第45話 最終確認
賊徒がコウトの街へ向かって来るとの情報を得た俺達。
物見によると、明日には街の外へ姿を見せるだろうという予想だった。
今、部隊ではその対応で皆が動き回っている。武具や防具などの装備の点検確認をする者、回復薬や治療薬などの数や品質を点検して各隊員に支給している者。無事に帰って来たら的なフラグを撒き散らしている者など千差万別だ。
だが、不安を覚えているような隊員は今のところいないようで、笑顔もそこかしこに見受けられる。隊員の中には隊長と一緒だと何となく負ける気がしませんし隊長にはオーラが見えるんですよと真顔で言う者もあり、それを聞かされた俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。あと、俺の従魔の存在が皆の癒しになっているようで、コルやマナは戦闘以外の面でも大いに役に立っていた。
『コル、マナ。調子はどうだ?』
『主様、調子は良いですよ』
『エリオ様、私も問題ありませんわ』
『ハハ、おまえ達にも活躍してもらうつもりだからな。よろしく頼むぞ』
『主様の為に僕は頑張るぞ!』
『エリオ様の期待に答えられるように精一杯頑張りますわ』
フフ、二匹とも頼もしいな。
俺も部隊の状態のチェックの傍ら自分の装備を点検してみたが、部隊長の俺に支給されたマントや帽子の色が黒なので益々漆黒度が上がってしまった。まあ、戦闘ではマントも帽子も邪魔になりそうなので外すけどね。
そしてこの後、三つの部隊から代表三人ずつが集まって対賊徒の最終確認をするつもりだ。副隊長と参謀の二人を誘って指定場所に赴くとタインさん達は既に着いて待っていた。いつも早いよねこの部隊の人達。そして相変わらずカモン第一部隊長はまだこの場に来てないようだ。
正直なところ、彼らがいつ来るかわからないので待つのが面倒臭いから先にタインさんと打ち合わせをしておこう。どうせ第一部隊はこの策のメインじゃないしな。
「タイン第二部隊長。例の策ですが、くれぐれもタイミングを間違えないでくださいね」
「ああ、大丈夫だよ。君達の部隊が合図を出したと同時に動く手筈になっている。君達の初動さえ上手くいけば、私達の部隊も全力でいくつもりだから任せてくれ。それよりも君達の部隊に過度な負担がかかるけど大丈夫なのか?」
「まあ、部隊の負担がどれくらいになるのかはそれまでの仕込みの結果次第ですけどね。この作戦は何と言っても戦う前の仕込みが一番重要ですから。言い出しっぺの俺が言うのも何ですけど、上手く策が嵌まればきっと大丈夫だと確信しています」
「そうか、物見の情報だと明日にはコウトの街周辺へ賊徒が押し寄せて来ると予想されている。これを我々だけで撃退出来ればこの領内と街の名声と安全度は一気に跳ね上がるだろう。こちらの実力を大いに示す事で、この周辺地域では賊徒に参加したり加担しても無駄だと思わせるのが結果的に安全安心に繋がるからね」
「そうですね。その為にお互い頑張りましょう」
「勿論だ。お互いに頑張ろう」
タインさんとの打ち合わせも済んだタイミングで、こちらへ向かってくる足音が聞こえた。足音のする方向へ顔を向けるとようやくカモン第一部隊長がこの場所に到着したようだ。面倒臭そうな遅い足取りで不機嫌そうな顔をしている。
「カモン第一部隊長。お呼びして申し訳ありません」
こんな隊長でも一応筆頭隊長だからな。戦闘の前に気分を損ねて下手に口出しされて策が台無しになってしまうよりは、これくらいの態度で接するのが大人としての対応であり最善策というものだ。
「おまえらが俺の為に働いてくれるのなら、こうして顔を見せに来るくらいは問題ないぞ。それで俺の部隊は大勢がほぼこちらに決した時に満を持して出ていけばいいのだよな?」
「そうですね。一番危険度は低いと思いますのでカモン筆頭隊長はどっしりと構えていてください」
策が上手くいけばカモンさんには悪いけど、賊徒を倒した手柄や功績はリスクを背負って戦った俺やタインさんの部隊のほぼ独占になるだろう。今は余計な邪魔をされないように上手くあしらっておかないとな。
その後、部隊間で細々とした段取りの打ち合わせを行い、最終的な確認をして各々の部隊に戻る事になった。
「兄者よ。あのカモンという男の強さは本物ですが、よくあれで筆頭部隊長に選ばれたものですな。筆頭部隊長に選ばれた理由の実績とやらをいつどこで作ってこれたのか不思議でなりません。ラモンもそう思わないか?」
「エリオ殿。私もカウンと同じであの男の武の強さは認めますが、どうにも威圧感以外はこれといって人としての才や器を感じませんな」
「俺もそう思うけど、あの人は要領の良さや抜け目のなさはありそうなんだよね。ほら、要領よく人の功績を奪って我が物にして成り上がってくるような人ってたまにいるじゃないか」
「なるほど。言われてみればそうかもしれません」
あの人の人物評は多少の違いはあれど皆似たりよったりか。
まあ、それよりも今は賊徒の事に集中しないとな。
「カウンさん、ラモンさん。明日から忙しくなりそうですけどよろしく。俺達の力をガツンと見せてやりましょう」
「それがしは兄者の為なら何でもやる覚悟です。賊徒なぞ何するものぞです」
「エリオ殿を支えるのが私の役目ですからな。フフ、お任せあれ」
第三部隊の専用施設に戻るとベルマンさん、バルミロさん、ロドリゴの姿があり、俺達を見つけるとすぐにこちらに寄ってきた。
「ガッハッハ、部隊のお偉いさん同士の話は終わったかいエリオ?」
「ええ、さっき終わりましたよ」
「フッ、エリオの策はなかなか面白い。仕込みが上手くいけば寡兵でもおそらく勝てるぞ」
「バルミロさんを頼りにしてますから俺を助けてくださいね」
「フッ、当然だ。任せておきたまえ」
「エリオさん、僕も頑張るっすよ。皆で賊徒を蹴散らしましょう」
「頼もしいぞロドリゴ」
部隊の皆の士気も高いし俺達が負けるはずはない。皆、明日から頼むぞ!
そして翌日、とうとうコウトの街の外にも青い布を頭に巻いた賊徒の集団がその姿を見せたのだった。
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