第18話 家を失った実感
俺の家が放火の被害に遭い焼け出されてしまった。
近所の人達や衛兵に手伝ってもらって現場の後片付けを済ませやっと人心地が着いたところだ。火事の原因は放火らしいとの事で俺にはお咎めはないようでそれだけは本当に良かったよ。
「火事の原因が放火とはな…おまえさんもえらい災難だったな」
「人の家に火を付けるなんてとんでもないね」
「なあ、月並みな言葉だけど気を落とすなよ」
消火を手伝ってもらっただけでなく、後片付けも手伝ってくれた上に口々に労いの言葉をかけてもらい近所の人達には感謝の言葉しかない。
「皆さん、今日はどうもありがとうございました。俺の家から火事を出してしまって本当に申し訳ないです。手伝ってくれたお礼に何かしら謝礼を渡したいのですが」
「いいって事よ。あんたのせいじゃないんだからさ」
「そうだよ、あんたも火事の被害者なんだしな」
「ガハハ、金なんていらんよ。でも、久しぶりに明日は筋肉痛になりそうだぜ」
「それよりもあんたどこか行くあてはあるのかい? 泊まる場所を世話してあげようか」
「お気持ちは有り難いですが、これ以上皆さんに迷惑をかける訳にはいかないので自分で探しますよ」
「そうか。そういう事なら後片付けも終わったし俺達はそろそろ帰るとするか。とんでもない災難だったがくれぐれも気を落とすなよ」
口々に謝礼なんていらないと言いながら近所の人達はそれぞれ自分の家に帰っていった。その場に残されたのは俺と従魔のコルとマナ。いつまでもここにいても仕方がないのでとりあえず今日の寝床を確保しないとな。
「さて、ほとんどの金はバッグに入れていたから当面の間は暮らしていける余裕はある。スキルを取得してからは実入りも良くなっているので家がなくなっても生活するには困らないだろう。とりあえず今日の宿を探すか。行くぞコル、マナ」
『『ワオン!』』
だが、その後宿を何件か回ったけど行く先々で従魔を一緒の部屋に泊めるのは駄目だと断られた。困った俺は歩き回ってたまたま通りがかった古びた宿らしき建物を見つけた。道を箒で掃除していた向かいの家の人に話を聞くと、宿らしき建物の脇にある家がその宿の主人の本宅らしく、その人の話ではこの宿はもう既に営業していなくて近々取り壊す予定らしい。
断られるのを覚悟しながらその家を訪問してみる。その家のドアをノックして暫くすると人の良さそうな顔をした老人がドアを開けて俺の前に姿を見せた。
「すみません、家が火事で燃えて焼け出されました。飯とかいらないのでこの従魔共々泊めてもらえませんか。お金は払いますので」
火事で焼け出された事情を話してそう頼むと、主人は気の毒に思ってくれたようで俺の頼みを聞いてくれた。
「そうか、それは災難だったな。古い建物だから寝床はボロボロで部屋は汚いが、それでもいいならその従魔も一緒に泊まって構わないぞ」
「本当ですか? ありがとうございます」
案内された部屋は確かに汚かったが、屋根があるところに泊まれるだけで俺達には充分だった。主人に提示された激安とも言える宿泊費を十日分先払いしてようやく宿にありつけた俺は寝床が確保出来て心からほっとした。たまたま良い人に巡り合ったようだ。早速ベッドに腰掛け背中に背負った剣や身につけている革鎧などの装備を体から外す。
「はあ…しかし、まいったなぁ」
そう、今頃になってようやく家を失った実感が湧いてきたのだ。
小さいながらも今まで住んでいた家を失ったショックは大きかったようだ。
思い返せばあの家は、五年前に死んだ親父とこの街に来てから住んでいた家だ。
死んだ親父から受け継いだ形見みたいなものだから大事にしてたんだけどな。
俺が物心ついた頃には母の姿はなく、体格の良い親父に男手一つで育てられた。俺が小さな頃からいくつもの街を転々として最終的にここダムドの街に行き着いたのだが、その数年後親父は不治の病に罹ってあっけなく死んでしまった。
親父からは母は病で亡くなったと聞かされただけで名前くらいしか知らず、面影も何も母について俺は思い出せるものがない。親父はこの街で商会の荷受けや荷出しの仕事をしながら目立たずにひっそりと子供の俺を育ててくれた。今はその商会もこの街よりもっと儲かる別の街に移転してしまって既にこの街にはない。
親父がまだ生きていた頃に俺は、一通りの勉学やその他諸々の生きる為の知識や方法を教えてもらっていた。なぜか親父は様々な学問に詳しく、何でそんな事を知ってるんだと尋ねても笑って受け流していたものだ。
だが、そんな知識も一介の平民にとってはこの小さな街では使いようがなく、友人もなくコネも何もないのではっきり言って宝の持ち腐れでしかなかった。そもそも、親父はそれらのものをなぜか活かそうとすらしなかったからな。
親父の過去に何があったのか知らないし、親父もあまり過去を語りたがらなかったので、俺もそういうものだと思ってそれ以上は深く尋ねはしなかった。
そんな親父との思い出の家も今はない。
またあの土地に家を建て直すかどうかも決めかねている。
すぐにはそんな金も用意出来ないし、俺自身に問いかけてもこの街にずっと居たいかどうかもわからない。冒険者や傭兵などは一つの街に定住せずに街を移り住むのもよくある事だからな。
俺はたまたま親父が残してくれた家があったからこそ、親父が亡くなった後もこの街で活動していただけだ。そして今までずっと才能が開花せずに底辺の落ちこぼれだったので、どこにも行けずにこの街に居るしかなかったのだ。
とりあえず、家を建て直すかどうかも含めて今は金を稼がないと。
スキルを得てランクも上がったので、底辺の俺にもようやく道が開けてきたんだ。
今までの先行きが見えない状況に比べれば、今の俺は楽観的になれるというものだ。あと、俺には従魔になったコルとマナがいる。コイツらの姿を見るだけで暗い気持ちは吹っ飛んでいくってものさ。
「そうだよな、コル、マナ」
いきなり名前を呼ばれたコルとマナは『なになに? どうしたの?』という顔をして俺を不思議そうに見上げていた。
ここでふとコルとマナに聞きたかった事を思い出した。
滅多に見つからない宝玉をどうやって見つけてきたのか聞きたかったのだ。
「そういえば、おまえら宝玉はどうやって見つけたんだ?」
するとコルとマナは前足で床を掻くような仕草を始めた。
なるほど、この仕草だと地面を掘って見つけたのか。通常では見えない地面の下に埋まってたのだからそりゃ簡単には見つからないはずだ。
俺は宝玉が見つかりにくい理由の一つを知ってやっぱりそうかと納得したのだった。
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