戦場帰りの最強騎士はお気の毒ですが精神を病んでしまいました。仕方が無いので故郷に帰るらしいですが、ヒロインが出迎えてくれたり追い掛けてきたりしてるみたいです。
第25話 お気の毒ですが、狼が来たみたいです
第25話 お気の毒ですが、狼が来たみたいです
化物と錯覚した。その臭いが魔獣であった為だ。
手始めにジャックが手に持つ斧を構えた。
これを使い、相手が襲ってくれば即座に叩くという算段であるらしい。
ジュピターは藁から離れる様な事はしなかった。
それでも、一応は、と盗賊たちに声を上げて戻る様に告げる。
なんの事かと思いながらも、盗賊たちが遠ざかり、代わりにジャックが入り口前へとやって来る。
「(魔獣の気配がかなり濃い…龍や堕ちた神獣レベルだぞ、これは)」
この世界に存在する魔獣は、中には天に住まう神の使いが落ちた、と言う話もある。
神に仕えた獣は、七種類存在し、その七種類の神獣は神に不徳を働いた末に地上へと堕とされた。
「来る」
ジャックは身構えた。森の中を掻き分けて飛び出してくる、灰色の髪を持つ獣が、目の前に現れたのだ。
「…ッ!?」
ジャックは驚いた。
何故ならば、その灰色の毛並みをした狼らしき存在は、人らしい外観をしていた為だ。
乱れて、泥と血に濡れた髪の毛、女性らしい乳房と綺麗な肌をしている。
頭部には、狼と同じ耳が生えており、半獣半人、と言う言葉が正しい彼女の在り方だった。
「人…いや、これは」
ジャックは混乱しつつあった。
彼女と言う存在は、今まで見た事が無かったからだ。
「あああああ」
唸り声を上げながら、ジャックを確認すると同時、接近してくる。
ジャックは斧を構えたが、それを女性に振るう事は出来なかった。
まだ、人を殺す事に嫌悪感があったのだろう。
だから、襲い掛かって来る女性を斧で受け止めるしかなかった。
そのまま、女性に倒されるジャック。
その力は、通常の女性はおろか、称号騎士であるジャックですら中々振り解けない力を宿していた。
「ッく、」
「おいおいスルト坊や、大丈夫かい?おじさんが手伝ってあげようか?」
その様な声が聞こえて来る。
ジュピターに任せれば物事は簡単に解決しそうではあるのだが、十中八九、ジュピターはこの狼女を殺してしまうだろう。
それだけは避けなければならなかった。
だからジャックは首を横に振って手を出すなと声を出そうとした。
その時だった。ジュピターの前を出て来てのは、メイド服に身を包んだ、白銀の髪を靡かせた女性。
シャリアがご主人の危険を感知して、即座にすっ飛んできたのだった。
「ご主人様っ!」
叫ぶと同時、シャリアが狼女の懐に蹴りを入れる。
体重の乗った一撃を受けた狼女は、即座にジャックから離れた。
「大丈夫ですか、ご主人様」
「あぁ…俺は、大丈夫だよ」
そうジャックが告げる。
シャリアが登場すると、彼女の目が狼の少女に向けられた。
「あれは、…ホムンクルス?」
シャリアが目を細めて、彼女が何者であるかを言い当てた。
「ホムンクルス?」
「はい、私たちの国では、あらゆる生物の細胞を組み合わせた存在であり、主に人間の姿を取ります。別の国では、キメラなどと呼ばれていますが」
ホムンクルス。
それは錬金術師であるアルス・マーキュリーが作った事もあり、錬金術師と言う言葉を聞いて、ジャックが嫌な予感を過らせた。
「ホムンクルスと言えども、あれは生物…ご主人様、煩わしいようであれば、私が処分を行いますが…」
シャリアが、ジャックが人を無闇に攻撃する事が出来ない事を知って、その様に聞いてくれる。
それは、ジャックにとっても有難い申し出ではあった。
しかし、それではシャリアが傷つく可能性もあるから、だからジャックは首を左右に振った。
「いや、いい…彼女は俺が、何とかするから」
だからそこで見ていてほしい。
そうシャリアに告げると同時、ホムンクルスが飛び跳ねて、ジャックの方へと走り出す。
ジャックは斧を投げ捨てた。
そして拳を固めて、ホムンクルスに向けて拳を叩きつける。
「っ!?」
しかし、ホムンクルスはジャックの拳を受けるよりも早く、その持ち前の反射神経で回避した。
一撃で仕留める、それは、気絶させるという意味だ。
少なくとも、ジャックは殺そうなどと思っては居なかったから、拳で適当に殴って、気絶させようと考えていたのだ。
だが、その甘えが拳に乗ってしまったのだろう。
ホムンクルスが回避すると同時に、ジャックの腕に咬み付いたのだ。
合成魔獣としての咬筋力が凄まじい、肉を切り裂く歯が、彼の筋肉を断裂させて、血が噴き出してくる。
「ぐっ、!」
痛みを我慢するジャック。
しかし好都合な事だった。
この合成魔獣は、ジャックの腕を咬み付いていて、首を差し出していた。
ジャックが手刀を振り下ろせば、少なくとも彼女は殺せるだろう。
だが、ジャックはそれをしない。
ただ、咬み付かれるままで、攻撃をしようとしなかった。
「(ッ…駄目だ、出来ない)」
攻撃をしようとしても、彼女を傷つけようとすると、戦争で起きた災禍の事を思い出してしまう。
それによって、ジャックの判断は鈍りつつあった。
「すぅ…」
すると、シャリアが大きな声を荒げる。
「ごはんですよー!!」
カンカン、と鍋の蓋を叩きながら、シャリアが持ち出して来たのは鹿の肉だった。
その音に反応したホムンクルスは、ジャックの腕よりもおいしそうな鹿肉を見つけて、そっちの方に向かって走り出す。
シャリアは鹿肉を投げて、ホムンクルスは地面に落ちた肉を喰らっていた。
「思っていた通りです、どうやら彼女はお腹が空いていたようです」
そうシャリアが言う。
腕から血を流すジャックは、簡単に宥める事が出来た為に、ほっと安息の息を吐いた。
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