都立さくら丘高校の「恐ハラ」
kitajin
第1話 さくら丘高校バレー部のおつかれさま会
閑静な住宅街の一角にある白い家のガレージに、十台以上の自転車が無造作に止めてある。
また一人、自転車に乗ったジャージ姿の女の子が坂を上り、その家のガレージに自転車を止めて玄関へ向かった。
T―シャツにジャージの短パン、サンダルといった軽装で、髪は肩口まであるショートヘアーの長身の美少女であった。
インターホンを押して、しばらくすると「はーい」と声が響く。
「私、ほのか」
中に向かっていうと、「どうぞ」と声が返ってくる。
声に従いドアを開けると、この家の娘、
「いらっしゃい。もうみんな来ているわよ」
凛が廊下を歩きながらいった。
「お邪魔します」
家に上がり、広いリビングに近づくと中からガヤガヤと騒がしい声が聞こえてくる。中田ほのかが入っていくと、バレー部のみんながそろっていた。
「ほのか、遅いよ」
入ってきたほのかに最初に気づいたのは、
「ごめん、ちょっと、出てくるとき親につかまっちゃって」
言い訳しながら、部屋に入って行くと、
「こっち来な」
ほのかは言われるままに、「」型のソファーの窓を背にした真ん中の席に座った。正面を見ると、
テーブルには、各自が持ち寄ったお菓子やジュースが所狭しと置かれてあり、各々、勝手につまんでいる。
「一週間ぶりだけど、すごく久しぶりのような気がする。何か変わった?」
正面の
「毎日会ってたからね」
「お待たせ」
キッチンから三人が人数分のお皿に盛られたケーキを手に現れた。
「すごいね」
「これ、御嬢がもってきてくれたの」
と凛は、
「さすがは御嬢」
「タイッ」
みな、Tシャツに短パンなどの軽装で来ているのに、一人だけ白いワンピースを着ている百合は叩かれたところを抑えて顔を歪めた。
「それじゃあ、みんな集まったことだし、乾杯といきますか」
ケーキをそれぞれの前に置いたところを見計らって、里緒菜が一同を見回していった。
「えー、それではこれより、さくら丘高校バレー部のおつかれさま会を開催したいと思います。僭越ながら、代表としてキャプテンのわたくしがまず乾杯の挨拶をいたしたいと思います」
里緒菜は立ち上がりながら、芝居がかった口調で話し始める。この中では小柄な方で、愛嬌のある顔立ちをしている。
「よ、キャプテン」
林ひかるが合いの手を入れる。
「えー、皆さん、三年間お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
全員が声をそろえ、頭を下げる。
「……夏の大会が終わり、我々、三年生は引退となります。三年間、共に汗を流し、同じ目標に向かい頑張ってきたわけですが、あと一歩のところで残念ながら、全国大会の切符を逃しました。しかし、この三年間の努力は決して無駄ではなく、掛け替えのない時間を、ここにいる十四人で過ごせたことを本当に喜びに思いますし、誇りに思います。後ほど、ひとりひとりに挨拶をもらいたいと思いますが、まずは感謝の言葉を述べさせてください。ありがとうございました」
里緒菜が深々と頭を下げると、自然と拍手が起こる。
「堅苦しい挨拶はここまでにして、それでは、乾杯としましょう。それでは、副キャプテンの中田に乾杯の挨拶をしてもらいましょう」
思いがけず指名を受けたほのかは、一瞬、躊躇したが、それでも思いつめたように立ち上がった。
「……皆さん、お疲れさまでした。それと、あの、どうしても先に言っておきたいことがあります。……ごめんなさい」
ほのかはいきなり頭を下げた。
一同が固まる。
「私のミスで大事な試合に負けてしまって……本当にごめんなさい」
「なっ……何言ってんの?そんなこと、誰も気にしてないわよね。ねえ?」
里緒菜が皆に同意を求める。
「そうよ、みんな最善を尽くしての結果じゃない。誰のせいでもないわ」
唯衣の言葉に、ところどころで頷く。
「それを言うなら私なんか、ミスばっかりだったし……」
ひかるがいった。
「誰も気にしてないって」
冬香が微笑んだ。ほかのメンバーの口々に慰めの言葉をいう。
「一回のミスより、それまでチームを引っ張ってきたのはあなただってこと、みんながちゃんと知っているから」
蓮花がいった。
「……ありがとう」
ほのかは泣きそうな顔をしながら、うなずいた。
「そんなにも気にしていたんだね」
麗良がしみじみといった。
「責任感強すぎなのよ」
凛が口を尖らせる。
「ごめん、なんか湿っぽくなっちゃったね」
「いいじゃん、今日は三年思いを全部、吐き出しちゃえば。そういう集まりなんだから」
里緒菜がまとめた。
「それじゃあ、改めて乾杯しようか。ほのか」
梨絵がグラスを掲げた。
「じゃあ、みんなグラスを持って……」
ほのかがうなずいて、グラスを顔の前にかざした。
* * *
時刻は午後八時を回っていた。
集まってから四時間ちかくが経過して、海藤家にも慣れた部員たちはそれぞれにくつろいで好きなことをしている。
ある者はテレビゲームを、ある者はUNOを、ほかの者はソファーでくつろいで話したりしていた。ホステスの凛と手伝いの真利亜と陽花里はケーキを食べ終えたお皿とフォークを洗っている。
「じゃあ、一週間も帰ってこないの?うらやましい」
真利亜がお皿をふきながらいった。
「よくないわよ。一週間、この家に独りぼっちよ。全部ひとりでやらなくちゃいけないし、ご飯だって、外食ばかりじゃいられないし」
天は不満を顔に表した。
「でも、両親が仲がいいのはうらやましいな」
陽花里がいった。
「私が泊まりに来てあげる。ご飯も作るよ」
いきなりきいらが近づいてきて、長身の凛に背伸びして顔を近づける。
「きらちゃんと毎日一緒じゃ疲れるよ。遠慮する」
「楽し、おまっせぇ」
お皿を凛の顔の前に持ってきて、おどける。
「ちょっと、やめて。それ、洗ったやつ。触らないで」
凛が笑いながら、叱る。
「ねえ、怖い話しない?」
ソファーの輪の中で、梨絵が不意にいった。
「いやよ」
ほのかがすぐに拒否をする。
「いいねえ、夏と言えばやっぱり怖い話でしょう」
唯衣が同調する。
「面白そう」
麗良がニヤリと微笑む。
「ねえ、みんなで怖い話しようよ」
梨絵の言葉に、瞬く間にみなが賛同して、ゲームをしていた者も、UNOをしていた者も止めてソファーに集まり車座になった。
「どういう順番で行く?」
里緒菜が一同を見回して聞くと、いろいろな案が出たが結局、挙手制となった。
「怖い話なんて聞きたくない」
ほのかが耳を塞ぎ、拒絶する。
「無理矢理、聞かせてあげるから」
ほのかの両腕を、両隣の冬香とひかるが掴みにかかる。
「じゃあ、言い出しっぺの私から話すね」
と梨絵が微笑んだ。
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