リコラトコ

桜瀬悠生

リコラトコ

 いつから僕は、こうなってしまったのだろう。


 間違いなく僕は生きていて、間違いなくこの世界に存在しているのに、

 

 現実感が少しもない。


 ほんの数メートル先のものでさえ、確かにそこにあるという感覚がない。


 もちろん、実際に歩いていけば存在を確かめることができる。


 それがカーテンなら開くことができるし、それがスマホなら持つことができる。


 でも、それは存在を確かめることができるというだけ。


 現実感のなさが解消されるわけではないし、


 確かなものとして感じられるわけでもない。


 窓の外に広がる光景も、スマホの画面に広がる世界も、僕にとっては同じ。


 そこにいる人々と話すことができるだけで、スクリーン越しの世界に生きている。


 たとえば僕は、色鮮やかな絵の上に置かれた、薄くて透明な板に描かれた絵。


 一枚の絵のように見えて、実際はふたつの世界に分かれている。


 重なって見えているだけで、同じキャンバスには存在していない。

 

 もっとも、おかしいのは僕の感覚だということはわかってる。 


 わかっていても、どうすることもできないというだけだ。


 常に思考がぼんやりとしていて、脳の大半が眠っているような感覚がつきまとう。


 すべてから自分が切り離されているように感じられて、


 それが現実感のなさを加速させていく。


 いったい、僕はどこにいるのだろう。


 この世界に生きているはずなのに、僕はどこにもいない。

 

「いつも笑っていて、毎日が楽しそうだよね」


 自分の身体さえも、僕の意思とは無関係に生きている。


 いつから、僕はこうなってしまったのだろう。


 その答えを知れたとして、僕はもとに戻れるのだろうか。


 行き場のない心だけが、あてもなく彷徨っている。

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