18-B 夢喰い最終形態

「グオオオオオ!」


 夢喰いがその大きな左腕を振りかざし、マジカル☆ドリーマーズが立っている地面に向かって打ち付けた。それを全員が難なく躱し、それぞれ別方向へとジャンプする。


「やあっ!」っと声を出してバタフライが夢喰いの腹部にパンチを放つ。先ほどまでは見えない壁に阻まれていた攻撃がいとも簡単に通ってしまった。鈍い音を立てて、夢喰いの体が一瞬ゆがむ。


「お姉様の魔力を失った今がチャンスですわ!」

 イノセントの言葉にエターナルがうん、とうなづき夢喰いの右側に回り込む。


――右腕がないこちらから魔法を叩き込むのがベスト! 攻撃は来ないはず! 彼女のその判断がわずかな心の隙を生んでしまった。次の瞬間、無くなったはずの夢喰いの右腕が再生しエターナル目掛けて襲いかかった。


 ――しまった! エターナルは敵の攻撃の直撃を覚悟した。そのとき、オーシャンがエターナルと右腕の間に割り込み、両手からバリアを出して夢喰いの攻撃を防いだ。


「ありがとう、オーシャン!」

 エターナルが感謝を述べると、オーシャンは「防御はボクに任せて、エターナルは攻撃に専念して!」とにこっと笑った。


 そんな様子を少し離れた場所から見ていたイノセントが夢喰いの攻撃を避けながら、プリンセスに話しかける。


「あちらは大丈夫そうです、行きましょう! お姉様……いえ、マジカル・プリンセス!」

「ええ!」


 白とピンクの魔法少女が夢喰いの左側へと走り、軽くジャンプする。ふわりと舞い上がったところに、夢喰いの左手の攻撃が二人に向かってくる。それをイノセントが軽く手をかざすだけで弾き飛ばした。


「今です、プリンセス!」


 イノセントの後方からプリンセスが初の攻撃を見せる。両手を広げて前へ出し、そこに魔力を込める。掌には大きな白い光が集まり、巨大な魔法のエネルギー弾を作り出した。風が揺れ、大地が震えた。それに気づいたバタフライがプリンセスを見て、思わず「……すごすぎるプリンセスリーサ……」と呟いたほどだった。



「プリンセス、シューティング・スター!」



 エコーのかかった声と同時に、巨大な魔法が夢喰い目掛けて飛んでいく。


「グオオオオ!」


 夢喰いも両手を前に出して、プリンセスの攻撃を受け止めようとする。しかし受け止めるどころか、魔法は、触れた瞬間から夢喰いの黒い体をあっという間に削り取るようにして勢いよく進んでいく。

 夢喰いがどれだけ叫んで力を込めても、その勢いは止まらなかった。結局彼の上半身を全てえぐり取って魔法は空のはるか彼方へと飛んで行った。


「やったわ!」一部始終を見ていたエターナルが喜びの声を上げる。


「なんと……一撃で……」オーシャンもあっけない幕切れに驚き、目も口も大きく開けて驚いていた。


「……」バタフライは何も言わずにただ遠くからにこりと微笑んでいた。


 そしてプリンセスもまた、自身の魔法の威力に驚いて、自分の掌を見つめていた。――私が……こんなに強力な魔法を……。ぐっと拳を握りしめて、満足そうな表情を浮かべ……


「まだよ、みんな!」

 エターナルが叫んだ。


 夢喰いは上半身が失われてもなお、倒れることはなかった。それが何か嫌な予感がするといち早く察したのが彼女だった。魔法少女アニメに精通している彼女は、この後の展開がなんとなくではあるが、読めていたのだ。


「恐らく夢喰いはもう一段階、変身を残しています!」

 

 その言葉と同時に、夢喰いの下半身が小さな黒い粒となり、凝縮されて小さな人間の形へと変化した。特に大きな音を立てるわけではなく、ただただ静かに黒い粒子が集まり段々と姿が現れてくる。

 

 マジカル☆ドリーマーズの五人は一箇所に集まり、夢喰いの変化をただ見つめていた。静かではあるが何か異様な雰囲気を感じて、なんだか動こうにも動けなかったのだ。


「夢喰いの最終形態のお出ましってわけねわけか

 バタフライが武者震いして言った。

 そこに彼女の腰のコンパクトからニョキッとマッスルが姿を表して言葉を続ける。


「気をつけろ、バタフライ……ありゃあ今までとは比べものにならんぐらい魔力を秘めているぞ」


 マッスルと同様に他の精霊たちもコンパクトからニョキニョキっと姿を表して次々に喋り出す。

「前回の夢喰いはあんな姿になることはなかったぜ……心してかかれ、エターナル」とセンチュリー。


「私たちが以前封印した時よりも進化しているわね……」クリスタルも夢喰いの異常な変化にいつになく真剣な表情をしている。


「……総力戦になるな……今こそ真の最終形態エレメントスタイルになるときだろうか?(訳:我々精霊と融合した、あのすんごい素敵な格好で戦うべきだろう?)」


「それは嫌です」

 真顔で語ったミックスアイのセリフをイノセントが間髪入れずにぶった切った。ええ、結構本気で言ってるのに……と彼は残念そうな顔をする。


「みんな……来るわよ!」

 黒い粒子の動きが止まった。プリンセスの言葉に、全員が構えをとる。

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