うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人

第1話 笑われる無能底辺男

 ここはシウベスト王国の外れにある小さな小さな街ダムド。

 住んでいる人も少なくて周りに何もないような田舎の街だ。


 ◇


 窓から差し込む朝日の眩しい光で目が覚める。


 俺はベッドから起き上がり大きく伸びをする。

 ここはダムドの街の片隅にある小さな家。

 見るからにボロくて粗末な家だが、この家に俺は一人で住んでいるのだ。


 俺の名前は『エリオ』

 本当はもうちょっと長い名前なのだが、面倒なので普段は省略してるんだ。

 一応、この小さな街で冒険者の端くれとして活動中だ。髪は金髪でサラッとした感じの髪型。背はそれなりに高く体は引き締まっていると思う。顔は街のオバちゃん達からはイケメンだと言われているけど本当かな?


 この大陸には多くの国があり、過去には領土や利権が絡むと度々争いが起きていた。どの国でも権力を巡って王族や領主達の揉め事が絶えないという。だが、ダムドのような小さな田舎の街は世間からは取り残されていて、あまりその手の情報は入ってこない。


 とりあえず昨日の作り置きのスープを温め直し、パンと一緒に簡単な朝食を食べた俺は着替えを済ませて今日の仕事を求めに冒険者ギルドに向かう準備をする。そして、準備を終えた俺は家の戸締まりをして冒険者ギルドに向かって歩いていくのだ。


 家から暫く歩くと、街の片隅にシンプルで粗末な木造の無骨な建物が見えてきた。


 この建物こそがこの街にある冒険者ギルドダムド支部で傭兵ギルドも兼ねているのだ。太陽の光や風雨に曝されてくたびれた木の扉の上には剣と盾をモチーフにした紋章が掲げられている。


「はあ…」


 俺は溜め息を吐きながらギルドの扉を開けて建物の中に足を踏み入れて入っていく。そして、その足で今日の仕事を求めに依頼が貼られている掲示板に向かって歩いていった。冒険者ギルドの掲示板の前には、朝からこの街の冒険者が集まって自分の希望に合う依頼がないかと目を皿のようにしながら物色中だ。


 そして、俺もその連中達に混じって何か良い依頼はないかと掲示板を眺めていたその時、後ろの方から俺に向かって下卑た声が掛けられてきた。


「よう、無能冒険者のエリオじゃねえか」

「いや、違うって。薬草拾いのエリオだよな」

「ハハハ、底辺冒険者で荷物運びのエリオだろ」


 はあ、またかよ。


 毎度毎度の事で慣れてはいるが、こいつらは俺の姿を見かけると上から目線で罵りながら馬鹿にしてくる。最初に俺を罵りながら馬鹿にしてきたのはこの街を拠点にしている冒険者のガンツ。それとガンツに続いて俺を馬鹿にしてきた奴がガンツの仲間のバルクにゴイスだ。


 他の冒険者達の中にはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる者が多く、俺とガンツ達のやり取りを遠巻きに眺めている。そうでない少数の者はとばっちりを避けて顔を背けて黙ったままだ。


 冒険者や傭兵という職業は実力主義の影響が色濃い世界なので、自分よりも格下の者には自分の虚栄心を満たす為に思う存分威張り散らしてくる者が多い。そしてコイツらも例外ではない。勿論そうでない人も当然いるが、そういう人はこんな田舎街にはあまり来ない。なので必然的にこの小さな田舎街の冒険者や傭兵はお山の大将タイプの連中の吹き溜まりのようになっていた。


「うるさいな、放っといてくれ」


「おい、エリオ。無能のくせに態度がでかいぞ。おまえは必死に掲示板を眺めても無駄だろ? どうせ出来るのはいつもの薬草拾いだろうが!」


 そう言って俺を馬鹿にするガンツはこの街の冒険者。奴はDランク冒険者でもう少しでCランクも間近いのではと噂をされている。同じパーティーのバルクとゴイスもガンツと同じDランクだ。この三人の中ではガンツが一番強い。


「じゃあな、エリオ。俺達は今から依頼で隣街まで行くが、おまえは薬草をせっせと集めておけよ! フハハハハ!」


 俺に向かってそんな捨て台詞を言い放ちながらガンツ達は大声で笑いながらギルドから出ていった。



 残された俺は悔しいが何も言い返せない。

 そう、なぜならば奴らの言うとおりだからだ。


 冒険者や傭兵は階級が定められていて一番上がSランク。その下は順にA~Fとあって俺の冒険者ランクはEランクだった。

 Fランクは冒険者になったばかりの初級者が付くランクで、誰でも一定の依頼をこなせば普通にEランクまでは上がれる。


 だが、そこから先はギルドの審査でそのランクとして活動出来るだけの武芸や魔法を備えてランクに見合う魔獣を討伐出来たり、武装した野盗などに対抗出来るくらいの力がないと上位ランクには上がれない。


 Dランクになると、討伐依頼や護衛依頼の割合が増えてくるので、それなりの武芸の心得がないとギルドの方でも安心して冒険者に依頼を任せられないからだ。


 ただ、武芸に不利でも補助や回復系魔法の持ち主などはその方面での審査に通ればすぐに上がれてしまう。十万人に一人くらいしかいないと言われている回復系を持っている者はどこへ行っても重宝される。しかも、高レベルの回復系スキル持ちは軍を筆頭にどこでも超高待遇で招かれる。


 覚えるのが非常に難しいとされる補助や回復系のスキルや魔法持ちは、ただでさえ人口全体の割合から見て魔法取得者が非常に少ないのに、その中でも滅多にいないとされる回復系持ちは貴重な人材だからだ。


 大体の冒険者ならそのランクに見合ったスキルを身につけるのがお決まりのコースだ。日頃の活動の成果でスキルなどを取得して経験を積んだ後、審査に通る事によってDランクに上がれるのだが、碌な武芸も魔法もない俺はこの昇格条件が立ち塞がってずっとEランクに留まっていた。


 自分で言うのも何だが、はっきり言って俺は底辺の落ちこぼれ冒険者だ。

 俺自身にこれ以上の才能がないのか、それとも他に別の問題があるのか知らないが、身につけているスキルがしょぼくて弱いのがまぎれもない現実なのだ。


 つまり、俺はいつまで経っても上のランクに上がれる見込みがない底辺の無能落ちこぼれ冒険者という訳さ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る