月影
霧山田 白亜
月影
とある冬の月がきれいな夜。寒さのせいか耳の奥が痛む夜。並んだ一組の男女が歩いている。
男がふと「月が綺麗だ」と何の気なしに放つと、女は「え、それって告白?」とおどけたように尋ねる。
「いや、そんなつもりはないよ。でも君がそう受け取るならそれは君の自由さ。」
「なにそれ、じゃあもう一緒にいてあげないよ。」
「つまり別れるってことかい?別に構わないよ。僕は一人でも大丈夫だからね」
男がまっすぐ前を見ながら答えると女が男の手首を掴み立ち止まる。
男が振り返ると女は目を潤ませている。
「ごめん、もうそんなこと言わないから。何があっても、私は一緒にいるから」
男は答えた。
「ごめん、嘘をついてた。本当は君のことが好きだよ。片時だって離れてほしくはないさ。でも少しは本当のことも言ったよ。僕はもう一人でも大丈夫なんだ。だから手を放してくれないかい。そんなに強く掴まれてちゃ、僕が前に進むのに少しばかり重たいから。」
男がそう告げると、女は少し寂しそうに、黙って手を放した。
そして男は再び前を向いて一人歩きだす。
とある冬の月がきれいな夜。寒さのせいか手首の古傷が痛む夜。気づけば一人の男だけが歩いていた。
月影 霧山田 白亜 @kiriyamada_hakua
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