現代日本は異能まみれ!〜俺だけの【クエスト】で『スキル』や『アイテム』を手に入れまくって異能バトルを無双します〜
シクラメン
第1章 覚醒
第1話 異能に目覚めた
夜中の23時。
バイトが終わって、夕飯を買って家に帰るといつもこの時間だ。
「……疲れたなぁ」
そういって、
「……明日も早いしシャワーして、寝よ」
ナツキは重たい身体を起こして、リビングを抜ける。
そこには、いつでも目に入るように1枚の写真が飾られていた。
まだ幼いナツキと、その両親。
3人が笑顔で写真に写っている。
だが、今はもうその両親はいない。
いつの日も『人に恥じない行動を』と言っていた彼の両親は5年前……まだ、ナツキが11歳の時に
目を覚ましたらいない両親と、一人ぼっちになってしまった自分。
そこからは多くの人の手助けを得て、高校生となった今は1人暮らしをしている。
「目標まであと120万。頑張って貯めないとな」
大学の入学金。それと受験費用などを合わせて100万とちょっと。
塾代なども考えたら、もっと必要だろうから余裕を見て200万は欲しいと思っている。
今の貯金は80万。
大学に行くために頑張って貯金したのだ。
「俺ならできる。そうだろ?」
誰にも聞かせるつもりはないが、ナツキはそういって真正面を見た。
そうだ。自分なら、できるはずだ。
根拠のない自信だが、それが何よりも彼を支えている。
それでも、今日だけは少し……その自信が揺らいでいた。
「あーあ……」
夜、1人。
「ゲームみたいにさ。クエストとかで、頭良くなったり、お金が手に入ったりしたら……」
誰にも聞こえない声は、
「良いのにな」
彼自身が聞いていた。
朝、目を覚ますとナツキの前に半透明のディスプレイが表示されていた。
――――――――――――――――――
『通常クエスト』
・腕立て100回を達成しよう!
報酬:【身体強化Lv1】スキルの入手
・10kmランニングをしよう!
報酬:【持久力強化Lv1】スキルの入手
・本を10冊読もう!
報酬:【鑑定】スキルの入手
――――――――――――――――――
「……は?」
『クエスト』と書かれたタイトルの下に3つ、連なるようにしてそんな文章が記されている。
文章の意味は理解できる。
だが、どうしてそんなものが見えるようになったのか意味が分からなかったし、そもそも【スキル】というのも何か分からない。
「……なんだこれ」
手を伸ばして半透明のディスプレイに触ってみる。
伸ばした手はディスプレイをするりと抜けた。
「
腕立て、10kmランニング、読書10冊。
そこだけ見ると、なんとも健康的な生活だと思う。
「……他に説明は……なさそうだな」
ディスプレイの周囲を見回すが、特に何も起きない。
試しにディスプレイめがけてぐいっと頭を近づけてみたが、全く同じ距離を保ったままナツキの前からディスプレイが離れた。
「触れないし、近づけないと」
ナツキは、まだ寝ぼけているのではないかという自分の問いと戦いながら……。
「……昨日『ゲームみたいに』って言ったからか?」
そう、思い立った。
というか、それ以外に考えられることが無かった。
「よ、よく分からんけど! 物は試しだ! とりあえずやってみるか!?」
ナツキは若干興奮気味になって、ベッドから降りた。
ランニングと読書は難しいが、腕立てくらいなら学校に行く前にも時間がある。そう思って、彼は腕立てを行い始めた。
――――――――――――――――――
『通常クエスト』
・腕立て100回を達成しよう!
報酬:【身体強化Lv1】スキルの入手
(16/100)
――――――――――――――――――
腕立てを始めた瞬間、『クエスト』の下にカウントが表示される。
「数えてくれるのか。便利だな」
ナツキはそう呟くと、素早く腕立てを100回終わらせた。
「腕立て100回は簡単だと思ってたけど……案外、腕にくるな。パンパンだ」
腕をぐるぐる回して、筋肉の疲労を落とす。
「まぁ、伸びしろだな!」
そう独り言をもらしていると、頭の中に電子音のファンファーレが響いた。
――――――――――――――――――
クエスト達成!
スキル【身体強化Lv1】を入手しました!
――――――――――――――――――
ディスプレイの表示が切り替わって、でかでかとした文字でそう描かれた。
「……スキル」
スキルというと……あれだろうか、ゲームとかでよく見るあのスキル……?
「もしかして夢でも見てんのか? ゲームとかだと、こういうのって説明があるもんだけど……」
ナツキは1人でそう言うが、何もディスプレイの表示は変わらない。
反応すらもしない。
同じようにディスプレイに手を伸ばしてみるが、やっぱり触れない。
「自分で検証しろってことか? まぁ、俺は頭が良いからなぁ」」
ちなみに彼の頭はさほど良くない。
馬鹿なことを言いつつナツキは試しに身体を動かしてみるが、さほど変わった様子は見られなかった。
「んー……? ちょっと身体が軽いか?」
ぴょんぴょん飛んだり跳ねたりしてみるが、あまり劇的な変化がない。
「Lv1だから効果が薄いってことかな」
ナツキはそう言うと、ディスプレイを凝視する。
残りクエストは2つ。
だが10kmランニングも、本を10冊読むもそう簡単なことではない。
「どっちからやるか……」
【身体強化Lv1】では、あまり身体に変化が起きなかったことを考えると、【持久力強化Lv1】もさほど大きな変化が起きなさそうだ。
「だったら、本10冊か……。本つってもな……」
ナツキはちらりと本棚を見る。
そこには、漫画ばかりが詰め込まれていた。
「漫画があるか」
と、言いながらもナツキはその内の1冊である少年漫画を開いた。
だが、
「いや……。邪魔だな……」
クエストを表示しているディスプレイと本が重なって、中身が読めないのである。
「小さくならないのか?」
ナツキがそう言った瞬間、
――――――――――――――――――
最小化しますか?
Yes / No
――――――――――――――――――
そんな文字がディスプレイ上に表示された。
「え? 最小化できんの? やってよ」
ナツキがそういうと、表示されていたディスプレイが左下に収納された。視界の左下にはアイコンが灯っており、手を伸ばしてそれに触れると再びディスプレイが表示される。今度はちゃんと触れた。
ディスプレイには触れる状態と触れない状態があるみたいだ。
「お、便利じゃん! また最小化しといてくれ」
声でもちゃんと認識してくれるのか、ディスプレイは再びアイコンとして収納。
ナツキは手にとった漫画をぱらぱらと読んだ。すでに一度読んでいる内容である。10分と経たずに読み切って、ディスプレイを開くと、
――――――――――――――――――
『通常クエスト』
・本を10冊読もう!
報酬:【鑑定】スキルの入手
(1/10)
――――――――――――――――――
「おっ! 漫画でも良いんだ!」
たまに漫画は本じゃないという頭の固いおじさんとかがいるので、カウントされるか不安だったがこれならすぐにでも達成できそうだ。
ナツキはどっかり腰を下ろすと、少年漫画の続きの巻を手に取って読みふけった。
「これでどうだ?」
本棚から10冊取り出して、読み切ったナツキはそう言うとディスプレイを開く。
次の瞬間、頭の中に電子音のファンファーレが響き渡る。
【鑑定】スキルを入手したのだ。
「んで、どうやって使うんだ? これ……」
せっかく入手したは良いが、肝心の使い方が分からない。
「【鑑定】って言えば良いのか……?」
ナツキがそういった瞬間、ブン! と、蜂が飛ぶような音を立てて目の前にクエストのものとは全く別のディスプレイが表示された。
――――――――――――――――――
Lv:1
HP :10 MP :0
STR:05 VIT:04
AGI:01 INT:0
LUC:56 HUM:99
【異能】
『クエスト』
【アクティブスキル】
『鑑定』
『身体強化Lv1』
【パッシブスキル】
――――――――――――――――――
「ステータス、か? これ……」
ゲームでは見慣れていたが、現物を……それも、自分のものを生まれてはじめて見るそれに、ナツキはしばらく困惑した。
「HPって、俺の命ってことだよな。10って……。しかも
ステータスがあまりに貧弱すぎることに若干の悲しさを覚えつつ、ナツキはある場所に目を付けた。
「HUM? ハム……かな?
流石のナツキもそんなわけはないだろうと思いつつ、ステータスに向かって呟いた。
「【鑑定】」
【鑑定】スキルによって表示されたものに【鑑定】スキルが使えるのか?
なんて思っていたが、結果的に言うと、【鑑定】は使えた。
――――――――――――――――――
『HUM』
・
星が煌く時、やがて人は人ならざる者になる。
――――――――――――――――――
「はぇ……」
ナツキはその文章を読んで気の抜けた声をもらした。
さっぱり意味が分からなかった。
しかし、こんなことは授業中には日常茶飯事。
分からないことがあったら、分かるものから手をつけるのが彼なりの流儀である。
「異能……『クエスト』?」
このディスプレイのことだろうか?
ナツキはその欄を飛ばして、さらに下に目を向けた。
「って、『身体強化』はアクティブスキルなのか」
アクティブスキルというのは、効果をいちいち発動させないと行けないスキルのことである。その反対がパッシブスキルで、こちらは常に効果の発動しているスキルだ。
「言葉に出せば良いのか? 『強化』」
ナツキがそういった瞬間、全身にガソリンでも注入されたかのように筋肉がカッと熱を持った。
「お、おお!?」
試しに机に手を伸ばして、持ち上げてみる。
「すご……っ! めっちゃ軽いぞ……!?」
模様替えをする時に、いつも地獄を見ているほどに重たい机だが今はまるで重さが半分になったかのようだった。これなら楽々と1人でも持ち運べそうだ。
「もしかして引越バイトとかで荒稼ぎできる……!?」
かつて挑戦して地獄を見たバイトだったが、これなら無双できそうだ!
「俺の時代が来た!?」
ナツキが感激していると、スマホのアラームが激しくなった。
それを止めるべく腕を伸ばして、
「ん。……ん?」
固まった。
時刻は7時40分。
朝の電車が7時52分に出るため、7時30分には家をでないと遅刻である。
「……え、嘘」
残り、12分。
走るのは当然として、自転車ですらも間に合わない。
遅刻だ。
しかし、ナツキは今の今まで学校を欠席したことがない。
どんな時も『人に恥じない行動を』と両親が言っていたことを守って生活していたからだ。
「いッ! いや、まだだッ! こっちには【身体強化】があるんだ! 俺ならできる! 俺なら出来るぞッ!!!」
ナツキはディスプレイを最小化すると、全力で準備に取り掛かった。
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