16-B リーサの苦悩
「マジカル・ドリームチェンジ!」
リーサがコンパクトを握りしめて、声高らかに叫んだ。
「……」蝶介は無言のままリーサを見つめている。
「なんていうこと……五人目はリーサだったのね(すっとぼけではない)」と悠花。
「おおっ、ついに最後の魔法少女が……」秀雄が興奮気味に言う。
「お姉様……」マーヤは若干涙ぐみながら、リーサを見つめている。
ピンク色に輝く光とともに、リーサは五人目の魔法少女に変身するはずだった。しかし、コンパクトはそれ以上何も反応することはなく、ゆっくりと光は消えていった。
「……え?」
周りで見守っていた八人(四人+元四天王)はさることながら、一番驚いていたのはリーサ自身だった。今の話の流れでは、確実に自分が魔法少女になるはずだったから。
「あら、セリフを間違えたかしら? マジカルッ! ドリームチェンジッ!」
再びコンパクトを握りしめて変身するための言葉を何度か叫んでみたが、ただリーサの声が部屋中にこだまするだけでそれ以上に何も起こることはなかった。
「……変身……できない?」
リーサはそう言うと、膝をついてがっくりとうなだれた。そんな彼女の姿を見て、誰も声をかけることができなかった。
「……」
ミックスアイたち精霊も困惑していた。
四つの宝珠の光が中央の宝石に集まることで、最後のコンパクトが誕生した。そしてそれは確かにリーサの手の中に収まったのだ。だからピンク色のコンパクトの正式な持ち主は彼女に間違いないはずだった。……なのに、なぜ変身できないのだ? ミックスアイはしばらく眉間にシワを寄せながら考えた。
「リーサ……」蝶介もうなだれる彼女になんと声をかけていいかわからなかった。これまで一緒に戦ってきた仲間なのに、こんな時に気の利いたセリフが言えない、思いつかない自分が歯痒かった。悠花や秀雄も同様に、動けず口も開けなかった。
「お姉様!」
マーヤはリーサの元へ近づき声をかける。
そして無理やり体を抱き抱えて起こし、「さあ、もう一度唱えましょう! 今度は私も一緒に……」とリーサの手とコンパクトを彼女の両手が包み込んだ。
そのときだった。
「あっ……お姉様っ!」
リーサの手から力が抜けて、コンパクトがするりと落ちた。カランカラン……と乾いた音を立てて、彼女の足元でコンパクトが数回跳ねる。
「ごめんね……みんな。私は魔法少女になる資格がないみたい……マーヤみたいに魔力が多いわけではないから……」
うっすらと目に涙を浮かべながら、だけど無理やり笑顔を作りながら、震える声でそう言うと、リーサは一人部屋を飛び出していった。
「お姉様!」「リーサ!」「姫!」
一斉にみんなが声をかけたが、追いかけることができなかった。追いかけても何もしてあげられないことがわかっていたから。
「困ったわね……まさか変身できないなんて」
クリスタルがそう呟くと、その言葉に反応してマーヤがつっかかる。「お姉様の魔力は十分すぎるほどですわ! 何かの間違いなんですわ……そう、たまたま今日は調子が悪かったとか……」
「調子が悪いから変身できねぇ、なんてこと今まであったか、蝶介?」
今度はマッスルが口を開いて蝶介の方を見る。「いや……」と答える蝶介に、「だろぅ?」とマッスル。
「でも……でもピンクのコンパクトは確かにお姉様の手元へ収まったのですわ!」
「そう、それは確かだ。最後の魔法少女はリーサ姫で間違いないはずなんだが……もしかすると足りないのは……心なのかもしれないな」
マーヤの言葉に、今度はミックスアイが言葉を付け加えた。
「心……ですか」悠花が彼の言葉を復唱する。そうだ、とミックスアイがうなづく。
「ああ、魔力があるないの問題ではなく、彼女に魔法少女として戦う意志や覚悟があるかどうか……ということだろう」
「心の問題だとしたら、流石の超天才の僕でも特効薬は思いつかないなぁ……姫自身にがんばってもらうしか……」秀雄もぽつりと口を開く。
「でもよぉ! こんなときこそ近くにいてやるのが、仲間ってもんじゃネェの? きっとジェーモン閣下もそういうゼェ! なぁ悠花殿!」
センチュリーのその言葉に、蝶介が握り拳にぐっと力を込めた。
「行こう、みんな。こんなときだからこそ、リーサのそばにいてあげよう。何もしてあげられないかもしれないけどさ」
彼の男気あるせりふに他のみんなもうん! とうなづいた。
ガハハハハ! がんばれよ! とマッスルが蝶介に声をかけた。「おう」と返事をして蝶介たち四人はリーサを追って部屋を出ていった。もちろん、リーサが落としたままのピンク色のコンパクトをしっかりと持って。
「……青春ってやつねぇ」
クリスタルが遠い目をしてタバコを吸って吐く真似をした。
「しかし夢喰いの完全復活も時間の問題だ。できるだけ早くマジカル☆ドリーマーズ五人が揃わなければ、世界が危ない」
ミックスアイが不安げな表情を見せた。
<おまけ>
このちょっとしんみりとしたシーンが終わった後……。
「ちょっと、みんなの前で創世記の話を出すのはやめてって言ったでしょ!」
「いてててて、
実態を持たないセンチュリーなのに、なぜかほっぺたをつまんで叱ることができる悠花なのであった。
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