ガーディー戦

 ガーディーを見ると笑っていた。

 いや、怒っているか。

 怒りと笑みが入り混じったような不気味な表情。


 だが、まったく怖くない。

 レベル100にも満たない雑魚に見える。

 ステータスを隠ぺいする魔道具を使っている可能性もあるが、ガーディーの動きが悪いし魔力の質も良くない。


 油断は禁物か。

 俺はショートソードを構えた。


「ウイン、ようやく貴様に一太刀浴びせる事が出来る」

 そう言って右手に大楯を構え、左手に短めの剣を持って大楯で突撃してきた。

 動きが遅い。

 一太刀なのにシールドラッシュか。


 俺は両手で持ったショートソードから右手を離し、一歩前に出て大楯を右手で殴った。

 轟音と共にガーディーがリングの隅まで下がり、地面にはガーディーが後ろに下がった時の足の跡が刻まれていた。


「ぐ、が、貴様!何をした!」

「パンチ」

「嘘をつくな!」

「パンチだ」


「そうか!スキルを使ったな!固有スキルの何かしらの能力、だが、そんな強力な技、連発は出来まい!」

 ガーディー、こいつはいつも思い込みが激しい。

 勇者パーティーにいた時は、勘違いで何度も怒られた。

 悪い事があると反射的に人のせいにする人間だ。


「何も変わらない。言っても無駄か」

 いや、前から何度言っても変わらなかったよな。

 ガーディー、お前はそういう奴だ。

 そして今も何も変わっていない。


 俺は、期待していたのかもしれない。

 変わっていたらいいと、心の片隅で期待していたのかもしれない。

 もうこいつは、ダメだ。


「何をぶつぶつ言っている!俺の固有スキルは聖騎士!防御力と回復力に優れる!貴様のスキルもヒールで回復できる!ヒール!」

「……そうか」

「恐怖が顔に出ている!見切った!その技は連発出来ないと見た」


 ガーディーはまた大楯で突撃してきた。

 俺はパンチで押し返す。

 ガーディーは後ろに飛ばされ、回復してからまた突撃してくる。

 ちょっとづつパンチの手加減をやめていくが、ガーディーは同じ行動を繰り返す。




「はあ、はあ、ど、どうだ!貴様の顔が絶望に変わっている。もう先は無いようだな」

 絶望しているのはお前にだ。

 先が無いのもお前だ。

 俺はショートソードを鞘に納めた。


「次の突撃で決める!うおおおおおおおお!」

「……少し、強く殴るぞ」


 俺のパンチでガーディーが後ろの壁に激突し、壁にめり込む。

 その後ガーディーがはがれるように地面に落ちる。


「……勝者!ウイン選手!!!」

「ま、まだだあああ!」


 ガーディーが立ち上がる。

「勘違いするなあああ!俺は本気を出していなああい!」

 そう言いながら頭から血を流す。


「聖騎士の力を見せてやる!キングガード!!」

 ガーディーの体を光が包む。

「この技は!俺の防御力を5分間5倍に上げ!更に傷をオートで癒す効果も追加されるううぅう!俺最強の技だああ!!」


「そうか、そうかそうか、5分間防御力5倍でオートヒール付きか。はははははははは」

「何がおかしい!いや、恐怖でおかしくなったか」

「いいや?そうじゃない。5分間もっと手加減せず殴れるだろ!?」


「ふ!何の冗談だ、そうか!会話をして時間切れを狙う気か!せこい奴め」

「そう思うならかかってきたらどうだ?」


 ガーディーに期待していた俺は馬鹿だった。

 悪に普通の対応は無意味。

 俺にはガーディーが異常者に見える。

 

「俺の突撃ラッシュを受けてみろ!うおおおおおおおおおおおお!」

 俺はガーディーの足をかけて転がした。

 転がるガーディーにジャンプして上からパンチを食らわせる。


 大楯の上からパンチを食らわせる。

 大楯の上から殴った方が手加減しなくていい。


 馬乗りになって大楯を殴る。

 地面にガーディーがめり込んでいく。


「お前は何でこの国にゴブリンを押し付けた!人が死ぬと思わなかったのか!!」

 俺は殴るのをやめて答えを待つ。


「マスコミギルドに嵌められたのだ」

 俺はガーディーから大楯を奪い取って遠くに投げる。

 ガーディーの顔面を殴った。


「そうじゃない!ここに押し付けたら人が死ぬ!なぜ押し付けた!」

「……押し付けないと、痛みが発生するブレスレットを、つけていた」


「……そうか、楽に気絶させてやる」

 俺はガーディーの顔、胸、腹を殴り、ガーディーの装備しているヘビーアーマーがへこんでいく。


 ガーディーが動かなくなり、俺は司会兼審判に目線を送った。

「ウイン選手の勝利です!」


 俺は歓声に包まれながら、マスコミギルドの闇の深さを感じていた。


 


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