12話両親襲来
今週末俺の両親がこの部屋に来る予定になった。
そのため暇があれば部屋の掃除をすることにしていた。
金曜日になり、明日から明後日の朝まで両親がいるので俺は今日の夜は玲とゆっくり過ごそうと考えていた。
夕飯の買い出しの為にスーパーに行った。
恋人になってからは毎回買い物は二人で行くことになったので最寄り駅の改札でどちらかを待つことになっていた。
と言っても一緒に買い物に行くようになってから一度も玲が待っているということは無かった。
しかし、今日はどういうわけか玲が先に待っていた。
「お待たせ、どうしてこんなに早いん?もしかして明日から従妹として接しないといけないから今日くらい甘えようとか思ってた?」
『……』
「うっ…」
玲は何も言わずに俺の横腹にパンチをかましてスーパーへと向かっていった。
俺は冗談交じりに聞いてみただけなのだがどうやら図星だったらしい。
スーパーに行くまでの間は口を聞いてもらえなかったが、スーパーに着くと落ち着いたのか、一緒に献立を考えながら買い物をした。
買い物を終え、家路を急ぐ。エントランスを通り、自室の階へエレベーターで上がる。
「ん?」
『どうしたの?』
「いや、鍵がかかってない…」
不審に思い、ドアノブに手を伸ばす。
ガチャリ。
ドアノブをひねると抵抗なく扉が開く。
玄関には二足の靴と聞きなれた声が響いていた。
その瞬間俺と玲はすべてを悟った。
『おかえりなさい神仁、玲ちゃんもお帰りなさい』
「おかえり神仁、玲ちゃん」
両親だった。
受験の時は勉強に対するプレッシャーで両親に心にもないことを言ってしまったり、反抗期までとはいかないが不安定だった俺をずっとそばで支えてくれた人たちだ。
しかし、こんなとこまでわざわざ二人で来るなんて大概親ばかなのかもしれない。
「急にどうしたんだよ、明日に来るんじゃなかったのか?」
『そうすると素の生活の様子が分からないでしょ』
「そういうことだ。驚かせてしまって悪いね玲ちゃん」
『いえ、大丈夫です!』
『抜き打ちにも関わらず部屋は綺麗だったから一応合格点かな』
「玲ちゃんがしっかりしてるからだよ」
『それもそうね。神仁、玲ちゃんにおんぶにだっこはダメだぞ~』
「大丈夫だよ…っていうか帰りはいつになるんだよ」
『お父さん今日の午前まで出張で、月曜日からまた本社勤めになるから明日の夕方には遅くても帰るよ』
「もう大きくなったから晴馬に留守番させているけど、久しぶりに家に帰って来たからあいつとも遊んでやらないと」
晴馬は俺の弟で、確か今年中学に上がったばかりだ。
しかし、俺よりもしっかりしていたり、一番下だったりと、両親は晴馬をとても信頼している。
弟がしっかりしているとあまり世話を焼けないので俺のところにしわ寄せが来たようだ。
「ご飯は買ってきちゃったから家で食べるけど大丈夫?」
「分かったよ。母さんもいいよね」
『今日くらいは私に作らせて。二人はゆっくりしてていいわよ』
『私も手伝います』
『あら、玲ちゃんありがと。けどもううーちゃんって呼んでくれないの?』
『じゃ、じゃあ…うーちゃん』
「悪いね玲ちゃん。母さんの無茶ぶりを聞いてもらって」
そう言いながら親父は缶ビールを開ける。
コンビニやスーパーなどで売っているような銀や赤色のビールではなく、出張先の地ビールというものらしい。
「そうそう明後日にお土産が届く予定だから楽しみに待っててね」
「分かった楽しみにしとく」
『玲ちゃん手際がいい!』
『そんなことないですよ!!!』
『まだ距離を感じるなー』
『そ…そんなことないよ?』
『そうそう!そんな感じ!』
キッチンからは女性陣の楽しそうな会話が聞こえる。
『すごいおいしい!』
『でしょ!』
『この手羽の黒酢煮めっちゃ好き!』
『レシピいくつか書いてきたからよかったら作ってね』
『頑張ってみる』
『神仁も玲ちゃんにいつも作ってもらってないでたまには作りなさいよー』
「当番制だからだいじょーぶだって」
『そうなの?神仁もたまにはやるじゃない』
「そりゃあ…まあ」
母親に素直に褒められるのはいつまでも慣れない。笑顔を堪えようとしても自然と口角が上がってしまって、そうはさせまいと筋肉で口角を押し戻すときの攣ったような痛みが少し懐かしく感じた。
そんな痛さが懐かしいと思ってしまうあたり、俺もマザコンなのかもしれない。
決して認めないけれど。
その後はこれまでの大学生活の話や、テレビを見たりしながら、久しぶりの団欒を楽しんだ。
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