13-A 二年三組魔法少女カフェへようこそ!
「ほう、ここは肉巻きおにぎりを売っているのか……」
ミックスアイ★ナイトメアが中庭を普通に歩き、そこにある模擬店を訪れていた。夢見丘文化祭は一般のお客さんも入れることから、大人が校内を歩いていることに何の違和感もない。
しかも高校生が自分たちの模擬店や展示会の宣伝と称してコスプレしながらチラシを配ったり、校内を歩いたりしていることから、ミックスアイを見ても「ああ、何かのコスプレでもしているんだろうな」くらいにしか思われなかった。
これは彼に取っては好都合だった。変に怪しまれる心配もなく、学校内に侵入し仕事が行えるのだから。今回ミックスアイが夢見丘文化祭に訪れたのは、当然生き生きと活動している高校生たちの夢を奪うためである。しかし、そんなことは魔法を使えばあっという間に終わってしまうのだから、とりあえずは文化祭を十分に楽しんでからにしようと思っていたのだった。
「おっ、ここはたこ焼き……8個で200円」
どうやって現金を調達したのかわからないが、ミックスアイは次から次へと模擬店を巡って食事を楽しんだり、展示会場を訪れて作品を鑑賞したりして楽しんだ。
☆★☆
「いらっしゃいませ! ご注文は何になさいますか?」
「こちら、マジカル☆クリーミーグリーン(抹茶オレ)でございます、ごゆっくりどうぞ!」
二年三組の魔法少女カフェは大盛況だった。可愛い女子高生が魔法少女のコスプレをして接客をしてくれるとあって、しかも超美少女転校生姉妹もそれに参加しているという噂が街中に広まって、多くの男子生徒や一般男性までもが殺到していた。
「こ……こんなはずではなかったのよ」
バックヤード(といっても教室の後方を仕切っただけの空間だが)で悠花があまりの人数に嬉しさと驚きのあまり声を出した。
「すまないアネゴ、超天才の僕でもここまでの来客は予想できなかったよ……」
過去に類を見ないほどの盛況ぶりに終了予定時刻を待たずに完売してしまいそうだった。それでは困るのだ。文化祭をクラス全員で楽しむというのも大事な目的だが、悠花たちマジカル☆ドリーマーズにとっては「第四の魔法少女候補を探すこと」もまた目的なのである。
今のところ訪れるのは女子高生目当ての男どもか、カワイイ物好きのミーハーなギャル女子生徒が多く、「いかにも魔法少女に適していそうな」子は見当たらなかった。
「きゃっ!」
悠花がテーブルに「マジカル☆チェリーボム(さくらんぼシュークリーム)」を届けてバックヤードに戻ろうとしたときだった。横切ったテーブル席にいた、いかにも不良の格好をした男子生徒四人組のうちの一人が、悠花のスカートをさっとめくったのだ。
当然、PTAに配慮が行き届いているこの物語なので、スカートの下にはスパッツを履いていて家族で見ていたとしても変な空気にはならないはずなのだが……。
悠花は学級委員長として、いや他の
「ちょっと、やめていただけますか!」
「へっへっへ、いいじゃねぇか。減るもんじゃねぇしよ!」
「そうだそうだ、それくらいサービスしねぇと客も寄ってこねぇぞ!」
接客をしているのが女子生徒ばかりということで、不良どもが調子に乗ってへらへらとヤジを飛ばす。「ああ、悠花様大丈夫かしら!」と他の
しかし悠花は物怖じ一つせず(だってこんな不良たちよりももっともっと強い敵と戦っているからね!)むしろノリノリで魔法を詠唱し始めた。
「夢をなくした悲しい不良さん、私の召喚魔法で浄化して差しあげますわ! いでよ、マッスル★バタフライ!」
「ひゃっひゃっひゃ! なんだよそれ、本当に魔法少女のつもりなのかよ!」と不良どもが笑っていると、悠花の後ろにぬっと巨人の影が現れた。茶髪で頭に緑色のカチューシャをつけた筋肉ムキムキの悪魔がそこに立っていたのである。
「ひっ! ばばばばばば、番長!」
それに気づいた不良どもは一瞬にして口を閉ざし、両手を膝の上に置いて背筋をピンと伸ばした。――やばい。目を合わせたら死んでしまう。二年三組の番長を前にして彼らの足はガタガタと震えていた。
これまで穏やかだったカフェ内の空気が一変、緊張したものへと変わる。他の客もただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、動いたり言葉を発したりするものはいなくなった。
「おい」「ひゃい!」
蝶介の一言に不良が震えた声で返事をする。
「ここは魔法少女カフェだ(いらっしゃいませ!)」「すすす、すみませんでした!」
「わかってるよな?(何を注文するか早く決めろよ?)」「ははは、はい!(スカートをめくったから俺たちは死ぬってことですよね!)」
「じゃあさっさと決めてくれ(注文は何なんだよ?)」「わ、わかりました!(もう二度としません、だから命だけはお助けください!)」
噛み合っていない会話の後、不良四人組はガチガチと歯を震わせながら逃げるようにしてその場を後にした。
「あれ?(どうして注文を取る前に帰ったんだ?)」蝶介が不思議そうな顔をしてその場に立ち尽くしていると、
わっ! と会場中が歓声に包まれた。
そして、悠花をはじめとする二年三組のクラス全員が蝶介の周りに集まってきた。
「ありがとう、番所くん!」
「番長!」
「ありがとう番長……いえ、番所さま!」
「番長がこのクラスにいてくださってよかった!」
番長! 番長! 番長!
会場に番長コールと拍手と歓声が鳴り響いた。何が何だかわけのわからない蝶介だったが、クラスのみんなからこんなに親しげに近づいてもらって嬉しかった。
「マッスル★バタフライ」という悠花の声が聞こえたので、自分が呼ばれたのかなと、入り口近くにいた蝶介は彼女の元へ向かっただけだったのに……。(つまり、蝶介は悠花がスカートをめくられたことに気付いていないのだ)そしててっきり、男性客だから自分が接客するんだなと思っただけなのに……。
「お姉さま、蝶介かっこいいですわね」
「まあね、あの筋肉も役に立つときがあるのね」
「ううっ、アニキ……さすが僕のアニキっす……」
バックヤードから、真弥、李紗、秀雄の三人も笑みを浮かべてみんなの様子を眺めていた。
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