第46話 賊徒からの降伏勧告
コウトの街へ賊徒の集団がとうとう近づいてきた。
賊徒は北にある街を落とした勢いで、このコウトの街も自分達の支配下に入れるつもりなのだろう。今まで大した諍いや争乱もなく永遠の平和が続くと思われていたコウトの街も、とうとうその安寧の時が破られ賊徒の前に最大の危機を迎えていた。
「報告します。賊徒が姿を現しました」
「頭に青い布を巻いています。各地を荒らしている賊徒に間違いありません」
「賊徒は街から少し離れた低い丘の上にテントを張り陣を敷く模様です」
次々に物見からの伝令が報告されていく。
街に近づいた賊徒達は行軍を止め、街から少し離れた低い丘の上に陣の構築を始めたようだ。多くの青い布を巻いた賊徒達が動き回りせっせとテントを張っている様子も報告される。
「エリオ殿、物見の報告では賊徒は私の予想通り街から少し離れた森を背にしたあの低い丘に陣を敷くつもりですな」
「そうだね、さすがラモンさん。まずは策を行う上で一つの条件をクリアしたようだね」
そこには索敵に特化した物見からの報告を受けるエリオとラモンの姿があった。
◇◇◇
その頃、賊徒の陣地では…
「あれがコウトの街か。街の様子を見ると金がたんまりありそうだ」
「俺達に恐れをなして門を閉じて街に引き籠もってるぞ」
「ここでも綺麗な女を抱きまくりたいものだな」
「おっ、今からコウトの街へ降伏勧告の使者が行くみたいだぜ」
その言葉通り、賊徒の使者がコウトの街の門前に立ち大声を出して街に降伏勧告を突きつけた。
「我らはこの世を正す為に立ち上がった義挙団だ! この街を牛耳る悪党から街の連中を開放する為にわざわざやってきたのだ。大人しく我らの勧告を受け入れて門を開いて降伏するか、それとも我らに楯突いて殺されるかどちらかを選べ! おまえらが街に閉じ籠もって出てこないのならこの周辺地域の住民や女子供がどうなろうがそれは住民達を見放したおまえ達の責任だ。我らに震えて閉じ籠もる情けないおまえ達に愛想を尽かした住民達はこの周辺でも今までのようにこぞって我らの仲間に加わるだろう」
暫くすると、門横の石壁の上に一人の人影が現れた。
「義挙団の皆様しばしお待ちを! 今、街の中には強硬派と穏健派がおり、戦うか降伏して門を開けるか議論の最中で意見が割れております。この街は穏健派の意見が多数ですが、強硬派を説得するまでに今暫く時間がかかりそうなのです。義挙団の方々には数日の間待ってもらいたくお願い申し上げます。無駄に街を力攻めして義挙団の方々に損害が出るよりも無血開城までお待ち頂いた方がよろしいかと存じ上げます」
「そうか、そういう訳なら待っていてやろう。我らの勢いを目の前にしてどちらを選べば得なのかは幼い子供でもわかるはずだ。我らも歩き詰めで休息が必要だ。この先の低い丘に布陣しているので降伏の決定が為されたならすぐに門を開けよ!」
そう言い放つと賊徒の使者は用は済んだとばかりに自分達の陣地に戻っていった。
そして、陣地に戻った使者は報告の為に賊徒の上層部の面々が集まっていた大きなテントに向かっていく。
戻って来た使者に対して賊徒の首領が問いかける。
「どうであった? コウトの街は我らの降伏勧告を受け入れたか?」
「へい、すぐには無理だと言ってましたが数日中には受け入れる予定だそうで。少数の強硬派とやらをどうにかすれば降伏して開門するって言ってましたぜ。街は戦う気がなく士気も低いと感じやした」
「フハハ、我らの威光に恐れを為して街は降伏するつもりであるか。面倒な戦いをせずともこの街が手に入るとは楽で良い。となると、我らは街の門が開くまでの数日間をここでただ悠々と待っておればいいのだな。一応街の周囲は見張っておけ」
「はい、わかりました」
側近達もいきなり本格的な戦いにならなくてホッとしたのか、それぞれの顔に下卑た笑いを浮かべて口々に喋りだす。
「お頭、街に入ったら強硬派とやらを見つけ出してすぐに殺してしまいましょう」
「そうですぜお頭。強硬派などはどうせ戦っても我らに殺される運命だったのですから見せしめにサクッと殺しておきましょうや」
「でもよ。もし強硬派に女がいたなら、殺すにしても俺達が飽きるほど陵辱してからにしてくださいよ。頼みますぜお頭」
「ああ、わかったわかった、おまえ達の好きにしろ。女も好きにしていいぞ。どうせこの街にいる女は全て俺達のものになるのだからな」
「さすがお頭、話がわかるぜ」
「女といっぱい楽しませてもらおう」
「ワッハッハ!」
賊徒達は既にコウトの街は陥落したも同然とばかりにはしゃぎまくっていた。
そして次の日。
昨日に続いて賊徒の使者が、説得状況の確認と今の街の様子がどうなってるのか確かめに門手前までやってきた。
「おい、誰かいるか!?」
そして暫くの時間が経過した後、昨日も賊徒の呼びかけに応じ顔を見せた街の交渉役が石壁の上に姿を現した。
「な、なんでございましょうか?」
「あれから街の状況はどうなっておる!」
「はい、強硬派も段々と折れてきまして彼らの説得にはあともう少しというところでございましょうか。街では義挙団様を受け入れる方向で大勢が固まりつつあります」
「そうか。我らと戦おうなんて考えは無謀で浅はかだからな。馬鹿な奴らほど己の力を過信して相手を舐めて油断した挙げ句に自滅するからな」
「本当に、本当にその通りでございます。明日には義挙団の方々に吉報をお届け出来ると確信しております」
「うむ、期待しているぞ!」
そしてまた昨日と同じく賊徒の上層部がいるテントに戻っていく。
戻ってきた使者がテントの中に入り首領に報告を始めた。
「お頭、街の交渉役の話では明日には降伏しそうですぜ」
「そうか、ご苦労だったな。こうしてみるとこの街もあっけないものだ。いや、我らの力の前ではどこも似たようなものか」
「ヘッヘッヘ。義挙団にいれば旨い物は食えるし金もわんさか手に入ってくる。女も抱き放題だしいい事尽くめだよな!」
「違いねえや!」
「ワッハッハ!」
そんな風に賊徒の上層部の連中がテント内で馬鹿話に花を咲かせていると、外から賊徒の仲間の怒鳴る声が聞こえてきた。
「そこの荷馬車よ、その場に止まれ。俺達に断りなくあの街に物資を運ぶつもりか!」
お頭達も何事があったのかとテントから顔を出してみると、商会の荷馬車らしきものが荷台に大きな樽を山盛りに載せており、丘の横にある街道をコウトの街へ向かおうとして仲間に呼び止められたのであった。お頭達もそこへ向かって確認の為に歩いていく。
「おい! おまえは商人か?」
強い言葉で呼び止められた商人はワナワナと震え、丘に陣取る青い布を頭に巻いた賊徒達を見て確認した後、蚊が鳴くような声でこう答えた。
「は、はい。私は商人でございます。お酒を仕入れてコウトの街に卸す予定でございます。今回は人の都合がつかなくてやむを得ず一人で来たのです。いきなり呼び止められてこの状況は何がどうなっているのか私にはわかりません。ですが、どうか命だけはお見逃しを!」
「お頭、荷馬車の積み荷は酒だってよ!」
「酒だ! 酒だ!」
それを聞いた賊徒達から大歓声が上がる。
「そうか……商人よ。我らにも少しは慈悲というものがあるつもりだ。だが、おまえの命は助けてやるが積み荷の酒はそれとは別だ。酒も我らに飲まれたいであろうからこちらで貰っておこう。酒を渡せばおまえの命が助かるのだぞ。わかってるであろうな。商人よ、我らの慈悲を有り難く思え!」
そして賊徒の一人が商人に剣を突きつけると、商人は馬ごと荷馬車を置いて一目散に来た道を逃げていった。その逃げ足はとても速く、あっという間にその場から商人の姿は見えなくなった。
「ワッハッハ、大量の酒も手に入ったし明日になれば街も降伏するしで誠に喜ばしい。おまえらよ、今日はこの酒で前祝いの宴会だ!」
「「「ウオォー!!」」」
賊徒の首領の宴会の宣言を聞き、歓喜に満ちた賊徒達の歓声が丘中に響き渡るのだった。
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