第15話 インチキ呼ばわり

 自分の家に戻り、椅子に腰掛けながらギルドから渡されたギルドカードを手に取って眺める。そのカードには俺の名前とDランクの肩書きがしっかりと書いてあった。


 ずっと憧れていたDランクにとうとう俺は昇格出来たのだ。

 本当かな? まさか夢じゃないよな。


 これで俺も名実ともに底辺から脱出する事が出来たと思うんだ。

 今まで散々馬鹿にされていた辛い記憶が脳裏に蘇ってくる。


 宝玉でスキルを得た俺は、まだまだ経験不足とは言えとんでもなく強い力を手に入れた。だが、これで慢心してしまうようでは俺を馬鹿にしてきた連中と何も変わらない。調子に乗って他人を見下していると足元を掬われかねないもんな。徐々にではあるが、驕らずに地道にコツコツと経験を積んでいくのが当面の目標だ。


 今までは薬草採取がメインだったが、これからは少しずつ魔獣の討伐を垣間入れながら経験を増やしていこう。


 ふと足元を見ると、コルとマナが俺の顔を見上げて撫でて欲しそうに頭を近づけてきた。コイツらとはまだ出会ってからそれ程の日にちは経っていないが、まるで運命に導かれたように出来すぎの出会いで仲間になったよな。よくわからないがこれも神のお導きなのかね。


 二匹の頭を軽く撫でると目を細めて心地良さげにうっとりとした顔をしている。


『わうー』

『わうわう』


 今日は色々な事があったがいつもに比べて特別気分が良い。

 とりあえず、これからの予定は明日に備えて飯を食って寝るだけだ。


 ◇◇◇


 次の日から俺は薬草採取の傍ら、魔獣も探して戦うように心がけた。

 いつもとは違い、魔獣も出そうなポイントに向かったのだ。

 ブラッドベアーのような個の強さはないが、猪型の魔獣や鹿型の魔獣などが俺の目的の魔獣だ。


 まだ経験が足りない俺にとって最適な魔獣だと思ったからだ。

 午前中は薬草を集め、昼飯を食べたら少し奥に分け入りそれらの魔獣を探す。

 すると、うまい具合にお目当ての魔獣が前方を横切るのが見えた。


 コルとマナにここで待てと指示する。

 二匹にサポートしてもらう事も考えたが、暫くは俺一人で戦いの勘や経験を積みたかったのだ。まあ、もしも万が一危なくなったら二匹には相手の動きを邪魔してもらうつもりだ。


「コル、マナ。もしも俺が危なくなったらその時は頼むからな」


『『ワゥ』』


 二匹は俺の指示に頷いて小さな声で返事をした。

 そして待機の姿勢になって俺を眺めている。

 それを見た俺は前方に向き直り、お目当ての猪形魔獣ファングボアに向けて疾走を始めた。


 単独で食べ物を探しに来たのか一頭だけのようだ。

 呑気に歩いていたようだが俺が風下方向から目と鼻の先まで近づくと、ようやく気づいたのかこちらに大きな顔を向け戦闘態勢を取ろうと動き出す。


 だが、剣を引っ提げ既に攻撃の間合いに入った俺はそれを見て呟く。


「遅い!」


 ファングボアが大きな牙をこちらに突き出そうと構える前に、俺は右手に回り込み下からすくい上げるように太い首元を深く斬り上げた。


 何が起こったのかわからなかったかのようにファングボアは虚空を見上げ、その体を支える力を失って地面にドッと崩れ落ちた。


 俺は軽く息を吐き体勢を整える。

 先制攻撃が決まればこの程度の魔獣ならば一頭単位なら容易に倒せるのがわかった。次はあえて相手に先に攻撃させたり、複数の相手に戦うなど色々なパターンを試したい。


 血抜きをしてファングボアを処理収納した俺は次の標的を見つけにその場所から別の場所へと魔獣を求めて移動を始める。


 暫く野山を歩いていると遠くの方に鹿型魔獣のボーンレナードが複数で固まっているのを見つけた。複数相手の立ち回りを試すにはちょうど良い相手だ。


 ここらへんは小枝が多く落ちていてそれを踏みしめるたびに音がするので、さすがに気取られずに近づくのは無理そうだ。初のパターンだがここは相手に先制させてみるしかないか。そういえばなにげなく気がついたが、コルとマナからはどういう歩き方をしてるのか足音が聞こえてこない。


 足音を立てないで歩けるのは戦う上で有利に立てる条件の一つだ。我が従魔ながら地味にコイツら凄いな。でも、どことなく愛嬌がある風貌なので魔獣なのに見た目がそんなに強く見えないんだよな。


 さて、意識を前方のボーンレナード達に向けて戦闘態勢を整える。

 同じタイミングで向こうもこちらに気がついたのか三頭が一斉に向かってきた。


「コル、マナ! 散れ!」


 俺の指示を受けてコル達はその場から散らばり俺から少し距離を取った。

 俺達は散らばったがボーンレナードの攻撃目標は変わらず、頭から生えている鋭い角で突き刺そうと頭を下げ気味にして俺に向かって突っ込んでくる。


 俺は冷静にそれを見ながら即座に体を反応させて先頭の魔獣をヒラリと受け流しながら、二頭目の魔獣の前足をすれ違いざまに斬り飛ばした。


 間髪入れずに三頭目の角が俺に迫って来るのを側宙で躱し、着地した瞬間に足裏に力を込めて振り向き、俺に攻撃を躱されこちらに向き直ろうとしている三頭目の首筋に剣を振り下ろした。


 その攻撃は見事に決まり、三頭目の魔獣を幸先よく討ち取る。

 前足を斬り飛ばした二頭目の魔獣は後回しにして、最初に突撃してきた魔獣に向かって走る。まだ一頭目の魔獣は無傷だが単独の相手なら強くなった俺の敵ではない。


 突き出してくる角を剣で払い、スッと前に出て剣を首筋に振り下ろす。

 俺に首を落とされあっけなく勝負がついた後は前足を失い動けなくなった二頭目に近づいてとどめを刺して終了だ。


 最初に思ってたよりもめちゃくちゃ楽にいけた。

 そして、俺にはまだ十分な余力がある。


 その後、俺は二回ほど魔獣との戦闘をこなした。


「今日はこのくらいにしておくか。コル、マナ。街へ帰るぞ」


『『ワウン!』』


 周りに魔獣の気配がしないので切りの良いところで街に帰る事にした。

 倒した魔獣を処理してバッグに入れ街に向けて歩いて行く。


 ダムドの街に到着した俺はその足でギルドに向かう。扉を開け買い取り所の前に行こうと歩き出した俺に横方向から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。


「おい、待っていたぞこのインチキ野郎!」


 怒鳴り声の聞こえて来た方向を見ると、ガンツが顔を真っ赤にして俺を指差しながら大声で怒鳴っていた。


「エリオ! おまえは無能のインチキ野郎だ!」



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