魔界遭難記

MGRay

魔界に来てしまった少年

「くそ!あの野郎どこに隠れた!」


「あっちを探せ!」


怒声が飛び交うスラム街、ここでは日常茶飯事だが今回は普段とは違う  


「どうしたんだ?」


「人間が出たんだってよ」


「マジか!」


そう、この世界では人間は滅多におらず、殆どは異形の人外達が住人なのがこの魔界

この世界では人間はただの害獣であり、例えるなら人間の世界のゴキブリである


「ちくしょう…なんでこんな目に…」


そう、そのゴキブリが俺「飯田カイト」だ

そもそも何故俺がこんな所に居るのかと言うと理由は簡単、若気の至りと言うやつだ

路地裏に明らかに異質な裂け目があり、危険だとわかっていたのに入ったら入った途端裂け目が消えて戻れなくなり、化け物達に見つかってこの有様だ

逃げ足が早くて助かった…あんな化け物に捕まったら何されるかわかったもんじゃない


「これからどうなっちまうんだよ…」


「いたぞ!殺せ!」


「くっそ!!」


嘆いてるいる時間はない文字通り魔の手はそこまで迫って来ているのだから


「寄ってくんな化け物!」


そこらに置いてあるゴミ箱を倒したり瓶を投げつけて妨害するが、化け物達の中に壁を這ったり走って来る者も現れた


「マジかよ!」


「観念しろ人間!」


壁を這う奴の一人が投げたナイフが肩に直撃した、刃物が刺さった経験は無いが焼ける様な激痛が走る


「ぐぁ!」


あまりの激痛にその場に倒れ込んでしまった、しかし奴らはそんな事で待ってくれるほど優しくはない


「へへへ…やっところびやがった…」


「さてどう殺してやろうか…」


「ぐぁ……ひぃぃぃ!!」


恐怖のあまり身を縮めて目を閉じた、すると何やら小さな爆発音がするとさっきの奴らが咳き込み始めた、目を開けると白い煙が裏路地を塗りつぶしていた


「何が…起こって…んお!?」


誰かものすごい力で引っ貼られ、無理やり立たせられた、そして手を引かれてあっという間に追手を巻いてあらかじめ開けてあったのかマンホールの穴に入った


「はぁ…はぁ…ありがとう…誰かはわからないけど…」


「気にするな、同じ人間だ」


「え!?人間!?」


確かに体格も普通の人間っぽい余分な腕や足もない、それに奴らから助けてくれたから信じてもいいだろう

しかし…


(ボロ布のマントにターバンに口布…一体何者だこいつ…)


「とりあえずボクの家に来いよ、しばらくは面倒見てやる」


「お、おう…」


「ただし絶対にあの化け物共に捕まったり、見つかった状態でこの空間に入って来るなよ、お前のせいで家を失くすのは御免だ」


「なんだと!?」


少しカチンときて声を荒げるが奴は全く動じなかった、しばらく歩くと下水の匂いも大分ましになって来たそしてそこには廃材をくっつけた様ないかにもな家が壁の凹みにあった

家の中は多少散らかっていたが、その中から救急箱らしき物を取り出して肩の傷を軽く手当してもらった


「まぁ…とりあえず自己紹介くらいはしておこうかな…」


そう言ってマントとターバンを外しマスクを外す、カイトはその光景に驚いた、外見からはわからなかったが自分を助けてくれたこの人間は女だったのだ、顔はまぁまぁ整ってはいるが、髪は雑に切られており少し荒れていて少々残念な雰囲気になっていた


「ボクはアスカだ、人間同士よろしくね、呼び方もアスカでいいよ」


「あぁ…俺はカイトだ…なぁアスカ…この世界はなんなんだ…?人間は全然居ないし化け物ばっかりだし…」


するとアスカは箱からペットボトルを取り出してカイトに軽く投げた、まぁ座りなよと言い座らせるとアスカは話し始めた


「この世界は…魔界ってよばれてる」


「魔界…?あのゲームとかに出てくる場所みたいな?」


「あぁ、ここは本物の魔界だけどね、少し前に拉致って色々聞いたんだ、この世界の奴にね」


少々物騒な単語が聞こえたが、落ち着いて水を飲む、ペットボトルは再利用なのか既に蓋は開いていた


「まずこの世界に人間は本来居ない」


「何?じゃあなんで俺やアスカが…」


「なんでもここはスラム街だけど都心部の方には別世界を行き来できる空間の裂け目みたいな現象を起こす場所があるらしくてその誤作動でたまに全然関係ない場所に裂け目が生まれて、人間が迷い込んでしまうらしいんだ」


「そうなのか…じゃあ化け物…いやアイツらはなんなんだ?」


「魔人さ、身長の平均は2mで力も人間のおよそ倍以上、魔法を使うやつだっているし特徴的な身体能力を持つ奴もいる」


「俺が追われたときの壁を走ったりする奴とかか?」


「まぁそうなるね、因みにスラム街は魔法が使えないゴミカス共の掃き溜め、ボクも魔法を見たことはない、それと亜人って奴もいてそいつらは人間に近い見た目をしてるらしいよ」


そしてカイトは先程言った裂け目について聞いてみる事にした

するとアスカはこめかみを指でかき難しそうに答えた


「裂け目ねぇ〜確かにそこから帰ることはできるけど…ほぼ不可能に近いね」


「なんでだ?アスカなら忍び込んで軽く行けそうだけど…」


「ボクの戦法は魔法の使えない奴にしか通用しないと思うんだよね都市部の連中、それにそんな重要な場所を管理してる奴らをボク見たいな人間が出し抜けると思えない」


「そうか…でもまずこの街を抜けないとな…」


「それも無理っぽいね」


「なんにもできないじゃないか!」


立ち上がったアスカは色々な道具が入った箱を引っ張り出すと中身を漁り、その中から丸めた紙の様なものを取り出した

それをカイトの前で広げて見せた


「なんだよこれ」


「XOXO MCo .言ってしまえばこの世界を裏から支配しているギャングだね、これは縄張りを示すポスター」


「ギャング!?なんでそんな物騒な奴らが仕切ってるんだよ」


「理由は簡単、こいつらがべらぼうに強いから、詳しくは聞けなかったけどボスは神をも殺す事ができるんだって」


「神を!?神って本当にいるのか!?」


「まぁあんな化け物がいる世界だし、神様がいたって別に驚かないよね」


「はぁ……一体どうすれば…」


カイトが絶望に浸ってる間に貼り紙を箱に戻す、話す事も無くなったのかアスカはカイトを放って何かを弄っていた

そして約一時間の静寂の中、カイトの腹の音が鳴り響いた


「節操のない腹だね…」


「しょうがないだろ…原が減ったんだ…何か食べる物は…」


「ない」


カイトの質問に冷徹に即答する、しょうがないと思いカイトは受け取った水を流し込んだ


「まぁ…面倒見るって言ったのはボクだし…」


そう言って再び先程の姿になると、槍を引っ張り出し、家を出ようとする時カイトについてくるよう伝えると彼にはカギのついた棒を渡して家を出た


「なぁ…何処に行くんだ…?」


「狩場、ずっと飯の面倒を見れる訳じゃないからね、カイトにも手伝ってもらうよ」


しばらく歩くと再び強烈な悪臭が漂って来た、先程は気にならなかったが改めるとかなり臭う、するとアスカはカイトを止めて静かに指を指した


「あれだ」


「!?でか…」


思わず大きな声を出しそうになったがアスカに口を塞がれる


「バカ…!大声を出して逃げられたらどうする…!」


「しかしなんだよアレ…」


「下水に棲み着いて繁殖した下水ヘビ、今日の晩飯だ」


「アレを食うのか!?」


カイトはギョッとした表情でアスカに言った、しかしアスカは何の問題もない様にそうだよと答える、そしておもむろに槍を構えると腕に血管を浮かび上がらせ渾身の力で槍を投げると吸い込まれるように頭に突き刺さった


「すげぇ…」


「さ、その棒で水に浸かった部分を引っ張り出してくれ」


「え!?俺がやるのか!?」


「何のためにその棒を渡したと思ってるんだい?働かざる者食うべからずだよ」


「うぐ…やるよ…やりゃいいんだろ…」


そしてしぶしぶ下水に棒を突っ込んでヘビの半身をさぐる、しかし下水の中には色々な物が流れており、更にとても濁っているので中々半身を捉えることができない


「お!この感触は…」


ようやくそれらしい感触に当たり、腰を入れて棒を引き上げて見る、しかし引き上げたのはヘビの半身ではなくグズグズに崩れ腐臭を放つ何かだった


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


「うわ…」


それを見たカイトは腰を抜かし、アスカは眉をひそめた、そしてアスカは業を煮やしたのかカイトから棒をひったくり先程の肉塊を下水に捨てると手早くヘビの半身を引き上げると所々に紐を通した、そしてカイトを立ち上がらせると家に帰って行った


「アスカ…あれは何だったんだ…」


「あれば魔人の死体だ、下水の生物に食われたり腐ってたけどね、たまに死体の処理に困った連中がよく落としてくるんだよね迷惑な話だよ」


「そうか…それよりそれどうやって食うんだ?」


「魔人とは言え土左衛門を見てから食欲が消えてないとは君中々肝が据わってるね…まぁ…皮を剥がして洗剤でよく洗ってから徹底的に焼く」


「洗剤で!?」


まさかの調理過程に驚いたがアスカによると水洗いだとこの不衛生な下水生物を食べる事は難しいらしく、昔皮付きで食べたら3日程便所から離れられない生活をしたと言う


「まぁガンガンに約から"ある程度は"洗剤の味は消えるよ、安心しな」


家に帰るとアスカは早速ヘビの解体を始めた、捨てる部位を入れている箱はかなり臭う、そして肉を洗剤で洗い始めた


(泡立ってる…マジで洗剤で洗ってんな…)


「カイト!焼くから火つけといて!」


奥の部屋からのアスカの声と共にマッチが投げ込まれた、そして部屋を散策しガスコンロらしき所を発見した、大量の保存用の肉を抱えた通りがかりのアスカは適当に火の付け方を説明すると更に奥の部屋へと行った


「えぇと…ツマミをひねって…火を付けると…うわ!?」


割と簡単に火がついた、ガスコンロには青い火が連なっているのをカイトは少し見つめると、アスカに言われた通り大きな鉄板を乗せてごま油を引いた


「魔界にもごま油とかあるんだな…」


するとボウルに下味をつけた肉を入れて来たアスカが答える


「魔界の飯は人間の世界とそんなに変わらないよ、魔界独特の料理はあるけど」


そう言って鉄板の上に肉を全て乗せると、調理場は真っ白い煙に包まれた


「な!?ゲホ!ゲホ!なんだこの臭い…!」


「肉はボクが見ておくから離れてな、これは洗剤が蒸発してる煙だ、吸うと気分悪くなるよ」


口と鼻を抑えて早急に調理場を後にした、そしてさっきの部屋に戻ると大きく深呼吸をしてへたり込んだ、正直空腹で限界だった


「俺…この先やっていけんのかな…」


改めて考えると絶望的な状況である、敵は人間よりも遥かに強く、それもこの世界の住人の殆どが人間を敵視している、それにここは都市部と隔離されたスラム街で唯一行き来できる関所は魔界最大勢力のギャングが管理してるときた


そうして天井を眺めていると皿に山盛りに盛られた肉を抱えてアスカが戻ってきた


「どうした天井なんかぼ〜っと眺めて」


「あぁ…俺この先どうなるんだろうって思ってな…」


「ふぅん…まぁそんな難しい事は後にしてまずは飯だ、脳に栄養が行かないとバカになるよ」


そうして皿から肉を手に取る、肉からは湯気が立っていたが手で掴めるほどの暖かさだった、見た目は完全に漫画にであったが食べてみると想像していた味とは違い少し驚いた


「あれ…意外とうまい…」


「洗剤で洗ったとは思えないだろ、まぁ染み付いた洗剤を出し切るのに肉汁は全然残ってないけどね」


それを加味しても中々の味、例えるなら噛みごたえのある塩味で味付けした鶏肉と言った所、しかしたまに洗剤が抜けきれていない部位に当たるとひどいもので強烈な洗剤の臭いと酸味で余りの酷さにおえつする程だった、アスカもこれには耐性がつかないらしく二人共漏れなく洗剤漬けの肉に当たった


トラブルがありつつも食事を済ませ骨をバケツに放り込むと、アスカはこの街を脱出する計画をカイトに話し始めた


「出られるのか?この街から」


「可能性は限りなく低いがゼロではない、そしてこの作戦で重要なのがこれだ」


小さな机の上に棒状の機械を置いた


「これは?」


「これは魔導変身装置、この中には魔導電池が入っていて電池の魔力を消費して変身できる魔法道具だ」


この世界には魔法の代わりとなる、魔力を消費して苦手な魔法や使えない魔法、面倒な魔法を使うための魔法道具が開発されておりほぼ全世界に普及している、しかしスラム街には殆ど正規品は流通しておらず、あるのはジャンク品や改造された粗悪品ばかりであり、使い勝手は悪いが正規品を手に入れられたアスカは幸運と言えよう


「そうか!それを使って魔人に変身して関所を通るって作戦か!」


しかしアスカは厳しそうな表情をして、装置を手に取って説明した


「作戦的には合ってる、でもこの装置を使うにはいちいち変身する相手をこのカメラの部分で撮らなくちゃいけない、それも死体だと反応しないし関所を通るにはスラム街の魔人じゃなくスラム街に来るXOXOの魔人を生きたまま拘束して変身しなくちゃいけない」


「魔人と戦う方法はあるのか?」


「あぁ、今はしまってあるけどボクが改造して作った魔法武器がある」


「おぉ!ん?でもなんでこんなに準備万端なのにまだこんな所にいるんだ?」


「ふふふ…カイト、魔人ってのは君が考えてるよりもずっっと強いんだよ」


「!?」


今日何度目になるだろうか、しかしその衝撃は今まで受けた衝撃の中でダントツで大きかった

みぞおち辺りまで服をまくったアスカの腹には五百円玉大の穴があったと思われる傷跡と大きな開腹跡が残っていた


「驚くのは無理ないさ、この穴は魔法でつけられた傷でね、その時は終わったと思ったけど物好きな闇医師に治してもらったんだ」


「その腹の手術痕は…?」


「治してもらう代わりに小腸の一部を上げたのさ、まぁボクはこの通りピンピンしてるけどね!」


カイトは自分の考えの甘さを恥じた、考えてみれば魔法を使える魔人を人間が手を尽くした所でそう簡単に捕まえられる訳がない、ましてや世界を牛耳る組織の魔人だ、自分も無傷ではすまないだろう、しかし少女にばかり重荷を背負わせるのは自分の心が許さない、カイトは覚悟を決めてアスカに自分にも魔人の相手をさせて欲しいと頼んだ


「ん〜…本当に大丈夫かい?」


「あぁ俺もここを出たいんだ、アスカにばっかり頼ってちゃ申し訳ない、だから…頼む!」


「そうか…じゃあついてきな」


そう言ってカイトを奥の部屋へと連れて行く、部屋は真っ暗だが電気をつけると壁には使い方のわからない機械がたくさんぶら下がっていた、恐らくこれがさっき言っていた魔法武器だろう


「すげぇ…」


「組織の魔人が来るまで後3日、それまでに家にある武器と道具の使い方全部叩き込んでやるから覚悟しな」


早速武器を抱えて地上へ出る階段を登る、通る穴は凸凹でいかにも手掘りの穴だった、出た場所はゴミ山の空き地でそこには焼け焦げたゴミや鉄クズの的が置いてあった


「凄いな…」


「ここならどんなにでかい音を立ててもゴミが爆発したとしか思われない、さぁ始めるぞ」


そう言うとアスカはカイトの腕に持ってきた武器をはめると、何かに背をついてもたれかかる様に言った


「なんでだよ?」


「まぁわかるさ、ストックの部分はしっかり持つ事、あとは狙いを定めてトリガーを引くだけ、簡単だろ?」


「あ…あぁ…」


「そんじゃ離れるから撃ってみな〜」


アスカが物陰に隠れたタイミングで武器を構える、言われた通りストックをしっかり握り肩に構える、簡素なサイトから鉄クズを狙いトリガーを引いた


バチッ!ドッ!


一瞬の出来事だった、大きく開いた銃口から放電したかと思ったら野球ボール大の電気の塊が飛び出して鉄クズを木っ端微塵に吹き飛ばしたのだ、その反動は凄まじく何かにもたれかかっていなければ派手に後ろに吹き飛ばされていただろう

そしてなにより


「ツ〜〜〜〜!?いッッッてぇ〜〜!!!」


武器の衝撃は凄まじく、幼い頃うっかり転んだときに腕で支えた時に肩が外れた時の痛みを思い出した


「くぅぅぅぅ…なんてもの撃たせるんだ!」


「まぁまぁ心配するなって、それは最終手段だから滅多な事にならない限り打たないから」


そう言って武器を外すと、2つ目の武器を渡した、先程の大砲よりは小ぶりで、銃口は水平に穴が空いていて、大きめのタンクがついていた


「これは反動が弱いから片腕でも撃てるよ」


「なぁ、このタンク何が入ってるんだ?」


「水だよ、ほぼ無限に撃てるから便利なんだよね〜電池は食うけど」


改めて構えて的を狙う、さっきの痛みが少し残ってるが構わずトリガーを引いてみると軽く押された程度の反動と共に水が発射された

水の弾に当たった的は半分殆ど切り裂かれ、向こう側が見えていた


「凄いな…水のカッターみたいなもんか…」


「最後はこれ!まぁ使うまでもないね」


取り出したのは上の穴に縦の穴が空いたゴツゴツした棒、ボタンを押すと上の穴から圧縮された空気が吹き出され、横薙ぎに振るとゴミを切り裂いた


「シンプルだろ?」


「なるほど…風のブレードか…」


「大砲が一番電池を食ってこいつがあまり食わない、どうだ?大体使い方はわかったか…ん?」


「どうした?」


「静かに…足音が聞こえる…」


耳を済ましてみるとゴミを踏みつけ、ガラス片の割れる音や鉄がぶつかる音が僅かだが聞こえる、そしてその足跡の主をアスカが目視で確認すると何故か安堵のため息をついた


「ふ〜…安心しろ、味方だ」 


「おや〜?病院の裏が騒がしいと思って来てみれば〜…アスカだったのか〜」


アスカが味方と言ったのは身長が230は超えていそうな白衣をまとった爬虫類の様な姿をした中年の魔人、袖のまくられ露出している腕はとても太く鱗に覆われていた、チラッとだが尻尾も見えた


「紹介しとくよ、この人は久保田先生、ボクの恩人でこのスラム街では珍しい魔法を使える魔人さ」


「んお〜?仲間か〜い?」


「カイト…ッス…よろしく…」


「んあ〜よろし〜くね〜、と言う事はアスカ〜遂にここから脱出する気だな〜」


「あぁ…この武器と変身装置を使って…」


すると久保田はゴミ山からプラスチックの箱を掘り出すとそれに座り、ポケットからよれて曲がったタバコを真っ直ぐにして加えると話し始めた


「ふふふ…甘いな…」


「でも…こんな強力な武器なんだ…いくら魔人だからって…」


カイトのその言葉に久保田はクスクスと笑い答える


「小僧〜、確かにその大砲は鉄のゴミも木っ端微塵にできるが〜、お前が思ってるより魔人の体は頑丈だ〜、魔法使いなら魔法を弱める方法も知ってるし〜所詮魔法武器の魔法は本来の魔法の下位互換にすぎな〜いぷは〜」


「でもこっちには手数の多い武器だってあるし…なんでも切っちまう武器だってある!魔人だからって…効かないことは!」


「まぁお前らが魔法使いに殺されようが俺の知ったこっちゃないが〜…まぁ〜生意気なこいつに免じて余った電池をくれてや〜る」


「助かる先生」


「あんまり騒がしくするなよ〜?」


そう言って久保田は去っていった、後にアスカから聞いた話によると、久保田先生は都市部の生まれで魔法も人並み以上に使えたが、都市部に不自由さに嫌気がさして自らスラム街に渡り、こうして闇医者をやっていると言う


「凄い人なんだな…ところで…そのでかいダンボール…もしかして全部電池か?」


アスカは久保田から受け取ったダンボールを漁っていた


「うん、仕分けされてないからちょくちょく電池切れのも混ざってるんだよね」


魔導電池の残量はメーターでわかる、そして専用の道具を使うと残量の少ない電池から他の電池に魔力を移す事ができるらしい


「それでそれで何本分くらいなんだ?」


「ん〜ざっと15本、今回は多い方だね」


黙々とスラム街脱出に向けて準備を進めた、そして完成した荷物は思ったより少なく、殆どは電池と金目の物と食料だけだった


「なるべく少なくしないとね、万が一逃げる時に超重量の荷物は命取りだ」


「遂に明日だな…」


「あぁ…今日は早目に寝よう…くぁ…」


そう言って二人は床についた、しかしカイトは寝落ちるまで明日への不安に苛まれていた

そして朝、二人は荷物を持ち身支度を整え地上へ出た

アスカ独自の魔人に見つからないルートを通り廃墟に入り、そこの窓から望遠鏡で辺りを見渡した、するとアスカは小さく呟いてカイトに望遠鏡を渡して標的の魔人の二人組を見せた


「見てわかるだろ?」


「あぁ…明らかに服装が違う…」


周りの魔人達はボロ布の様な服を着ているのに対して組織の魔人はまるでヤクザの様なスーツを着ていた、しかし姿は他の魔人と同様に異形で片方は4本の腕をもっており片方は額と頬にも2つずつ目を持つ六つ目の魔人だった

カイトから望遠鏡を取り上げると、アスカは水弾銃を渡してカイトに尋ねる


「覚悟はいいかい?」


そしてカイトはその質問に力強く答えた


「もちろんだ!」


魔人への恐怖が無くなった訳ではない、魔法は怖いしとんでもない身体能力を持っているかも知れない、しかし自分はここから脱出する、その強い意志を覚悟が塗り固めた

作戦開始である

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る