大物ジャーナリストにダメ出しをした男

 昔の仕事ネタ。


 かつて、日本人ならおそらく誰でも知っている大物ジャーナリスト某氏(名前は秘します)に連載記事を依頼していたことがあります。

 あるとき、その某氏から送られてきた原稿を確認していると、どうしても気になる表現がありました。前後の流れから見ても、その表現を使わなければいけない理由が考えられないのです。


 そこで私は某氏の秘書の女性に、これこれこういう理由で修正をお願いしたい旨、連絡を取りました。原稿のやり取りは、多忙な某氏ではなく秘書さんと行っていたからです。


 すると数時間後、某氏から電話がかかってきました。


某氏「原稿を直してほしいと聞いたんだけど」、単刀直入な某氏。

 私「はい、これこれの表現に問題があると思います」

某氏「わたしもプロだから気を付けてるつもりなんだけどねぇ」と、あきらかに不満そうな某氏。

 私「こういうケースに問題がありませんでしょうか」

 あなたがジャーナリストとしてプロなら、こっちも編集のプロです。どう考えても問題がありますよ、と思いつつ、口調はあくまでも丁寧に。

某氏「直すの? そんなこと言われたの初めてだなぁ」

 私「はい、お手数おかけしますがお願いします」、と伝えて電話を切りました。


 正直驚きました。私は大物ジャーナリストの某氏に「初めて」書き直しを命じてしまったらしいではないですか。ひょっとすると、怒った某氏が連載を断ってくるかもしれません。しかし、もともとこの連載は私の企画だし、記事内容には責任があります。仮に打ち切りならそれでも仕方ないかと思っているところへ、秘書さんから修正原稿が送られてきました。


 届いた原稿を確認すると、問題の箇所は確かに直っています。しかし、今度は前後のつながりが微妙なのです。が、さすがの私ももう一度修正依頼することはしませんでした。「初めて」であんなにイヤそうな声を出されたのに「二度」はありえないので。軽微な某氏の文体のクセと判断して、私はその箇所に赤を入れることもなく、そのまま本にしてしまいました。


 この一件は編集部内でも有名な逸話となり、それからしばらく私は

「あの○○にダメ出しをした男」

と呼ばれたことは言うまでもありません。


 以上、カクヨムの企画で思い出した昔の武勇伝w 

あ~、某氏って田原さんじゃないですよ、念のため。

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