王都に戻ろう②

「さあ、チユーブの街に戻るぞ」


 川でカエルを2匹テイムした。着替えが終わって戻って来たワッキさんがカエルを見てキョトンとしてた。


 「なんでカエル?」って聞かれたんだけど、それは僕が聞きたい。だって、テイムするつもりじゃなかったんだもん。テイムに誘ったポヨンに聞いて欲しい。


 そもそもこのカエルが魔物だって知らなかったんだ。ワッキさん曰く、「このカエルは蛇使いテイマーが『従魔の蛇の餌に』ってよく取ってる魔物」と言うことだった。最近、王都では空前の蛇人気なんだって。だから蛇使い向けにこのカエルの販売もされてるらしい。「餌をテイムしてどうするの?」だって。


 テイムしてしまったものは仕方ない。だから僕の両肩はこのカエルたちの居場所ということにしてあげた。二匹とも喜んでいるのが伝わってくる。でも頭の上のポヨンまで喜んでるのはなんで? もしかして僕と二人だけだったのが寂しかったのかな。


 馬の近くでポヨンとカエルが遊んでるのをほんわかしながら見ていると、ワックさんとコ・ジーマさんが戻って来た。全身に絡みついている糸を鬱陶しそうに何度も払っている。ワッキさんが銀色のナイフでその糸を慎重に切り落としていく。時間はかかったけど、なんとか糸は棒にぐるぐる巻きにされた。


 どうやら蜘蛛退治に失敗したらしい。コ・ジーマさんが火魔法を使おうとすると、四方八方から一斉に糸を浴びせてきたらしい。さすがのワックさんもそれには対処できずに糸を被ってしまい、撤退してきたそうだ。


 みんなが途方に暮れる中、一人ポヨンがポヨンポヨンと動き出す。そして蜘蛛の巣を巻き付けた棒のところまで行くと、蜘蛛の巣の部分だけをスッポリ覆う。そして始まるシュワシュワシュワワーン。棒の先から蜘蛛の巣だけがきれいさっぱりなくなった。


 それを見ていたビーゼンメンバーが静寂に包まれる。だれも動かないし、瞬きもしない。ただポヨンが残していった蜘蛛の巣のなくなった棒を見つめている。全然動かないから息をしているのか心配になってきた時、


「うおおおおおおおー--っ」


 4人から雄叫びが上がった。





 で、今、僕たちは王都ではなくチユーブの街に戻って来た。周りはもう真っ暗。戻ってきた理由は、プルン分隊の迎えだ。「プルン分隊25名で山の蜘蛛の巣を一掃しよう」って計画だ。でも今日はもう遅いから領主館に泊まって明日の朝一番に出発だ。


 夕食中はスライムの話でもちきりだった。まず、「山に蜘蛛の巣を巻いた棒が溜まっていかないことを不思議に思うべきだった」って。ワックさんの予想ではあの山にもスライムがいるとのこと。「テイマーにスライムをテイムしてもらって馬車の護衛として雇うべき」だって。


 それに返すワッキさん。「スライムをテイム出来るテイマーなんてミーノ以外にいるわけない。スライムは人間の雰囲気を敏感に感じ取る。だから一度でも魔物を討伐した人間には近づいてすらこない」だって。


 それに真っ向から反論するワックさん。「プルンは俺に懐いてる、一晩一緒に寝たこともある。だからテイマーも出来るはず」って。いつの間にか森から連れて来たプルンを膝の上に載せている。


 二人の言い合いが続いたから僕がこっそりポヨンに聞いてみた。そしたら「ワックさんは心が子供だから」って。僕がそれを言ったらワッキさんが転げ回って笑ってた。


 その日は僕はポヨン枕、ワックさんはプルンと添い寝で一晩を過ごした。




 そして翌日朝早くにチユーブの街を出発した。4頭の馬それぞれの両脇には袋が下がっている。その中にプルン分隊が3人ずつ入ってる。合計24名が袋の中に納まった。1人足りないのはプルンがワックさんの肩に乗っているからだ。


 そのまま馬で疾走すること数時間、お昼前には山の麓に到着する。袋から続々と姿を現すプルン分隊。プルンが先頭でその後に4人の班長、その後ろにそれぞれ5名の班員が従う。そんな整然とした隊列を見て驚きの歓声を上げるビーゼンのメンバーたち。


 ワックさんとコ・ジーマさんがプルン分隊を引き連れて蜘蛛の巣駆除の任務に当たる。今度は僕も一番後ろからついていく。ポヨンがプルン分隊の活躍を見たいらしい。ポヨンは責任感もあるんだな。さすが隊長だ。


 山の中でのプルン分隊の働きは凄まじかった。ポヨンポヨンと地面だけじゃなく木にも登る。木の枝の先まで進んで枝のしなりを利用してポヨーンって跳ぶ。空中の蜘蛛の糸をまとめて絡めとってシュワシュワシューワー。


 シュワシュワしながら次の蜘蛛の巣へ移動。そしてシュワシュワ。もう24名がずっとシュワシュワしてた。そしてプルンから出される的確な指示。各班が四方向をしっかりと意識しながら自分の持ち場を綺麗にしていく。


 プルン隊の進んだ後には蜘蛛の糸は一本も残されていなかった。ワックさんもコ・ジーマさんもプルン隊の活動現場を初めて見て、口をポカンを開いて涎まで垂らして眺めていた。


 どんどんきれいになっていく山。すると今度は蜘蛛の群れが現れた。蜘蛛は素早い動きでプルン隊に襲い掛かる。プルン隊はプルンの指示のもと班ごとに輪になってお互い後ろを守りながら構える。4か所に固まったスライム達にそれぞれ蜘蛛が5匹くらいずつ飛び掛かる。飛び掛かりながら空中に拭き出される蜘蛛の糸。固まったスライム達の上に蜘蛛の糸が白い布のようになって覆いかぶさる。


 プルン隊も待っているだけじゃない。上から覆ってくる蜘蛛の巣を溶かしていく。でも5匹の蜘蛛から吹き出される糸の量は半端じゃない。プルン隊が溶かす以上の速さで上から糸が被せられていく。


 そして糸が互いにくっついていき、プルン隊は蜘蛛糸の白い布に完全に覆われてしまった。白い蜘蛛糸の布の下でもごもご動くプルン隊だけど、吹きかけ続けられる糸がプルン隊の脱出を妨げる。


 どうやら、完全にプルン分隊は拘束されてしまったようだ。さすがのプルン分隊長も隊長のポヨンに助けを求めに来た。ポヨン隊長はポヨンポヨンと蜘蛛に向かっていく。蜘蛛が5匹ポヨンを狙って襲い掛かる。ポヨンはそれを見て踵を返して逃げてくる。


「え?」


 思わず僕も口に出す。ポヨンを追って5匹の蜘蛛が僕を目指してすごい速さで近づいてくる。ポヨンはなんとか僕の足元まで来ると僕の頭の上に跳び乗る。いやいや、ポヨン隊長。何してるの。ちょっと。


 蜘蛛が糸を吹きながら僕に飛び掛かる。5匹同時だ。どうするの、ポヨン。


 目をつむる僕。



 ケロケロ。


 数秒後、体に何も感じないのを不思議に思って目を開けると、目の前にいるはずの蜘蛛がいなくなってた。そして両肩で何かが動いているのを感じたから見てみると、2匹のカエルが口をもぐもぐと動かしていた。




 ―――――

ミーノ(跳兎級テイマー)

 従魔:ポヨン隊(スライム50体)

     プルン分隊(森探索中)

     ポヨヨン分隊(美容サロン手伝い中)  

    カエル2匹 new!


 持ち物:赤い宝石・無料馬車券・チューブダンジョン

 同行者:ビーゼン(銀虎級)


0317最後尾に現況追加

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