魔王ガルゴンは乗馬好き

 俺はルナの魔眼に敗北した後魔王の元に向かった。

 魔王が口を開く。

「ウイン、元気になったと聞いたが、顔色が悪い」

 


「気にするな。用件を聞きたい。エムルの内政能力が必要か?」

「違う。テイムして欲しい魔物がいる」

「テイムか、俺とルナはテイム可能だ。ベリーもサポートに入れてテイムしてこよう」


「いや、エムルも連れて行くのだ。役に立つ」

「その話はいいとして、テイムしたい魔物はなんだ?」


 魔王が意地でもエムルをねじ込んでくる。 

 魔王に必死さを感じる。

 だが、押し付けられるのはよく思わない。


「エムルと共にスピードホースをテイムして欲しいのだ。スピードホースをテイムする事でアーサー王国ディアブロ王国間の交易、情報伝達だけでなく、開拓にも使える。出来るだけ多くのスピードホースをテイムして欲しいのだ。もちろんエムルも一緒に連れてだ」


 魔王は意地でもエムルを遠くに引き離したいようだ。

 そこにセイラが入ってきた。

 セイラはエムルを見ると顔を引きつらせた。


「ひい!し、失礼しました。ごゆっくり」

 セイラはドアを閉めた後走って立ち去った。

 斥候スキルで反応が分かるのだ。

 それ以前に足音を隠す気もない。


 セイラもエムルから逃げる為手段を選ばなくなってきている。

 普通ドアを閉めた瞬間に全力で走って逃げるか?

 


「馬を連れてくればいいんだな」

「スピードホースだ。それとエムルを連れて行くのだ。エムルは生息地を把握している。役に立つはずだ」


「馬を開拓現場に送ればいいのか?」

「スピードホースだ。ここに連れて来て欲しい」


「ウイン、乗馬は父の趣味なんだ。特にスピードホースが好きなんだよ」

 だからスピードホースにこだわるのか。

 魔王は自分用のスピードホースも欲しいのかもしれない。


「分かった。所で魔王、内政は順調か?」

「う、うむ、順調だ。エムルがいなくても問題無い!問題無いのであーる!」

 魔王の目にクマがある。

 本当に大丈夫か疑問だ。



「エムルが必要になったらいつでも言ってくれ」

「そうはさせないのだ!」


 今日の魔王はいつもより機嫌が悪い。

 俺はピンと来た。

 後ろに居るエムル・ベリー・ルナを見る。

 

 エムルはいつものようにニコニコしているが、何かを期待するように俺を見つめる。

 こいつは一旦無視だ。

 問題はベリーとルナだ。


 ベリーは露骨に目を逸らし、ルナは暗い顔をした。


「目覚めてから内政や今までの状況を聞いていなかった。俺の体の事を気遣って負担を減らすためのものだと思う。だが話してくれ。ベリー!」


 ベリーの体がビクンと跳ねた。

 ため息をついた後、観念したように語りだした。


「エムルはウインに怒られる為に種を撒いてきたわ。あわよくばお仕置きをしてもらう為にみんなの怒りを買って回っていたわ」


「はあ!はあ!僕にお仕置きするのかい!」

「黙れエムル!ベリー、続きを頼む」


「エムルはウインに怒ってもらうために結婚した女性を奴隷にする法案の提出や、魔王様やセイラを一日3時間睡眠に追い込んで内政を推し進めたわ。エムルが提案する内政のほとんどが必要な改革で誰も断れないようにして、その中にエムルの理想の法案を紛れ込ませて更に内政を混乱させたわ」


「止められなかったのか?」


「打たれ強いのよ。何度怒られてもどんなに叱られても、エムルを取り囲んで詰め寄ってもまるでゾンビのように復活するわ。いえ、まったく効いてないのよ」

「ドMだからな」


 ドMが!何やってくれてんだ!

 そりゃ魔王も怒るわ!

 エムルの精神力はあの性癖のせいで最強かもしれない。


「さあ、今から僕へのお仕置きを始めるよ!」

「黙れ」


「エムルは魔王様かセイラ、それか私達がウインに泣きつくのを期待しているのよ。とにかくウインの周りの人間皆に種を撒いてウインからエムルへの説教か怒りかお仕置きを貰う為奮闘していたわ。エムルは『内政が進んでしかもウインからお仕置きという名のご褒美を貰えて都合がいいんだ』と言ってやる気になっていたわ」


「魔王の機嫌の悪さとセイラの反応は全部エムルのせいか、エムルは連れて行こう。エムルには罰として怒るのもお仕置きも説教も全部無しだ。更にルナがレベル80以上になった時のご褒美も無しだ」


 急にエムルが怒り出した。

「それは横暴だよ!僕は頑張ったんだ!内政を進めてディアブロ王国の国民もアーサー王国の国民も幸せになったはずだよ!君はズルをしているんだ!理由をつけて僕へのご褒美を無かったことにしているんだ!!」


 どさくさに紛れてご褒美を無しにするのは当然だろ?

 都合がいい。

 正直エムルが何を言ってくるか恐怖しかない。

 肩の荷が下りた。


 俺はエムルの発言を無視して魔王と話をした。

「エムルが何かしたらポイント制でマイナスにしていこう。魔王やセイラたちの怒りや不幸を貯めたらポイントをマイナスにしてお仕置きとか無しにしていくルールだ。魔王の方で計算して集計して欲しい。とりあえず今マイナス100ポイントな」


 エムルがうるさいが無視だ。

 魔王は少し上を向き、右手で顔を抑えて涙を流した。

「う、うむ、さっきは怒ってすまなかった。どうかしていたのだ」

「気にするな。エムルだし」


「私も、こんな子に育てたいと思ったわけでは、くう、うぐううう!!」

 魔王が号泣した。


 最初は魔王が露骨にエムルを押し付けようとしてイラっとしたが、色々な背景があって魔王は追い詰められていたんだ。

 いや、エムルに追い詰められていた。


「エムルは変な事をしたらマイナスポイントを加算して、まともな行動を取ったらプラスにして欲しい。あまりにポイントが溜まったら俺達のパーティーから一旦抜けさせよう」


 エムルがウルサイがとにかく無視だ。


「出発しようか。一か月で起きた変化を移動しながら教えて欲しい。もう完全に呪いは消えた。気にせず教えて欲しい」


「分かりましたわ」

「ウイン!君はご褒美をどさくさに紛れてなかった事にしたいだけなんだ!」


「エムルがうるさいから夜はベリーとルナに添い寝してもらおう。エムルは一か月添い寝禁止な」

「そんな!酷いよ!」

「あんまりご褒美をやってもいけないな」

「それはご褒美じゃないよ!君は僕のツボを分かっていないんだ」


「出発する!!」


 出発した後後ろを振り向くと、魔王と、その後ろの文官が礼をして見送っていた。

 エムル、こいつどれだけ怒りを買ってたんだ?


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