06-B 仲間になるのかい、ならないのかい、どっちなんだい!

 海原秀雄が真っ直ぐにマーヤを見つめて言った。

「僕は、仲間には……なーらーないっ!」


「えっ……!」

 予期せぬ返事にマーヤは開いた口が塞がらなかった。さっきの受け答えでは好感触だったのになぜ! と拳を握りしめた。


 そんなマーヤの姿を見ても、海原は冷静に言葉を続けた。


「ごめんね、僕は嘘をついていたんだ」

「なん……だと?(またしてもオサレBLEACH風に)」



「時を止めると、絶対にアニキたちが助けに来てくれる。そのための時間稼ぎとして僕は君に色々と質問していたというわけさ。ついでに敵の情報を色々と入手するためにね。そしておそらくもうアニキたちは近くまで来ている。僕の計算では数分前からこのブロック塀あたりに隠れていて、僕たちの話を聞いているはずなんだけど……」(まさかの完全正解である)



「きっ、貴様ぁ!」


 マーヤが怒りに震え、体から黒いオーラを出しながら海原を睨みつけた。



「そして君も、嘘をついているんだ」


「嘘……ですって?」

 彼女の禍々しい黒いオーラが一瞬ピタッと止まる。海原はまたしてもメガネをくいっと人差し指で軽く押さえる。



「本当に人の夢を奪いたいのなら、魔法で僕を洗脳してしまえばいいんだ。なのに君はそれをしない。普通の高校生でいながら魔法を使えるようにするなんて……いつ裏切られるかわからないそんなリスクを、僕なら負わない。裏切ったら魔力を回収すればいいだって? だったら最初から洗脳したほうが話は早いはずなんだ」



「……」



「つまり、君は僕に言えない何か他の理由を隠しているんだ……そう、例えば僕に魔力を与えることで、同じクラスにいる君のお姉さんの行動を見守る……とかね」



 見た目は子供、頭脳は大人の小学生名探偵のように、眼鏡をキラリと輝かせて海原がそう言うと、マーヤはぎくりとして目を見開いた。(もちろん、蝶ネクタイ型の変声器などは持ち合わせてはいない)


「!」


「どうやら図星だったようだね。君はおそらく夢喰いから夢野さんを始末するように言われているんだろう? でも心のどこかでそれを拒んでいるんだ」


「うるさい、やめろ……」

 マーヤは両手で耳を塞ぎ、海原の話を聞きたくないと顔を左右に振る。



「そして君は先日こうも言っていた『私はリーサよりも強いんだよ!』と。もしかして、君は夢野さんの強さに憧れて、そして自分の強さをお姉さんに認めてほしかったんじゃないのかい? そのために夢喰いに魂を売った……」


「それ以上言うな!」



「マーヤ……それは本当なの?」

 いつの間にか、マーヤの目の前にリーサが立っていた。彼女の目は悲しみに満ちて、うっすらと涙を浮かべていた。「そんなことのために……夢喰いの封印を解いたというの?」



「ねっ……姉さん!」

 マーヤが目の前にいる自分の姉を見て、体を震わせた。「リーサを消せ」という夢喰いの洗脳と、姉を守りたいという妹の思いが頭の中で戦う。


「うおおオオオオ! 姉さ……リーサ……生キテは……助け……帰サナイ……ゾ!」


 そして夢喰いの洗脳の方が姉への思いを上回り、マーヤは身体中からこれまで以上の黒いオーラを出して叫んだ。


「グオオオオッ!」


 目が真っ赤に染まり、顔や首筋、腕に血管が浮き出てきた。これは前回戦ったとき以上に強力な魔力を持っている! とリーサも身の危険を感じて身震いをした。



「光の精霊よ……マーヤの闇を取り払え! ホーリーライト!」



 リーサがマーヤに向けて手を伸ばして、悪い効果を消す魔法の詠唱を行ったが、やはりこの世界では魔法は出ない。「もう! どうしてなのよ!」とリーサはブンブンと手を振って悔しがる。



「海原くん! リーサ! 後ろに下がってて!」


 少し遅れてマジカルバタフライとマジカルエターナルが現れて、二人を安全なところ――さきほどまで隠れていたブロック塀まで連れて行く。



「アニキ! アネゴ!」

 海原が二人に向かって声をかけると、バタフライが海原を見て微笑んで言った。


ピンチになってしまったらやばい時は助けてくれよその頭脳で助けてちょうだいね結構頼りにしてるんだぜ!」


 そう言って、魔法少女二人はマーヤと戦うためにその場を離れた。



 ブロック塀に隠れるようにして、リーサと海原は二人その場にしゃがみ込んだ。「ごめん、夢野さん。僕が余計なことを話したばっかりに……妹さんがあんなことになってしまって……」海原がそう謝った。


 塀の向こうから魔法少女たちが戦う音が聞こえてくる。

 拳がぶつかり合う音、魔法の音、建物が崩れる音。

 

 リーサはその場面を見ないようにしていた。どちらが傷つくのも嫌だった。だから戦っている音が聞こえてくるたび、目を閉じて三人の無事を祈った。


「いいえ、私の方こそこんなことに巻き込んでしまって……」


 そのとき、ドゴォン! という派手に建物をいくつか破壊する音が響いた。魔法で破壊されたのではない、誰かが吹き飛ばされて建物を壊した音だった。


 その後に訪れる静寂。


 ――どっちだ、どっちがやられてしまったんだ?


  海原とリーサが聞き耳を立てる。



「リーサ! リーサはどこダ! ……魔法少女ハ倒シタゾ……」



 マーヤが空中に浮かび空から叫びながらリーサを探す。その声は普段の彼女のものではなく、明らかに何かに洗脳されたような、心が悪に染まってしまったような感じだった。



 ――アニキ! アネゴ! やられてしまったのかい? そんなはずは、そんなはずはないぞ!



 海原も目を閉じながら二人の無事を祈っていたが、実際のところ、魔法少女二人はマーヤの圧倒的な力の前になす術がなく、建物を派手に壊すほどの攻撃を喰らい起き上がることができずにいた。

(倒れたからといって、変身が解けてしまったわけではないのだ。まだ戦う意思があるので、変身したままなのである)



 コツン、と靴が地面にあたる音がした。リーサと海原が目を開けて前を向くと、そこには黒いオーラを身に纏い、姿形が全く変わってしまったマーヤが立っていた。

 

 きれいな黒髪はオーラとともに逆立っていて、肌もオーラに侵食されて黒くなっていた。目は赤く、口の中には牙も生えている。だんだんと人の形を成さなくなって本当の化け物になろうかといわんばかりであった。



「リーサより、私ノ方ガ……私ノ方ガ強イんだァ! 死ネ、リーサ!」



 マーヤが指先をピンと伸ばし、リーサに突き刺さんとしたときだった。海原がリーサの目の前に立って、大きく手を広げたのだ。


「!!」



めっちゃいいところで画面がフェードアウトしてコマーシャル。

続きは次回ということで!

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