第13話 鍛錬する異能
学校が終わるなり、すぐにナツキはホノカと一緒に帰宅。
来たるべき
「日曜日に再戦するあの女の子、あの歳にして10枚近くの
「中学生くらいだったしな」
「くらい、じゃなくて中学生よ。あの子、自分で年齢を言ってたわ。14歳だって」
「14歳……」
アカリと名乗った少女はひどく目立つ格好をしていて、ホノカをたやすく追い詰めていた。
あの子がまさか中学生だったとは。
世の中、広いというかなんというか……。
天才というのはいるものである。
「でも、あの時負けそうになってたのは私の準備不足だから、本気で用意すれば私は負けないけど……万が一ということがあるから、ナツキの異能も強化しておいた方が良いわ。それに、ナツキもいつ他の異能に襲われるか分からないし」
「そうだな」
ホノカは負けず嫌いなのだということが話しているとよく分かる。
だが、それは紛れもない彼女の良さだからナツキは深く頷いた。
「私は
「向こうは【氷】の魔法を使ってたしな」
対するホノカの魔法は【炎】。
どちらが有利かなんて、火を見るよりも明らかだ。
……火魔法だけに。
「そうね。だからこそ、ナツキの出番ってわけ」
「俺か」
どんな役割でも任せてくれと言わんばかりに胸を張るナツキ。
彼が先ほど思いついたしょうもない冗談はすでに無かったことになっている。
「ナツキが得意なのは
「え、なんで俺の得意なのが近距離なの?」
「だって、ナツキは素手であの子を相手してたじゃない」
「……ああ」
そう言われればそうだった気がする。
とはいっても、ナツキのあれは素手ではない。手刀である。
しかし、はたから見れば全く同じだ。
「あれ? でも、俺は飛ぶ斬撃を撃ったと思うけど……」
「異能の世界で中距離っていうのは、主に魔法戦のことを言うのよ。斬撃を飛ばすのは、ギリギリ近距離ね」
ナツキがホノカに問いかけると、そう返された。
ってか、斬撃が飛ぶことについては何もツッコまないんだな。
異能って
「まぁ、でもナツキはユズハの巨人を倒しちゃう怪力も持ってるし近距離系の異能って言われても納得しちゃうわよ。純粋な身体強化系の異能が見たら泣くわね」
「そんなにか」
「そんなによ」
褒められて調子に乗るナツキは、顔をほころばせて微笑む。
「でも、ナツキの異能は魔法も使えるでしょ? だから、そこがあの子にとっての隙になるわ。向こうはナツキと距離を置いて、自分にとって有利がつく私を先に狙ってくるはず。だから、そのタイミングでナツキは魔法で私を援護して」
「任せてくれ」
MPの量に少し不安があるが、まだ達成していないクエストの報酬に『MP+50』というのがあるので、それを達成すればかなりの余裕が出るだろう。
「でも、ナツキ。異能を殺したら駄目よ」
「え? 何が?」
「勢い余ってあの子を殺しちゃ駄目ってこと」
「こ、殺すわけ無いだろ?」
「良い心がけね。魔術や魔法の中には死をトリガーにして発動するものが沢山あるわ。殺した相手を必ず殺し返したり、半径100m以内のものを跡形残らず消し飛ばしたり」
「…………」
なんかもっと倫理的な理由だと思っていたナツキは黙り込む。
殺伐としすぎだろ、異能の連中。
「分かった?」
「もちろん」
「というわけで、今日の話し合いは一旦ここで終わり。これからナツキは自分の異能を強化して。私も準備するから」
「準備?」
「日曜日のお楽しみよ」
そう言ってホノカは綺麗な礼をすると、家から出ていった。
ナツキはその後ろをしばらく見送っていたが、
「あ、バイト先に連絡しておかないと」
しばらく休むという話を店長にしていなかったことを思い出して、スマホを手にとった。3日ほどバイトを休ませて欲しいと店長に連絡するとすぐにOKしてもらえた。普段から真面目に働いているので、よっぽどの用事だと思ってくれたのだろう。
それからすぐに、ナツキはスポーツショップに立ち寄って20kg分の重りを買うと、河川敷のランニングコースへと足を踏み入れた。
「よし、やるか」
金曜日の夕方ということもあって、夕暮れの河川敷にはちらほらと人の影が見える。ナツキは大きなリュックを背負ったまま、『クエスト』と呟いた。
その言葉に反応するように、ぶん、と音を立ててナツキの前にクエスト一覧が表示される。
――――――――――――――――――
クエスト
・30kmランニングしよう!
報酬:【持久力強化Lv2】スキルの入手
・【無属性魔法】を使って火を起こそう!
報酬:【炎属性魔法Lv1】スキルの入手
・【無属性魔法】を使って水を入手しよう!
報酬:【水属性魔法Lv1】スキルの入手
・魔法を100回使用しよう!
報酬:MP+50
・20kgの荷物を持って10km走ろう!
報酬:『インベントリ』機能の拡張
・四つの属性魔法を入手しよう!
報酬:『駆け出し魔法使いなりきりセット』の入手
・【無属性魔法】を使って敵の異能者を倒そう!
報酬:【無属性魔法Lv2】スキルの入手
――――――――――――――――――
残っているクエストを確認。
まずは重りを使ったランニングからだ。
20kgというのは通常状態のナツキにはかなり重く、リュックサックが肩に食い込んで痛かったが、【身体強化】を使うと全ての荷物を捨ててしまったかのように体が軽くなる。
まずナツキは重りを背負ったまま10kmランニング。
【持久力強化】と【身体強化】の組み合わせで30分足らずでそれをクリアすると、
『【インベントリ】機能が解放されました。荷物を収納しますか? Yes/No』
との声が響いたので『Yes』を選択すると、背負っていた荷物が消えた。
だが頭の中ではその荷物をしまったんだという確信があり……取り出し方も、手に取るように分かる。
「……便利だ」
ナツキはそう漏らすと、今度は残る20kmをランニング。
そして、その間に【無属性魔法Lv1】の中でも簡単な魔法を使いまくる。
そうして、合計30km走り終わると同時に頭の中で2つの声が響いた。
『【持久力強化Lv2】を入手しました。MPが50加算されました』
これで、残るクエストは後少し。
『敵の異能を倒す』系のクエストはまだ達成できないので置いておくとして、他に攻略できそうなクエストはないかとナツキがディスプレイとにらめっこ。
「……水の入手か」
ナツキが目をつけたのは『【無属性魔法】を使って水を入手しよう』というクエスト。この文章が正しければ、【無属性魔法】を使って水を手に入れれば良いのであって、水を
「……いや、まさかな」
ふと閃いた自分の発想を確かめるべく、ナツキはコンクリートで舗装されている川への斜面に足をかけてゆっくりと川に近づいていく。夕日に照らされて、光を乱反射する川に向かって、ナツキは小さなお椀の形をした物体を生成。
そして、それで川の水をすくい上げた。
そして、頭の中に響くは電子音のファンファーレ。
『【水属性魔法Lv1】を入手しました』
行けるんかい!!
思わず心の中でツッコんでしまったが、他の2つの魔法の入手難易度から考えても、これらのクエストの達成条件は、かなり緩い部類なのだろう。
こんなんで本当に魔法を入手していいのかと聞きたくなる。
とは言っても誰に聞けば良いのか分からないので、ナツキはその疑問を飲み込むと、『ディスプレイ』を展開。まだ入手していない【火属性魔法Lv1】に目を向けた。
すでに夕刻。
太陽は沈みかけており、今から【無属性魔法】でレンズを作って紙に火を灯すのは無理そうだ。
「となると……残るクエストは……」
そういって『ディスプレイ』を見るが、今の時点で達成できそうなクエストは無い。
「だったら魔法の練習でもするか」
ナツキは家に『魔導書』を取りに戻ると、カバンに潜ませて学校から持って返った『影刀:残穢』を『インベントリ』に収納し、河川敷へと戻った。
「ちゃんと読んどこうっと」
ナツキはそう言うと、魔導書のページを開いた。
彼が持っている魔導書は【無属性魔法】の入門書だが、【無属性魔法】はどうやら全ての魔法の基礎らしく、いくつか属性魔法へと応用できることが今日の昼間に分かった。
なのでナツキは入門魔導書を見ながら、【無属性魔法】から属性魔法へと応用できそうなものを見つけ出しては頭の中で構築してみる。
そして、数十分かけていくつかの魔法を構築した。
「我ながら結構良いものが出来てしまった。やっぱり俺は天才なのか……?」
なんて独り言を言いながら、ナツキは周囲を見渡す。
作ったばかりの魔法を撃ってみたいものの、周囲には人影があって中々撃てない。
「……た、試してみたい」
好奇心に突き動かされるように、ナツキは早く人が居なくならないかと周囲をキョロキョロと見回す。そして、10分も経たずに河川敷から人の気配が消えた。
「……『ウォーターランス』」
2度、周囲に誰もいないことを確認して【無属性魔法Lv1】にあった『マジックランス』の水バージョンを土手から
ヒュドッ!!!
とても水が通り抜けたとは思えないほどの鋭い音と共に、ナツキの手元から放たれた水槍は10mほどの水柱を大きく上げた。そして、ざぁざぁと周囲に小さな雨を降らす。あの威力からして、下手な鉄板くらいは紙のように貫くだろう。
「……威力高っか」
これには流石のナツキもドン引き。
ちなみにこの魔法の消費MPは10だった。
――――――――――――――――――
Lv:5
HP :30 MP :100
STR:17 VIT:16
AGI:09 INT:10
LUC:56 HUM:95
【異能】
クエスト
【アクティブスキル】
『鑑定』
『結界操作』
『投擲Lv1』
『身体強化Lv2』
『無属性魔法Lv1』
『水属性魔法Lv1』
『雷属性魔法Lv1』
『風属性魔法Lv1』
【パッシブスキル】
『剣術Lv2』
『持久力強化Lv2』
『精神力強化Lv1』
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