第49話 勝利はどちらに?

 俺の目の前には賊徒の首領とその側近らしき賊徒が数名いる。

 彼らもまさかこんなに早く自分達が追い込まれるとは思っていなかったのか、俺の姿を見て驚愕の表情を浮かべている。


 この戦闘が始まる前までは楽に一つの街が手に入ると確信して、商人に変装した俺から奪った酒を飲みながら宴会をしていたのだからな。それが急転直下、逆に自分達が危機を迎えているのだから驚愕するのも当然か。そして、賊徒の首領は俺の顔を見てある事に気がついたようだ。


「お、おまえは酒樽を運んでいた商人ではないか!」


「今頃気がついたのか。そうだ、あの時おまえ達に酒を奪われた商人はこの俺だよ。おまえ達が俺から奪った酒はさぞかし旨かっただろ? それと俺の演技も褒めてくれないか」


「クソッ、あれは我らを罠に嵌める計略だったのか!」


「ああ、俺はこのコウトの街に雇われて一つの部隊を率いている部隊長だ。商人に変装して酒をおまえ達に奪われたのも全て俺達の作戦だったのさ。まんまと俺達の策に嵌まってくれてありがとうな。礼を言っておく」


「クソッ、おまえだけは許さないぞ。例え我らがここで倒されるとしてもおまえだけは絶対に道連れにしてやる!」


 賊徒の首領は最後の悪あがきとばかりに俺を道連れに死なば諸共の構えだ。だが、俺は賊徒に道連れにされるなんて真っ平御免なので一方的に倒させてもらうつもりだ。まず、邪魔な側近達を首領から遠くに離そう。


『コル、マナ。賊徒の首領以外の相手はおまえ達に任せるからな。とりあえず周りの連中が邪魔だからどこかに吹っ飛ばしてくれ』


『主様、任せて!』

『エリオ様、周りの連中は私と弟にお任せください』


 二匹とも言うが早いか、賊徒の首領の傍にいる側近達に猛烈な勢いで体当たりをぶちかまして遠くへ吹っ飛ばす。ふっ飛ばされた側近達は首領とは離れ離れになり、この場に残されたのは俺と首領の二人だけになった。あいつらはコルとマナに任せておけば問題ないだろう。


「さあ、賊徒の首領よ。頼みにしていた側近達も居なくなったしここには俺とおまえだけだ。覚悟しろよ」


「うるさい! おまえのその口を塞いでやる!」


 憤怒の形相をした首領が手に持っている大剣を掲げて突っ込んでくる。

 さすが首領だけあって武力も高く素早く力強い攻撃だ。試しに暗黒破天の柄で受け止めてみると、ずっしりと重い衝撃が腕に伝わってきた。


 これは思っていたよりも強そうだ。それに首領が使っている大剣も全体が黒い色の大剣でかなりの大業物に見える。俺は自分を戦闘狂ではないと思っているが、武の達人の称号を得てから強い相手と戦う事に喜びを感じるようになっていた。もしかしたらそっち側へ足を踏み入れてるのかもしれないな。


「さすが賊徒を束ねる首領だけあってなかなか強そうじゃないか!」


「己の力を示してこの地位にまで成り上がったのだから強いのは当たり前だ!」


 首領はそう言うと、俺を倒そうと渾身の力で攻撃をしてきた。何かの流派なのか、攻撃の仕方も荒々しい中に多少の気品が見え隠れしている。だが、いくらもの凄い攻撃だとしても首領の攻撃は俺を倒すまでには至らなかった。首領の一連の攻撃を難なく受け止めた後は俺の攻撃の番だ。


「行くぞ!」


 自分の長柄武器を軽々と自由自在に振り回し、賊徒の首領に向かって攻撃を仕掛けていく。俺の攻撃に完全な受け身になった首領は必死に抗うが、俺がもう一段強さと速さを上げると堪えきれなくなって俺に大剣を弾き飛ばされてしまった。


 そして俺はその隙を見逃さず、首領に向けて暗黒破天を叩きつける。


「グォッ!」


 首領は短く悲鳴を上げた後、ゆっくりとその場に倒れていった。賊徒の首領を倒した俺はこの戦いを終焉に導く為に大きな声で叫ぶ。


「皆よく聞け! 賊徒の首領は第三部隊隊長のエリオット・ガウディが倒したぞ! もうおまえ達に勝ち目はない。それでもまだ抵抗する者は容赦しないからな! そうでない者はその場に武器を置いて大人しく降伏しろ!」


「ウオォオオオ!!!」

「隊長が賊徒の首領を倒したぞ!」

「やったぞ!」


 俺の勝ち名乗りを聞いて味方がどっと歓声を上げる。周囲を見渡すと、コルとマナが既に賊徒の側近達を倒していて俺を誇らしげに見上げており、味方の第三部隊と後から攻撃に加わった第二部隊が賊徒達の大多数を無力化したり捕縛拘束していた。


 よし、後処理としてここから零れ落ちた賊徒は第一部隊に任せよう。何もやらせない訳にもいかないからな。俺は右手を空に向けて上げ先程と同じように『光弾』の魔法を発動する。その合図を見た第一部隊が賊徒の残党狩りを行う手筈になっているからだ。暫くすると、カモンの第一部隊の面々がようやく姿を現して賊徒の残党を探すべくあちこちへと散っていった。


 ふう、俺達よりも数が多い賊徒達だったが、策も上手くいってほぼ完勝ともいえる結果になった。これは大勝利と言えるのではないだろうか。


『コル、マナ。おまえ達もよく頑張ったな。さすが俺の可愛い従魔達だな』


『主様に褒められて僕は嬉しいです』

『エリオ様からの褒め言葉。他の何よりも嬉しいですわ』


 そう言って、俺の元に戻ってきて体を擦り付けてくるコルとマナ。

 殺伐とした雰囲気がまだ残っている戦場の中でとても癒されるなぁ。


 そういえば、賊徒の首領が使っていた業物らしき大剣が気になったので探してみると、少し離れた場所に落ちていた。俺は近づいてその大剣を手に持って振ってみる。これは使いやすそうだ。俺がこの大剣を貰って使う事にしよう。悪く思うなよ。


 さて、仲間達は無事だろうか。

 もう一度周囲を見渡してみると、カウンさんとゴウシさんが遠くで俺に手を振っている姿が見えた。うん、あの二人は強いもんな。簡単にやられるはずがない。


「エリオさん。僕達の大勝利っすね!」

「ガッハッハ、賊徒達は酒に酔っていたのもあって口ほどにもなかったぜ」

「フッ、エリオが首領を倒したのか。俺も戦いたかったぞ」

「エリオ殿、我々の大勝利ですな」

「エリオ、あたしの活躍も凄かっただろ!」

「エリオさんやりましたね。私達の勝利です!」


 良かった。皆無事だった。

 見たところ誰も怪我をしていないようだし元気そうだ。


「この勝利は部隊全体の勝利だよ。皆の活躍のおかげで勝つ事が出来たからね」


 笑顔を見せながら全員頷く。

 そう、勝てたのは皆のおかげだ。


 勝利の余韻に浸っていたいが忘れちゃいけない。この戦闘で怪我を負ってしまった怪我人の治療にいかないとな。部隊の仲間達が頑張ってくれたからこその勝利なのだからまずは貢献してくれた部隊員の治療だ。


「怪我人の治療に行くぞ。皆も手伝ってくれ!」


「「「応!!!」」」


 こうしてコウトの街はエリオ達の見事な働きによって無事に守られたのだった。

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