【エムル視点】私のご主人様

「ウイン様、僕も魔法を使いすぎて苦しいんだ。魔力ポーションを飲ませてくれないかい?」

 ウインは魔力ポーションをエムルに渡した。


「側近には口に押し当てて強引に飲ませたのに僕には手渡すだけなのかい?不公平だよ!やり直しを要求するよ!」


「お姉さんはボロボロなのにポーションを受け取ろうとしなかったから。強引に飲ませたんだ」

「エムル様はウインに直接飲ませて欲しいのよ。そういうお年頃だから付き合ってあげて」


 ウインはしぶしぶと言った感じでエムルにもMPポーションを飲ませる。

「ふぉーー!みなぎってきたよ!」

「エムル様、満足しましたか?」

「そうだね!満足だよ!」






「服を返すわ、ありがとう」

「側近さんが着てた服か。なんかエロいな」


 側近は赤くして「洗濯して返すわよ!」とウインから外套を脱がそうとする。

 ウインは「お構いなく、お気になさらず」と一歩も引かない。


 はあ、はあ、やっぱり!

 やっぱりウインはS!


 その様子を陰から覗いていた村人が警戒を解いて3人の元に集まってきた。

 人間と魔族はあまり仲が良くないのだ。

 集まってきた村人を見たウインは、驚いた表情を見せた。


「魔族は怖いかい?」

「違う!村人がみんながりがりじゃないか!食べ物を食べさせるんだ」

「私たちが倒した分の肉はもらうわよ?」


「ん?俺が倒した分の肉も全部食べたらいいだろ。どうせ持って帰れないんだし」


「ありがたくもらうよ。その代わり魔石はウイン様の方で貰ってほしいんだ。それでウイン様、解体が終わるまで二人で話でもしないかい?」


「俺は熊を運ぶのを手伝う」

 そう言って森へと戻ろうとするが、私は離さない。

 絶対にどこに住んでいるか聞きだす。

 僕を奴隷にしてもらうんだ。


「ウインはゆっくりしていてね。エムル様、私ブラックベアを回収してきます」

「頼んだよ。」

 側近が熊を回収しに出かけて行った。


「ところで、そのウイン様ってのはやめて欲しい」

「嫌かい?嫌だったらもっと強い口調で僕に言うべきだよ」

「エムル、ウイン様はやめてくれ」

「もっと強い口調じゃないと魔族には伝わらないよ。人間族と魔族は文化が違うからね」


「エムル!ウイン様はやめろ!」

「もっと大きな声で言うんだ!」

「エムル!やめろ!」

「もう一回だ!」

「エムル!や・め・ろ!」


 最高だよ!

 彼は逸材だ!

 惜しむべきは周りにひどい事をしないように自分を律している事。

 僕にだけは本性をむき出しにしていいのに。


「なあ、こんなにしつこく言うのって意味あるのか?」

「はあぁっ、はぁ、はぁ、あ、あるよ、はっきりとした物言いは、だ、大事なんだ」

「エムルってなんだかドMみたいな反応をするよな」


「……」

「……」


「ふふふふふふ。所でウインは何才なんだい?」

「12才だ」

「僕の1つ上なんだね。丁度良い年齢差だね!どこから来たんだい?」

「デイブック民主国だ」


「お隣さんだね。付き合ってる恋人はいるのかい?」

「居ないな」

「僕が君の奴隷になろうか?」

「ははは、面白い冗談だな」


「……」

「……冗談だよな?」


「魔族の国ではね、種族によっては、結婚の代わりに、男が女を奴隷化して繋がりをもつ文化があるんだ。だから、結婚してほしいという意味と同じだと思ってもらって良いよ。文化が違って伝わりにくかったね」

「そう言うのがあるのか。でも急すぎるよな」


「僕はね、人を見る目には自信があるんだ。普通はお互いを少しずつ知ってから結婚したりするんだろうけど、僕は人を見る目を鍛えてきたから、ほかの人より先の事が見えてしまうんだ。だから、思考が先に行き過ぎてしまうのかもね」


 そこに側近たちが帰ってきた。

「ウイン。エムル様の言う事は、話半分で聞いておいてね。そういうお年頃だから。それと魔石を受け取って。それとさっきはありがとう」


「いや、解体の手間が省けて助かった。ではまた」

 エムルの手をほどき、ウインは走って帰って行った。


 エムルはしばらくウインの走っていく方向をしばらく見つめた。

「エムル様、彼の事が気になりますか?」

「そうだね。僕は彼の事が好きだ。」


「忍者ですかね?レアスキル持ちでも、あの若さであそこまで強い者は見たことがありません。もし死なずに生き残ったら、魔王様すら超えてしまうでしょう」





 側近は見誤っていた。ウインはレアスキルを持っていない。

 だが側近は、ウインの強さを見て、斥候スキルと戦闘能力の高さを兼ね備えた忍者であると勘違いしたのだ。

 そしてウインに威圧感を覚えていた。



 私は彼の走り去った方向をしばらく見つめた。

 デイブック民主国は食べ物に困ることのない国だ。

 おそらくウインはブラックベアを退治してその肉を食べさせればこの村の飢餓問題が解決すると思っている。


 この国の飢餓問題は慢性的なものだ。

 12才という若さもありそのことに気づいていないのだろう。

 その若さと強さのギャップが側近に恐怖を与えているのだろう。


 12才の子供が急に無双しだしたら怖いのは当然。

 でも私は違う。

 抗っても絶対に抵抗できない絶望の先にある幸福。


 私を強引に押し倒して……妄想が止まらない。


「僕はね、ウインの強さとSっぽい所にすごく惹かれるよ。側近にポーションを飲ませた時のあの顔、ぞくぞくするよ」


「エムル様、いい加減おかしな言動は卒業してください!」

 側近のセイラが少し怒りながら注意してきた。


 セイラの言葉を無視してウインの事を考える。

 またウインと会いたい。

 魔王の娘である僕を奴隷にしてほしい。

 努力しよう。

 強さ・礼儀・知識


 全てを磨いてウインに認められるんだ。

 わたしはにやりと笑みを浮かべる。

「僕のご主人様」

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