第21話 お気の毒ですが、逃げ出したようです

ジュピターが村を襲撃して三日が経過した。

村には、盗賊たちが家の修復の為に作業をしている。

そして、ジュピターは藁で作ったクッションで呑気に腕を組みながら盗賊たちの作業を見ながら支持をしていた。


「ほうれ、そこ、手が休んでおるぞ、もっと槌を振れい」


「師匠」


ジャック・オ・グレイマンはここ最近は仕事をしていない。

肉体と精神が上手く噛み合わず、延々と調子が悪くなっているから、暫くの間は休息を取っていたのだ。


「なんだスルト坊や…儂に何か用かの?」


「いえ…あの、皇国の騎士団へは何時お戻りですか?」


そう伺うと、ジュピターは顎髭をなぞる。


「そうさの…とりあえずは代理戦争が始まるまでは此処に居ようと思って居る」


「嘘でしょ」


途中、ジャックの様子を見に来たルィンもやってきて、嫌そうな表情を浮かべてそう口を開く。


「此処にいるって、一体、何の嫌がらせなのよ…、なるべく早く帰って欲しいわ」


「ぬは、正直な娘よな…まあ、良いではないか。労働力があるから、村は潤沢になるだろうて」


盗賊たちの方を見てジュピターはそう言うが、盗賊はあくまでも盗賊だ。

村の人たちは、なるべく、この村を襲った盗賊が、何処か出て行って欲しいと思っている。


「そう簡単にはいかないでしょ…」


「それよりも、師匠…俺の処遇ですけど」


ジャックは恐る恐る聞いてみる。

代理戦争が始まるまで此処にいると言う事は、少なからず、皇国の騎士団へ戻る可能性がある。

そうなると、ジャックと言う存在を探している皇国の騎士団に、何か告げ口をしてしまうのかも知れない。

そうなると、今度はジュピターだけではない、他の騎士団がこの村に押し寄せて来る可能性があったから、ジャックはその可能性をなるべく潰す為に伺うのだった。


「心配せずとも好い。少なくとも、儂から何かを言うつもりはない…何故ならば、それをした所で、儂に何のメリットも無いからだ。スルト坊やが別の地で、それでも騎士としての精神を持つ…その事実さえあれば、何も必要はない」


だからこそ、ジャック・オ・グレイマンを確かめるべく、戦ったのだ。

その事実が残っているのならば、ジュピターはそれ以外の真実は必要無かった。


「そう、ですか…それは良かった…」


「いや、そうとも言い切れんがの」


ジュピターは口に咥えた草を吐き出して、代わりに藁を掴んでその一本を新たに口に咥えた。


「…?それは、どういう意味、ですか?」


「憲兵まがいの盗人は今何処におる?」


そうジュピターは聞く。

ジャック・オ・グレイマンは首を左右に振った。

ルィンの方を見ると、溜息を吐いている。


「蔵に隠して、餓死でもさせてやろうかと思ったけど…あいつ、逃げたわ」


ぬはは、と笑うジュピター。


「ならば、…そいつが火種になるかも知れんなぁ…」


後は知らぬ、と。

逃げ出した憲兵、タトドゥの事を思いながらそう呟いた。





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