04-A 十年間のイメージトレーニング
「あらためて、戦闘再開よっ!」
グワアア! と声を出して転がりながらドリームイーターが攻撃を仕掛けてくる。マジカル・エターナルは今度は避けずに迎え撃つつもりで構えていた。
「てええいっ!」
ボールを蹴るように右足を振り抜くと、敵はきれいな放物線を描いて飛んでいった。
「よしっ!」
「いえ、まだよ!」
満足げなマジカル・エターナルに対してリーサが注意を促す。なんと敵は飛ばされた方向にあった校舎に当たって跳ね返り、その勢いを利用して再び攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ええ? さっきはぶつかって校舎を壊していたじゃない!」と、マジカル・エターナルが言うと、「あははははっ、こいつは中の空気圧を調整して体の硬さを変えて、建物を壊したり、跳ね返ったりいろいろできるのよ!(科学的に合っているのかどうかはわからないけど!)」わざわざマーヤが解説してくれた。
もう一度マジカル・エターナルがドリームイーターを蹴り飛ばすが、そもそもサッカーボール自体が蹴られてナンボのものなので、たいしたダメージを負っていないように思えた。
「もう、しつこいなぁ! せっかくの私の晴れ舞台だっていうのに!」
「
「マジカル・バタフライ!」
マジカル・エターナルの隣に、気絶から目を覚ましたマジカル・バタフライが戻ってきて横並びになる。
「
憧れの魔法少女が自分の隣にいることが嬉しくて(もちろん正体が誰だかわからないからであるが)あわあわしているマジカル・エターナルにそう告げると、マジカル・バタフライはその場からさっと飛び立っていった。
――ボールの弱点……何かしら?
マジカル・エターナルは敵の攻撃を避けながら考える。マジカル・バタフライもあまり効果のない攻撃はやめ、避けることで無駄な体力の消耗を抑えようとしていた。
そんなとき、ふとマジカル・エターナルは先ほどのマーヤの言葉を思い出した。「空気圧を調整して建物を壊したり、跳ね返ったりできるのよ!」
――これだ!
彼女は、攻撃を避けつづけているマジカル・バタフライに向かって叫んだ。
「マジカル・バタフライ! 敵の体のどこかに空気穴があるはずよ、そこを狙って攻撃して!」
その言葉の真意を――つまり空気を抜けばいいということを理解したマジカル・バタフライはマジカル・エターナルに向けて拳を突き出し、「了解」と親指をぴんと立てた。そして素早い動きで攻撃を躱しながらドリームイーターの周囲をぐるりと一周し、空気穴がある場所を探した。
「
マジカル・バタフライはドリームイーターの足の付け根辺り、ちょうどボールに下側の部分に空気穴を見つけると、そこにめがけて思いっきりパンチを打ち込んだ。
「
ぷしゅううぅぅぅ! とサッカーボールの化け物からみるみる空気が抜けていく。ぺしゃんこになったドリームイーターはその場に立っていられなくなり、ついには倒れてしまった。
「
マジカル・バタフライにそう言われて、マジカル・エターナルは待ってましたとばかりに必殺技を出す構えをとる。いつものイメージトレーニングではおもちゃのステッキを使っていたが、今回はまだ攻撃アイテムは持っていないので、持っているふりをしてその場でくるくると華麗に踊り始めた。
――十年分の思いを、今ここに!
そして、(持っていないけど)ステッキをぺしゃんこになったドリームイーターに向け叫んだ。
「マジカル・ファンタスティック・エターナル!」
(何度も繰り返すが、ステッキは持っていないけど)ステッキの先から黄色のエネルギー波が放出され、敵を貫いた。
「ド……ドリーミングゥ……」という断末魔とともに、サッカーボール型のドリームイーターは浄化された。
すると、サッカー選手になって活躍するという夢が詰まった輝く球体が、遠くで気を失って倒れていた少年の胸の中へとスッと戻っていった。
「くっ……! これで勝ったと思わないことね!」マーヤは、捨て台詞を残してその場から姿を消した。
「やった……のね!」
敵がいなくなったことを確認して、マジカル・エターナルはほっと安堵のため息をついた。
そして改めて自分の姿を確認する。黄色く輝く手袋に、ひらひらのフリルがついたコスチューム、さらに金色の二つ結びの髪。ああ、ついに魔法少女になると言う私の夢が叶ったのね! とまたしても感動のあまり目に涙を浮かべた。
「へへっ……やったぁ」と喜ぶ彼女の姿を見て、マジカル・バタフライとリーサもなんともいえない気持ちになった。
「ところで、夢野さん……壊れた校舎と止まった時間は……」
涙を拭ってマジカル・エターナルがそう尋ねたときだった。
リーサの胸元にあるペンダントが光り輝き、時間が巻き戻っていく。壊れた校舎は全て元どおりになり、茶色に染まった世界も色を取り戻し、ドリームイーターが現れる前の時間に戻った。そして生徒たちも何事もなかったかのように動き始めた。
当然、マジカル・バタフライとマジカル・エターナルも元の姿へと戻ったのである。
「なるほど、こうやって変身が解けるというわけね」
悠花は自分の手にある黄色いコンパクトを握りしめながら言った。その手の上から、李紗が手を重ね合わせて「これからよろしくね、城ヶ崎さん!」と微笑みかける。
本当ならここで感動的に画面がフェードアウトし、コマーシャルに入るはずであるが、そうはいかない。
なぜなら、悠花と李紗の目の前には緑色のコンパクトを握りしめて立っている筋肉ムキムキの男子高校生、番所蝶介がいるのだから。
「あれ、番所くん! 今までどこにいたの? 夢野さんと一緒だったんじゃ?」
「……え?」
「あら……緑色のコンパクト。番所くんがどうして持っているの? 持ち主の女の子はどこへ行ったのかしら?」
――委員長はもしかして、俺がマジカル・バタフライだと気づいていないのか?
――無理もないわよね、こんな筋肉ムキムキ男子が魔法少女になるなんて思ってもいないでしょうからね。
二人とも悠花にバレないように顔を背けて苦笑いをする。
「あっ! わかったわ!」
ギクッ! 蝶介と李紗は冷や汗をかいて唾を飲み込んだ。
悠花が黒縁メガネのブリッジを人差し指で持ち上げて、口を開いた。
「マジカルバタフライの正体は……」
ゴクリ。
「番所くんの妹ね! 恥ずかしがってあなたにコンパクトを渡して帰っちゃったのか! もう、せっかく二人で魔法少女について語り合いたかったのに!」
二人は盛大にずっこけた。
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