勇者の余生
シヨゥ
第1話
「本当は昔から鍬を握って畑を耕したかったんだ」
青年は桑を杖代わりにしてその場にたたずむ。
「村では畑仕事を嫌う子供が多かったけど、僕はそれが大好きで。親から仕事を与えられた時なんかは無我夢中で取り組んだもんさ」
どこか遠くを見るような目をした青年はため息をつく。
「このまま生涯鍬を握り続けるものだと思っていたんだけど、やっぱり人生はままならない。畑仕事で培った腕力と土と戯れて育った魔力。それが僕から鍬を奪ったんだ」
そう言うや鍬を剣のように振るう。すると畑に閃光が走り、一列の畝が出来上がった。
「鍬は剣に変わり、急き立てられるように魔王討伐へ行くことになった。なにかに危害を加えるのは大嫌いなのにそれを迫られる毎日。正直勇者業は辞めたくて仕方がなかったよ」
そう言って不格好に笑みを浮かべる。
「他に変わりがいなかった。だからやれる僕がやる。やれるからやる毎日は幸せじゃなかったね」
青年はまた遠くを見るような目をした。
「そんな生活の中で僕の畑への情熱は高まっていった。やっぱりやりたいことをやる。それが一番いいんだと気付かされたよ」
頭を振るとそう結論めいたことを言う。青年はお察しの通り魔王を打ち倒した勇者その人だ。そんな彼は人里離れた山間で独り農作業に勤しんでいる。
「できることをやるな、とは言わない。だけどそれが本当にやりたい事なのか。それを考え続けることをやめないでほしい。そう思うよ」
噂を頼りに山に分け入りやっとのことで出会えた元勇者。彼の言葉は今まであった誰よりも胸に染み入ってくる。それは彼の経験によるものだろう。
こうはなれない。元勇者は素直にそう思わせてくれる青年だった。
勇者の余生 シヨゥ @Shiyoxu
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