13-B お客様が第四の魔法少女ですか?
お昼を周り、文化祭も終わりが近づいてきた。模擬店の営業は午後二時まで。あと一時間弱で営業終了となった。
幸い、悪魔のような蝶介が接客業に加わったことで女子生徒目当ての男の客が激減し、魔法少女カフェは健全な姿を取り戻した。
「いらっしゃいませ! ご注文は?」
「かしこまりました、乙女の祈り(ピーチジュース)でございますね!」
李紗と真弥もノリノリで魔法少女のコスプレをして、接客業を楽しんでいた。「一緒に写真を撮ってください!」という女子高生のお願いにも快く応じ、このまま順調に文化祭は終わるように思われた。
「だめよ、このままじゃ」
バックヤードで一人休憩していた悠花が憂いていた。タブレットで在庫と売り上げを計算していた秀雄が彼女の言葉に反応する。
「スカウト?」他のクラスメイトもいるので大っぴらに「第四の魔法少女をスカウトする」なんて言うことができず、秀雄が小さな声で尋ねた。
「そう、全然……こうビビッとくる子がいないのよ!」
「僕も個人的に考えてみたんだけど……これまでの魔法少女アニメの歴史を振り返っても……四人目となると意外性が求められると思うんだ」
悠花と秀雄がひそひそ声で話をしているが、他のクラスメイトからは委員長と超天才がカフェの収支のことについて話をしているとしか思っていなかった。まさか魔法少女に適した人材がいないか探しているなど誰が想像できようか。こういうとき、普段の学級での立ち位置が役に立つのだ。
「ねぇねぇ、悠花お姉様!」
突然、真弥がバックヤードへ戻ってきて悠花に声をかけた。「ん、どうかした?」とまたしてもトラブルかしらと思った彼女に、真弥が若干興奮気味に話した。
「現れたのですわ! 第四、第五の候補が!」
☆★☆
「どの子のことかしら?」
「まずは蝶介の近くにいる女の子ですわ、悠花お姉様!」
バックヤードの仕切りの隙間から悠花と真弥がテーブル席を覗く。秀雄は別の隙間から同じ場所を片目で凝視する。三人の視線の先には、テーブル席でケーキを美味しそうに食べている親子の姿があった。
まだ見た感じ若い母親と幼稚園生ぐらいの小さい女の子が二人がけの席に座っている。このように地域の人々も自由に参加できるのが夢見丘文化祭のいいところでもある。(ミックスアイとか、Aパートの不良のような変な奴らとかが入ってくることは心配だが……ちゃんと警備も雇っているのだ)
「……で、第四の候補はお母さんの方かしら?」
「違います悠花お姉様! 小さい女の子の方です。あの子からただならぬオーラを感じませんか?」
そういう真弥の目つきは真剣そのものだったが、悠花が眉をひそめながら聞き返す。
「オーラ?」
「はい、見てください。あの子の服装を! 大きく魔法少女のイラストが描かれてあるんです! あれはもう、自分から魔法少女になりたいと言っているようなものですわ!」
ちょうどタイミングを同じくして、小さな女の子が体をこちらの方に向けた。確かに魔法少女のイラストが大きく描かれたTシャツを着ているのがはっきりとわかった。そこに魔法少女マニアである悠花が嬉しそうに反応する。
「ほう、あれは魔法少女マジマジ・マージちゃんね……なかなかいいセンスをしているじゃない……って、そういうことじゃなくて!」
悠花が真弥につっこむと、今度は秀雄も眼鏡をキラリと輝かせながらつぶやいた。
「僕的にはお母さんが魔法少女っていうのもインパクトが強くていいと思うけどなぁ」
しかし、二人にドン引きされてしまい、秀雄はゴホン! と咳払いをして今の発言を無かったことにしようとした。
悠花はしばらく腕組みをして考えた後で言った。
「やっぱりだめよ! 幼稚園生が魔法少女とか聞いたことないわ! せめて小学三年生ぐらいからよ!」
残念そうな悠花だったが、彼女も幼稚園生には荷が重すぎると感じていたのだろう。気持ちを切り替えて次の魔法少女候補を紹介することにした。
「そうですか……なら、第五の候補をご覧ください! 入り口近くの長い髪の女性ですわ! あの方からは確実に魔力を感じるのです!」
「……女性?」
「ええ、後ろ姿だけしか確認していませんが、あれだけ長い髪の男性は見たことがありませんわ」
次に真弥が紹介したのは、こちらに背を向けてお一人様席に座っている髪の長い人物だった。女性……と言われれば女性のようにも見え、しかし若干肩幅が広く男性のように見えなくもない。何かのコスプレをしているのか、所々破れた布切れ一枚だけを身にまとっていた。
ん? と秀雄が目を凝らして第五の魔法少女を見つめた後、決して外に聞こえないくらいの声の大きさで言った。
「……あれって、ミックスアイ★ナイトメアじゃないの?」
「うん、確かにミックスアイよ」
秀雄の意見に悠花もうなづく。
「まさか! 文化祭に来るはずがありませんわ!」と悠花が否定するが、
「ほら、今振り向いた」
すみません、注文を! と第五の魔法少女候補が手を挙げて振り返り、店員を呼ぶ。そのときにはっきりと顔まで見ることができたのだ。確実に、ミックスアイ★ナイトメアだった。
「げげげっ……大変失礼いたしました」
真弥がとても残念そうな表情を浮かべて二人に謝った。まさか最後の四天王をかわいい女の子と見間違えるなんて……文化祭で魔法少女のコスプレもさせてもらって、ちょっと浮かれてしまっていたのかもしれない。
「しかしどうしてミックスアイ★ナイトメアがここに?」
秀雄は小声ながらも、警戒していた。彼はすでに青色のコンパクトを取り出していつでも変身できるように準備を整えていた。
「あっ、蝶介とお姉様が接客に向かいましたわ!」
接客中だった蝶介と李紗もやはり四天王の存在に気付き、最強と名高いミックスアイの元へと注文をとりに行った。
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