17-B 闘いの果てに

「マジカル・ウインド・パーンチ!」(解説:マジカル・バタフライのただのパンチ)

「マジカル・ファンタスティック・エターナル!」(解説:マジカル・エターナルの黄色いビーム)

「マジカル・オーシャンウェイブ!」(解説:マジカル・オーシャンの勢いのある水攻撃)

「マジカル・シャイニングミラージュ!」(解説:マジカル・イノセントのめっちゃ強い光)


 マジカル☆ドリーマーズが次々に攻撃を繰り出していくが、夢喰いはそれをことごとく跳ね返していく。

 その巨体から繰り出される攻撃はゆっくりとしたものだが、手を振るだけで周囲に衝撃波が広がり、羽を動かすと強烈な突風が吹き荒れる。次第にマジカル☆ドリーマーズたちは劣勢へと追い込まれていった。


どうしようくそったれ! ぜんぜん夢喰いにダメージを与えられないわが通らねねぇ!」


 マジカル・バタフライはマジカル・ウインド・パンチを連発したせいで肩で息をしながら、なんとか夢喰いの攻撃を避け続けている。


「きっと夢喰いはお姉様の魔力も吸い取っているのですわ! なんとかお姉様を夢喰いから引き剥がさないと!」とイノセントが技を繰り出すが、やはり攻撃はすべて敵に届かずに弾かれてしまう。


「夢喰いを倒せばリーサアネゴは取り戻せる。だけど夢食いを倒すためにはリーサアネゴを取り戻さないといけない……これは流石のボクにもすぐに解決策が浮かばない……」

 二つの矛盾にマジカル・オーシャンも頭を抱える。このままではこちらが一方的に力を消耗していくだけだということだけはわかっていた。それでも、夢喰いの攻撃を交わしながらこちらが責め続けるしか策はないのだ。


「リーサ……お願い……目を覚まして……」

 エターナルの言葉に、当然だがリーサは反応することはなかった。



 ☆★☆



 ここはリーサの心の中。


 どこまでも続く真っ黒な海の中を、彼女はひとり仰向けのままどこまでもどこまでも落ちていった。


「ああ、これでよかったんだ……」


 リーサは安心していた。ただ目を閉じて、流れに身を任せているだけ。「マジカル王国を取り戻す」という夢は夢喰いに奪われてしまい、正しい判断ができなくなっていた。


「これでもう私は苦しむことはない……ずっとこのまま……落ちていけばいいのよ」


 何に苦しんでいたかもわからなくなってきた。うっすらと四人の人間の影が浮かんだような気がしたが、すぐに消えた。次に、マッチョとヘビメタと白衣と救世主のような四つのおぞましい影も浮かんだような気がしたが、それは気のせいだった。


 音のない暗闇の中、リーサはゆっくりと瞳を閉じた。

 そのとき、彼女の胸元にあるペンダントが強い光を放った。


 あまりの眩しさに、リーサは思わず目を開けてしまう。すると、ペンダントの光がプロジェクターの要領で暗闇の先に映像を映し出した。それは、夢喰いと戦っているマジカル☆ドリーマーズの現在の様子だった。



「リーーサァッ! 目を醒ましてせよっ!」マジカル・バタフライがパンチを繰り出すが、夢喰いの巨体に届く前に弾かれて地面に叩きつけられた。「ぐはっ!」その衝撃で変身が解けて、マジカル・バタフライは番所蝶介の姿へと戻ってしまった。


「リーサ! 負けちゃダメ!」マジカル・エターナルが目に見えないステッキ(持っていないのに持っているフリをしている)を使って攻撃を繰り出そうとしたが、夢喰いが真っ黒な羽を羽ばたかせて彼女を吹き飛ばした。「きゃああっ!」竜巻のような渦に巻き込まれたマジカル・エターナルもまた、変身が解けて城ヶ崎悠花の姿へと戻ってしまう。


「悠花お姉様!」マジカル・イノセントが変身が解けてしまい、意識を失った悠花の元へ駆け寄る。「しっかりしてくださいまし!」そうして夢喰いの攻撃から目を離したのがいけなかった。イノセントの元へ夢喰いの巨大な拳が襲いかかる。


「くっ!」イノセントは思わず目を閉じた。すると目の前にはマジカル・オーシャンが両手を広げて夢喰いの攻撃を防いでいた。「オーシャン!」イノセントがほっとしたのも束の間、グオオオオ! と叫び声を上げて夢喰いがオーシャンの両手から広がる青色のバリアに向かって圧をかける。「ごめん、防ぎきれないかも……」オーシャンが言うより前に、ピシピシッっとバリアにヒビが入りあっという間に四散した。「うわああっ!」「きゃあっ!」そして二人もまた、夢喰いの攻撃をまともに浴びて地面に打ち付けられた。「姫……」「リーサお姉様……夢喰いに負けないでください……まし」そのまま変身が解けて、海原秀雄と夢野真弥の姿で意識を失った。


「マジカル☆ドリーマーズもこれでおしまいだ! 人間界の夢も奪いにいくとしよう!」

 夢喰いの高笑いが荒廃したマジカル王国に響いた。雨は未だに激しく降り続けている。

 いつもの高校生の姿に戻ってしまった四人は、微かに息はしているものの、動くことはなかった。




「……」

 戦いの一部始終をリーサは暗闇の中で見つめていた。いつの間にか、その目には精気が宿っていた。

 ――私はこんなところで何をしているのだろう。蝶介たちが命をかけて戦ってくれている。そして私のことを最後まで心配してくれている。

 

 何が、「私のことを冷たい目で見つめている」だ! 何が「夢を持っているから苦しむ」だ! そんな夢喰いの言葉に乗ってしまった自分が情けなくて、はずかしかった。

 

 目の前にいた四人(と四人の精霊)は間違いなく、私のことを大切な仲間だと思ってくれていたのに!

 

 いつの間にか、彼女の瞳から一筋の涙がこぼれていた。

 

 その涙が頬をつたい、一粒こぼれ落ちる。そして暗闇の世界の底に落ち、ポチャンと波紋が広がったとき……

 


 奇跡は起こった。

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