旅人、冒険者や傭兵などの話があちこちに伝わっているのだろうね。サゴイの街の差配人のところにもその情報が伝わっているようなんだ」


「それでエリオ殿はどうするのですか?」


「そうですね、俺はこの招待の話を受けてみようと思ってます。色々な人物に会って話をするのは俺にとっても良い経験になりますからね。それにサゴイの街も見てみたいですし」


「そうですな。話を聞く限りとても友好的な感じを受けますし、何よりもエリオ殿という人物を世に広く知らしめる絶好の機会です。私も賛成ですな」


 ラモンさんは賛成してくれるようだ。暫く部隊を留守にしなくちゃいけないからあまりいい顔はされないのではと思ってたけど杞憂に終わったな。


「ねえ、エリオ。あたしもエリオと一緒に行っちゃ駄目?」

「エリオさん、私もエリオさんと一緒に行きたいです」


「いや、今回招待されたのは俺だけだから従魔の二匹を連れて一人で行くつもりなんだ。悪いけどリタとミリアムは留守を頼む」


「えー、エリオと一緒に行きたかったのにな…」

「エリオさんと一緒にサゴイに行けなくて残念です…」


「二人には俺の小遣いからお土産を買ってくるからそれで勘弁してくれ。あと、俺の留守中の部隊運営はカウンさんとラモンさんにお願いしてもいいかな」


「エリオ殿、私とカウンにお任せあれ」


 よし、これで後は統括官に返事をしたらサゴイの街へ行く準備をしないとな。酒豪のカウンさん達には酒を買ってきてやろう。ハハ、俺の個人的な持ち金からえらい出費になりそうな予感。

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