第2-13話 呪いは日常を蝕んで
ナツキは一番風呂をアカリに譲った。彼女がお風呂に入っている間、ヒナタは何も考えていなさそうにバラエティ番組を見て笑っていたが……ナツキはこれからのことを考えて気が気ではない。
ヒナタとナツキは離れられない。
ということは風呂にはヒナタと一緒に入らなければいけないということである。
そのことを彼女は忘れているのだろうか。
それとも朝にシャワーを浴びたから今日は風呂に入らないつもりなのだろうか。
ナツキにはさっぱり分からなかったが、ヒナタがそこらを気にした様子は無い。
とにもかくにもアカリが風呂からあがるまでに考えておかないとなぁ……と、ナツキが思った瞬間にCMになる。
すると、ヒナタはすっとソファーから立ち上がって、困った様子でナツキを見た。
「あ、あの……
「ん?」
「お手洗いってどこかしら?」
「……っ!?」
来た!!
思わずナツキは身体を硬直させてしまう。
決して逃れることは出来ない問題がもう1つここにあるのだ!!!
風呂に関しては水着という手法でどうにかなった。
だが、トイレは……!
「……こっちだよ」
ナツキはそういって立ち上がると、ヒナタとトイレに一緒に入る。というか、入らないと出来ないからだ。
もちろん、ナツキとてこの間に何も準備していなかったわけじゃない。
「……あ、あの。
ナツキは『インベントリ』から耳栓とアイマスクを取り出すと、それを素早く装着して、
「……終わったら教えて」
そう言ってアイマスクをしたままヒナタとは逆方向を向く。手を繋いだまま。
そう。これが彼の見つけ出した最終手段。
目と耳の両方を断つことによって、ヒナタになるべく負担をかけないようにという彼なりの気づかいなのだ!
しかし、ナツキはふと冷静になってしまった。
『
(……どんなシチュエーションだよ)
と、思ってしまったのも仕方のないことだろう。
しばらく無音かつ何もない暗闇の中で過ごしたナツキだったが、しばらくして、ぽんと肩を叩かれる。終わったのかと思って耳栓を取ろうとすると、ナツキが手に取るよりも先にヒナタがナツキの耳栓を手に取った。
「……ありがとね、
とても小さい声で、顔を真っ赤にしてそういうヒナタにナツキは思わず「……うん」と頷いてしまった。何が「うん」なのかさっぱり分からないが。
(……どうしよう? トイレの扉に穴でも開けようか?)
そしたら手を繋いだままで片方はトイレの中、もう片方は外に出ることができる。
と、馬鹿なことを考えながら1時間くらい待っていると、アカリがお風呂からあがってきた。
「ごめんね、お兄ちゃん。先に入っちゃって」
「ううん、良いよ」
「じゃあ、
「え? ちょっと待って??」
ソファから立ち上がったヒナタを止めたのは、他でもないアカリだった。
「お兄ちゃんとお姉ちゃん、一緒にお風呂に入るの!?」
「し、仕方ないでしょう? 離れないんだし」
そういってアカリにくっついたままの手のひらをみせるヒナタ。こうして自分の身体が自分以外に引っ張られるというのも、しばらくやっていると不思議なもので慣れてしまう。
「え!? で、でも恋人でもないのに一緒にお風呂なんて……」
最近の中学生にしては貞操観念がしっかりしているアカリが目を丸くする。
「そんなの……良いの?」
そういってヒナタとナツキをアカリが見てくるが、これに大きく頷けないのがナツキたちである。
「良いか悪いかで言ったらよくないんだけど……」
「ほら!」
「でも、緊急事態だから……」
ナツキがそう答えるとアカリは閉口。
だが、ナツキは説得するために続けた。
「風呂に入らないわけには行かないだろ?」
「そ、そうだけど……」
「それに、一緒に入る時は水着に着替えてるから大丈夫だよ」
ナツキがそう言うと、アカリは「それなら……」という表情を浮かべた。
果たしてお風呂に入るのにアカリの理解が必要だったのかという話は置いておいて、ナツキたちは脱衣所で水着に着替えて浴室に入った。流石に2度目となると、着替えに戸惑うこと無く着替えることができたのだが……午前のシャワーと違うのは、浴槽に浸かるということである。
というのも、ナツキの家の浴槽は1人で入るなら少し狭いくらいで済むのだが、2人で入るとなると、ぱんぱんになってしまうのだ。
「うちの風呂2人も入れないから先にヒナタが入りなよ」
「ううん。気を使わなくてもいいわ。だって、
「でも、この大きさじゃ入れないし……」
「
「ん? 俺が先に風呂に入るのか?」
「そうよ」
ワンサイズ小さい水着に身を包んでそういうヒナタは可愛いのだが、どこか抜けてる感じが否めない。しかし、どうにも一理ある感はあるっちゃあるので、ナツキは彼女の指示に従ってみることにする。
ナツキはヒナタの言葉に従って浴槽に入ると、ふと自分のものじゃないシャンプーと石鹸の匂いが強く鼻を刺激した。これはきっとアカリが普段から使っているシャンプーだろう。彼女の『インベントリ』に入っているお泊りセットは女子力が高そうだ。
そんなことを考えながらナツキが自分の身体を浴槽の奥に沈めると、その上にヒナタが重なるように乗ってきた。
その時の身体が、まぁすごいのなんの。
まず今日、ヒナタについて知ったことだが、彼女は着痩せをする。となると、服という拘束具を脱ぎ払い、今度は水着という武器を手に入れた彼女の身体は凶器と化すのだ。
だが、そんな彼女が風呂に入るためにナツキの目の前をまたいで、狭い浴槽に入ってきたのだ。ここまでは良い。ここまではまだ何とか耐えられた。ナツキの精神力の
これが、まずかった。
いくら浮力で重さが軽減されているとはいえ、女の子のお尻がナツキの両足に押し付けられたのである。いくら水着越しとはいえ……いや、むしろ水着越しだからこそ、ナツキの両足は嫌というほどお尻の柔らかさを叩き込まれたわけである。
「……ッ!!」
「あ、ご、ごめんなさい」
それを、自分が重かったと勘違いしたヒナタが動こうとするがあいにくとそんなスペースは無い。ナツキの上でヒナタの身体が踊っただけだ。
「い、いや。大丈夫。ちょっとびっくりしただけで……」
と、ナツキは穏やかに微笑む。
それにヒナタは、「そ、そう……?」と困惑したまま返すと、ナツキの上に座り込んだ。
(……これだと、俺の上にヒナタを座らせたがってるみたいに思われないかな?)
なんてことを考えていると、もぞり……と、ナツキの足の上でヒナタが動いた。そのせいで、ナツキの足の上でお尻が大変なことになった。
「…………ッ!?!?!?」
これには流石のナツキも声を出しそうになる。
だが、なんとか耐えた。異能の歴は浅いとは言え、それなりに修羅場をくぐり抜けた男だ。この程度で声を上げるわけがない。
だが、その次にヒナタがそっとナツキの腹筋を撫でた時は……思わず声を出してしまった。
「……きれい」
「ひょえっ!」
変な声を出したことに恥ずかしさを覚えつつもナツキは、急にヒナタが腹筋を触ってきたことに驚きながらも尋ねた。
「ど、どうしたの?」
「……ううん。かっこいいなって思ったの」
そういうヒナタの目つきは……どこかおかしく、普通ではない。
何かを狙っているような、あるいはナツキに見とれているかのような
な、何かがおかしい……ッ!
「
もぞり、とヒナタがナツキの足の上で動く。
そして、水着のままナツキを押し倒すようにして身体を押し付けてきた。そして、ひどく控えめに、小さな声で、それでも確かにナツキの目を見て……甘い声でヒナタはそう誘ってくる。
嫌な予感がする。
これはまさに今日の夕方、『便利屋』から聞いたことでは無いのか。
「……しよ?」
「……ッ!!!」
これは……ッ!
『
(発情だァッ!!!)
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