第10話 溶け込む異能
(モンスターに
本とか漫画でしか読んだことのないそれらが実際にいるって聞いても……いまいち本当だと思えない。とは言ってもホノカは嘘をつくような人間じゃないので、彼女がいると言ったら本当にいるのだろう。
(
そんなことを考えながら、教室に入った。
教室の中で、各々友達たちと集まって好きな話をしている間を縫うようにして席に座ると、隣の席に座っていたユズハから話しかけられる。
「あ、あの……。
「え?」
さっきのあの人って誰だろう……と思って、ナツキが首をかしげると、
「ほ、ほら……。さっき一緒に登校、してた……あの、銀髪の……」
それで、合点がいった。
未だにおっかなびっくり話しかけてくるユズハにナツキは苦笑いしながら、
「転校生だよ。昨日、電車でたまたま知り合って」
そう言うと、
「電車……」
熱にうなされるようにユズハが繰り返す。
「わ、私も……電車登校にします……!」
「え? でも、ユズハって、学校から家近いんじゃなかったっけ?」
「お、覚えてて……くれたんですね……!」
そういって嬉しそうな顔を浮かべるユズハ。
家を覚えてもらえるのってそんな嬉しいことなの……?
「家から学校まで5分って言ってたから、
ナツキはどうしても学校まで1時間ほどかかるので、学校のすぐ側にあるユズハの家の話を聞いて羨ましいと思った記憶があるのだ。
「う、羨ましい……!」
髪の奥に隠れた目を輝かせるユズハ。
「わ、私の家に住みますか……?」
なんでそうなるの……??
「……それは悪いって。ユズハの両親にさ」
「そ、そうですよね! ごめんなさい! 出過ぎた真似を……」
「い、いやいや。そんなに大した事じゃないから」
ユズハと話すと基本的には楽しいのだが、時たまこうして超ネガティブになったりするのだ。まぁ、それが彼女の良いところでもあるのだが。
「ご、ごめんなさい。わ、私……ネガティブで……」
「大丈夫だよ。ネガティブってことは誰よりも先に悪いことに気がつけるってことだし」
「わぁ……」
ナツキがそう言うと、ユズハは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
彼女は目が前髪で隠れているので、感情が読み取りづらいときがあるのだが……こうして、顔の色が変わるほどに表情を変えてくれると、とても分かりやすい。
なんてやり取りをしていると担任が入ってきたので、話で打ち切り。
授業を受けながら、ナツキは残るクエストの攻略法について考えていた。
今の所、ナツキが攻略について困っているクエストは4つ。
それらは全て【無属性魔法】から派生したクエストであり、
――――――――――――――――――
・【無属性魔法】を使って火を起こそう!
報酬:【炎属性魔法Lv1】スキルの入手
・【無属性魔法】を使って水を入手しよう!
報酬:【水属性魔法Lv1】スキルの入手
・【無属性魔法】を使って雷を発生させよう!
報酬:【雷属性魔法Lv1】スキルの入手
・【無属性魔法】を使って風を巻き起こそう!
報酬:【風属性魔法Lv1】スキルの入手
――――――――――――――――――
この4つである。
(……【無属性魔法】で、火かぁ)
スキル【無属性魔法】は魔力の操作によって、物体を生成する魔法である。
火や、風などの現象を起こせる魔法ではない。
そういう魔法ではないのだが、やり方は一応考えられる。
(……レンズとか、どうだ?)
あくまでも仮説だが、ナツキが小学生のときにやって一番記憶に残ってる実験……虫眼鏡で黒い紙に光を集めて、火を起こす授業を思わず思い出してしまう。あのレンズを【無属性魔法】で生み出して、紙に火を付けたらクリアできるんじゃないだろうか。
(てか、風を起こすって……下敷きとかのアレでいいのか?)
ナツキは不思議に思いながら、机の下で誰にもばれないように下敷きの形状をした物体を生成。取り出して、顔を仰いでみた。
すると、頭の中でファンファーレが鳴り響いた。
クエスト達成と、【風属性魔法Lv1】を入手したというメッセージがディスプレイに表示される。
(……え、こんなんで良いの?)
想像していたハードルの大きく下をくぐり抜けてくるかのような達成条件にナツキは心の中でずっこけた。レンズの火起こしでクエスト達成できそうな未来が見える見える。
(……電気って、あれで良いかな)
ナツキは【無属性魔法】で生み出した下敷き状のそれを教師がそっぽを向いた瞬間に、激烈に髪の毛にこすりつけた。ナツキたちは最後尾の席だから、後ろの生徒に見られることもない。ナツキは十数秒こすって持ち上げると、髪の毛が持ち上がる。
静電気だ。
――――――――――――――――――
クエスト達成!
スキル【雷属性魔法Lv1】を入手しました!
――――――――――――――――――
(……小学生かな?)
と、ツッコミたくなるが、クエストが達成できるならそれに越したことはない。
それに、静電気とは言え雷だ。クエスト条件には間違いは無いのだろう。
残るは水と火だが……火は思いつくにしろ、水は全く閃かない。後で考えようと思いながらナツキは思考を放棄して、黒板に書かれた内容をノートに写し始めた。
授業中にできるクエストを達成したところで、昼休みを迎えたので購買にパンでも買いに行こうかと思って席を立つと、ユズハが申し訳無さそうに話しかけてきた。
「あ、あの……
「今から買いに行こうと思ってたけど……」
「その……お、お弁当をつくりすぎちゃって……。あの、よ、良ければ……食べてくれませんか……?」
「え、良いの?」
「も、もちろんです……」
ユズハはカバンからお弁当箱を取り出すと、彼女のものとはまた
しかも、彼女が持っているピンクのお弁当箱の色違いバージョン(青色)だ。
「ありがと、ユズハ」
「いっ、いえ……!
後半の方は消え入りそうなほどに声が小さくて何を言っているのかナツキにはよく分からなかったが、とにかくお弁当をくれたことに感謝を込めながら、ナツキは弁当箱を開けると――彩り豊かなお弁当が広がっていた。
唐揚げ、卵焼き、半分に切られたハンバーグ。それの下にあるのは……レタスだろうか。おかず半分、ご飯半分で仕切られたそれはお手本のようなお弁当だ。ナツキも時々自炊をするので分かるが、これはかなり手間がかかっているご飯だぞ……ッ!
ちらりとユズハのお弁当を見ると、彼女の方も自分と同じくらいに整えられていた。
……作りすぎたとは?
(最初から2人分作ってない……?)
なんて疑問が頭の中をよぎってしまうが、ユズハが作りすぎたというのであれば作りすぎたのだろう。うん。料理してたら思わず作り過ぎちゃうこととかあるよな!
なんて言って自分の中で納得させようとした瞬間に、ユズハがふと聞いてきた。
「お、美味しいですか……?」
「あ、いや。まだ食べてなくて……」
「そ、そうですよね! す、すみません。先走っちゃって……」
なんてお手本のようなボケをはさみながら、そのお弁当を食べようとした時に教室の後ろ扉に銀髪の少女の姿が見えた。
「ナツキいる?」
「ん? どうした、ホノカ」
ずんずんと教室の中に入ってきたのは、ホノカだった。
ナツキは思わず弁当を置いて、彼女と向かい会う。
「……気を使って疲れちゃって、ここで食べても良い?」
「い、良いけど……」
「良いけど?」
ナツキはそう言いながら、周りを見渡す。
彼女は転校生だし、目立つ容姿をしているからクラス中の注目を集めたのだろう。それで、注目を集めないためにナツキのクラスに来たんだろうが……。
教室の中にいる生徒たちが一斉に教室の中に入ってきたホノカを見ていた。
彼女の『気を使わない』というのでここにやってきたのであれば、ここでも同じように好機の視線を向けられるので結局意味がないのでは……?
「ここでも見られると思うよ?」
「んー。じゃあ、移動する?」
ホノカがそういった瞬間、隣に座っていたユズハが立ち上がった。
「ちょ、ちょっと……あなたは
「え、あなた誰?」
「は、
それは果たして自己紹介で合ってるんだろうかと思いながら、ナツキは困惑。
「私はナツキの友達だけど」
「と……っ!? 私でも
「え、俺とユズハって友達じゃなかったの?」
友達だと思っていたナツキはそう声をあげるが、どうやらユズハには聞こえていなかったみたいで、彼女はホノカに
その時、ナツキの全身を……不思議な感覚が襲った。
まるで、水に張られた油を抜ける感覚と言うべきか。
いや、それともとても濃い霧の中に身体を突っ込んだというべきか。
刹那、気がつくとクラスメイトたちが、
「……ッ!? 『シール』!?」
昨日見たのと全く同じ光景にナツキが漏らすと、ユズハが長い前髪を揺らして微笑んだ。
「は、
「ちょっと、どういうことなの!? なんでアナタ、『シール』を……!?」
急に『シール』を貼ったユズハにナツキとホノカは
「だ、
それに対して最初に口を開いたのは、ホノカだった。
「え、誰が? 誰に?」
「は、
「ちょ、ちょっと、どういうこと!? 私がなんでナツキを騙すのよ!」
「う、
そう言って叫ぶユズハは
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