【ベリー視点】炎の剣聖

 ベリーは最近ため息が多くなった。

 ウインが追放されてから、ストレスが増えたのだ。


「これでこのパーティーはうまく行かなくなるわ」

 ベリーだけはウインの実力を評価していた。


 しかし、ベリーがウインの事を助けようとすればするほど、ブレイブは狂ったようにウインを攻撃する。


 ベリーはウインと二人だけの時以外は、あまり話をしなくなっていた。





 ベリーとウインは1年ほど前に強制的に勇者パーティーに加入させられた。


 それまで鳴かず飛ばずだった勇者パーティーは、ウインの固有スキル【キャンプ】と斥候ジョブのおかげでうまく行くようになっていった。


 ある日、勇者パーティーで野営をしていた時の事、


「ウイン、テントと焚火の用意ありがと」

 ウインが行った野営作業にお礼を言ったのがまずかった。


 私がウインにお礼を言った瞬間にブレイブの顔がゆがむ。

「は、下級ジョブが、せこい事をしてポイント稼ぎか。無能はもっと働けよ」


 聖騎士の固有スキルをもつガーディーも一緒になって批判してきた。

「ウイン、俺が戦っているおかげでお前は甘い汁を吸えているんだ。もっと努力して役に立ったらどうだ?」


 聖女の固有スキルを持つマリーは、我関せずと、自分の爪の手入れをしていた。

 ウインの事は、まるで召使いのように扱う。

「ウイン、飲み物が無いわ!早く出しなさいよ!誰のおかげで回復できてると思ってるのよ!それとさっきはあんたのおかげで私がケガをしたじゃないの!もっと仕事しなさいよ!これが終わったら見回りくらいはちゃんとしなさいよね。あんたはレアスキルの無い外れ人間なんだから」

 

 とにかく注文が多く、会話する時にウインと目すら合わせない。

 

 ウインが活躍しても認められることは無く、批判や八つ当たりをする対象となっていた。




 ウインと私は、食事のかたづけを終わらせると、周囲の索敵の為に見回りに行った。

 ブレイブ・ガーディー・マリーは見回りをしない。ウインが中心となって見回りをするのがいつものパターンなのだ。

 ウインと二人だけになると、私は気が楽になった。


 そしてウインに怒りをぶつける。

「ウイン、なんで言い返さないのよ!」

 私も今思えばウインに甘えていた。

 でもウインが言われっぱなしなのは嫌でつい言ってしまった。


「言い返すとさらに面倒になる。それが分かってるからベリーもあえて俺を助けず放置してるだろ」


「う、そうだけど、なんかもやもやするのよ。」


「ん、敵がいる」

 ウインが警戒態勢を取る。


 私たちは戦闘モードに入った。

 狼の魔物が7体。


「こっちが風上だ。一気に突っ込んで奇襲しよう」

 ウインの言葉に私は頷き、一緒に駆け出す。


 同時に狼に斬りかかる。

「うおーーーん」


 狼が遠吠えを上げるが、無視して一気に数を減らしていく。

「ベリー!狼が追加で右手から10体が近づいてくるぞ」


 私たちはお互いをカバーしながら、増えた狼も狩っていく。

 無事に敵を全滅させると、ハイタッチをした。

 ウインと私は相性がいい。


 狼の魔石を回収しながらまた二人で話を続けた。


「俺はこのパーティーを抜けようと思ってるんだ。俺が抜けようとしても反対はされない」


 だから言い返さないのね。

 もう居なくなるから言い返さなかったんだ。

 でも、それは嫌。


「抜けちゃうの?」

「もうベリー以外のメンバーと関わりたくない」

「私も抜けようかな」


「ベリーはマリーに嫉妬されてるからな。居心地は悪いだろ?ブレイブとガーディーはまだベリーには何も言わないけどな」

「うん」


 明らかにウインの方が嫌な思いをしているし評価されていない。

「それと、俺が抜けたらベリーが全部の雑用をすることになるかもしれない。そうなったらベリーも抜けた方がいいかもしれない」


「ねえ、二人無事にパーティーを抜けたら、一緒に組まない?」

 ウインは考え込み始めた。


「え?いやなの?」


「あれだ、ベリーはかわいい顔をしてるから、俺がベリー後援会の人につぶされる。二人だけだとまた話がおかしくなる」


かわいいって言われた。

私は赤くなった顔を隠してそっぽを向きながら言った。


「そんなことないわよ。」


「いやいやいや!分かってない。ベリー後援会は狂信者みたいな集団なんだぞ!あいつらマジでやばいんだって!しかもベリーって今13才だろ?」


「そうだけど何で?」

「ベリーがもっと大きくなってもっとかわいくなったらベリー後援会の力も増すんだ!やばいんだって!あいつらまっじでやばいんだって!」


「もしそうだとしても、他に人も入れれば大丈夫なんじゃない?4人パーティーとか」


「4人パーティーか。良いかもしれないな。次はまともな人を入れたい。固有スキルがレアかどうかは関係無く、人格重視でパーティーを決めたい。」


「私もそうしたい」




 二人で話をしているときは楽しかった。

 ウインは、レアスキル持ちではなかったが、私より強い。

 何回か魔物との戦闘で危ない目に合ったそうだ。

 かなり無茶なレベル上げをしてきたんだろう。


 ウインのジョブは斥候。

 斥候は、戦闘能力は強くないけど、索敵や隠密行動、罠感知などに優れる。


 私と同じ年で、ウインほど強い人を見たことが無かった。

 固有スキルが【炎の剣聖】の私よりウインの方が強い。

 しかも戦闘能力が高くない斥候なのにだ。


 魔法剣を使う私と索敵能力の高いウインは相性が良かった。

 二人だけで一緒に冒険出来たら、楽しいだろうな。

 一人でウインと冒険をする未来を思い描きながら私は現実逃避をして魔物狩りを終えた。




 ◇




【キャンプから数日後の宿屋】

「俺パーティーを抜けたいんだ。」

 ウインは街に帰ってすぐに切り出した。


「やっと自分の無能に気づいたか!」

ブレイブは口を歪めて言った。ウインと同じで私もブレイブ達と関わりたくない。私も一緒に抜けよう。


 ベリーは決心した。

「私もパーティーを抜ける!」


「ダメだ!ベリーはダメだ!」

「ウインが抜けるなら私が抜けても問題ないじゃない!」

「ベリーは選ばれた固有スキルを持った人間だ!ウインとは違う!」


「抜けるのは私の自由よ!」

「まず、脱退が決まってる俺から抜けさせてもらう。」

 ブレイブはウインの発言を今度は却下した。


「無しだ!脱退は無しだ!」

「は?俺は問題ないだろ!」

「私も抜けるわよ!」


「二人とも脱退は認めない!!」

 結局その後はグダグダになり、脱退はうやむやにされた。


 私があの時に抜けるって言わなければ、ウインは幸せな生活を送れていたのかもしれない。

 ウインには悪い事をしたな。


 私もしばらくしたらこのパーティーを抜けよう。

 次こそは、ウインと一緒に冒険するんだ。


 ベリーは自分の首輪をそっと撫でた。


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