19-A 地獄絵図の戦い

 あまりのおぞましい光景に夢喰いは攻撃の手を止めてしまった。


「……なんだお前たちは……何かの冗談のつもりか?」


 それもそのはず。今、目の前にいる魔法少女四人は精霊たちと融合した最終形態エレメントスタイルになっていたのだ。ここで、再度(といっても前出は第12話と第16話なので覚えている読者も少ないだろう)それぞれの最終形態ふざけた格好を確認しておくことにする。


 上半身がはちきれんばかりにパンプアップして(筋肉が盛り上がって)いるのが、マッスル・バタフライ。体型に合わせて衣装が伸び縮みするので、破れてしまう心配はない。ただ、たくましい上半身の上に可愛らしい顔が乗っかっているので縮尺比が間違っているんじゃないかと錯覚してしまうだけだ。


 次にセンチュリー・エターナル。体型や衣装はこれまでと変わらないが、顔をドーランで真っ白に塗り、目の周りに赤いペイントを施している。さながら創世記のヴォーカル、ジェーモン大暮を彷彿とさせる。頬の辺りを灰色に塗っているのもポイントが高い。


 そしてクリスタル・オーシャン。彼はただ白衣を着ているだけというなんの面白味もない融合となってしまった。あまり多くは語るまい。PTAに配慮してクリスタル★ナイトメアをお色気担当にしなかったからこうなったのだ。


 最後にミックスアイ・イノセント。彼女は救世主の衣装と装備を受け継いでいる。ところどころ破れて穴が開いている一枚布(でも、ちゃんと穴の向こうの肌は見えないから安心してね!)に、背中に大きな電飾を背負っている。常に背中から後光が刺していて、暗い夜道も安全なのだ! ちょっと重いけど。



「ち、違うわよ! これが私たちの最終形態エレメントスタイルなのよ!」


 ――やっぱりこの格好は変なのかしら? もしかして私ジェーモン閣下のファンだってバレちゃってる?


 エターナルは最終決戦を前にしても変なことを気にしてしまっていた。格好は変でも、それぞれ魔力はとても充実していて、明らかに今までよりも力が増していることがわかった。やはり最終形態は伊達じゃないのだ。「元の姿のまま、力だけが上がるようにしてやる(第12話のマッスルのセリフ)」は嘘っぱちじゃないか! バタフライは自分の理想とする筋肉が今、自分の体に宿っていることに感動していた。


「まあいい、そんなふざけた格好のまま負けると見た目にも面白いだろう!」


 夢喰いがマッスル・バタフライに襲い掛かった。先ほどは消えたように見えた夢喰いの姿が今度ははっきりと見てとれた。「見える! これが最終形態マッスルスタイルの真の力なのね!」



 夢喰いとマッスル・バタフライの攻撃が交錯する。お互いパンチやキックを放ち、それを交わしたり受け止めたり。しかしあまりにも早すぎて二人の間に風が巻き起こっているようにしか見えなかった。ただ、一瞬の隙をついてバタフライの攻撃が夢喰いに命中し、彼を数メートル吹っ飛ばした。


「ちっ!」


 夢喰いがバタフライを睨みつける。すると、背後に三人の魔法少女の気配を感じて振り向く。

 その瞬間、夢喰いの視界は白一色になった。

 オーシャンの着ていた白衣が視界を覆い尽くしたのだ。「こざかしい真似をっ!」と彼が白衣を切り裂くと、その切れ目から悪魔(ジェーモン閣下のこと)の顔をしたエターナルが突っ込んできた。

 突然現れた変な顔に、一瞬ビクッとしたのをイノセントは見逃さなかった。上空から思いっきり背中の背負っていた電飾をハンマーのように持って、夢喰いに叩きつけた。


「ぐおっ!」

 ぐしゃっという音を立てて夢喰いは地面にめり込んだ。当然ながら電飾も叩きつけられて完全に破壊されてしまった。


「うわ! 私の大事な電飾がぁっ!」というミックスアイの声が聞こえたような聞こえなかったような……。今はイノセントと融合しているので直接声が聞こえることはないのだ。


「よしっ! 作戦成功!」


 クリスタル・オーシャンが自分の着ている白衣の襟を正しながら言った。彼女の白衣は単なる衣装にとどまらず、目隠しに使ったり、魔法反射鏡ヒラリマントとしても使えるしで、使い道は無限大なのだ。しかも魔法で何枚も作り出すことができる。先ほど夢食いが切り裂いたものも、事前に彼女が魔法で作り出したものだった。


「ゆるさんぞ! マジカル☆ドリーマーズ!」


 ぐしゃぐしゃになった電飾の下から夢食いの怒りのこもった声がした。そして電飾を吹き飛ばし、彼は怒りをあらわにして立ち上がった。先ほどまで可愛らしい姿だった少年が、額から血を流し、髪はボサボサになり、赤い眼球でマジカル☆ドリーマーズを睨みつけている。


 マッチョ、悪魔、白衣、救世主の姿のマジカル☆ドリーマーズは、夢喰いを囲うようにして立っている。そして彼女らの両手は開かれ、夢喰いに向けられていた。


「なんの真似だ……」


 あまりの出血にふらつきながら、夢喰いが右手で額を抑える。チャンスは今しかない! と四人は声を揃えて魔法を唱えた。


「マジカル・ドリーム・ロイヤルフラッシュ!」


 両手から放たれた魔力は強固な壁となり、夢喰いを取り囲んだ。この技は、以前マーヤを元に戻すためにバタフライ、エターナル、オーシャンが三人で発動した魔法「マジカル・ドリーム・フラッシュ」と同様のものだったが、今回は浄化をするわけではなく、夢喰いを魔法の箱の中に閉じ込める目的で使われたのだ。


「ははは! この程度の魔力では私は抑えられんぞ!」と強がる夢喰いだったが、マジカル☆ドリーマーズの真の狙いは別にあったのだ。



「今よ! プリンセス!」イノセントが目線を上空に向けて叫んだ。



 なんと、マジカル・プリンセスが空中で魔力を貯め、手のひらに乗るぐらいの大きさの光の球を作り出して待機していたのだった。精霊と融合したマジカル☆ドリーマーズたちが戦いを続けている間、プリンセスは上空で最上級の魔法を使う準備をしていたのだ。


「くっ!」


 流石の夢喰いも、空に浮かぶプリンセスと生み出された光の球の凄まじい魔力を感じ取ったのだろう。先ほどまでの強がりはどこへやら、眉間にシワを寄せて握り拳を作って、「くそ、出せ! ここから出すんだ!」と周囲の壁を殴り始めた。もちろん、マジカル☆ドリーマーズの四人は両手を広げたまま魔法の壁を作り続ける。



 プリンセスはキリッとした顔で夢食いを見つめたまま、最後の魔法を発動した。

「マジカル・レインボー・コメット!」(エコー付き)


 魔力が凝縮された光の玉が隕石のように、一直線に夢喰いに向かっていく。


「ぐおおおお! 私が負けるわけが……ない……の……だァァァ!」


 マジカル☆ドリーマーズが作り出した魔法の壁をすり抜けて、リーサの魔法が夢喰いの体の中心を貫いた。そして、ズガアアアン! という爆音とともに、辺りは土煙に覆われた。

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