26時に可憐に踊る

荒峰

《隠され》

侵入

彼女、浦崎知花はごく一般的な女子高生であった。

 平凡な家庭、平凡な能力、平凡な才能、平凡な人生。もしかしたらどこかの誰かはこう思うかもしれない。

『幸せな家庭』であると。

 全体論からすれば、世界中のありとあらゆる場所の幸不幸、多才無才の値を集めれば、彼女の人生はもしかすると幸せかもしれない。では、そこに本人の意見は、考えは、想いはあるのだろうか?

 答えは否。人というものはどこまでもどこまでもどこまでも、自分を他人と比べ、その比較対象は常に上に向いている。『金持ちになりたい』『美人になりたい』『学力がほしい』『もっと強くなりたい』。考えてみれば当たり前でもある。渇望は目標だ。嫉妬も目標だ。『金持ちが』『なんでこの女ばっかり』『どうしてこんな差が』人は無い物を強請り、無い物を持つ、より持つ人間と比較し自分を『平均』と作為無作為的に定めている。

 そんな『平凡』な浦崎知花の人生は、ある一時より一変する。







 浦崎知花は道路を歩いていた。彼女の人生は波乱続きである。1歳で病に倒れ、5歳で交通事故に遭い意識不明になり、6歳から14歳まで壮絶な身体・精神的なイジメ。転校後初めて出来た友人との死別。『平凡』な彼女の人生はある意味平凡ではないだろう。

 しかし、小さな幸運には小さな不幸が、大きな不幸には大きな幸運が隠れていたりするものだ。1歳で罹った病は後遺症なく治り、5歳の交通事故でも後遺症なく治り、彼女の人生の大半を占めているイジメの時間で彼女は折れず、友人との死別で人生に悲観する事もなかった。

 彼女は様々な意味でタフであった。精神的にも身体的にも、彼女は壊れるには頑丈すぎた。もしかするとそれだけが彼女、浦崎知花の個性であったのかもしれない。

 彼女は道路を歩いていた。バスから降りた通学路の帰り道。一緒に帰る友達はいない。当然かもしれない。彼女は失う恐怖を身に染みて覚えさせられているにだから。

 彼女は家に着いた。どこにでもあるマンションの一室。どこにでもある平凡な家庭で平凡な両親と平凡な料理を食べ、平凡な風呂に入る。

 彼女は布団に入った。明日また、平凡な学校で平凡な毎日を送る為に。

 彼女は寝た。体の休息をとり正しく機能させる為に。

 彼女は起きてしまった。理由は特にない。

 彼女は暇に飽きて外に出て行ってしまった。これもまた理由は特にない。

 彼女は時計を見た。今の時間を確認する為に。


 時計は回っていた。製作者が作ったとおりに。

 現在時刻午前1:59:55秒。

 針がぎこちなく進んでいく。


 1:59:56


 1:59:57


 1:59:58


 1:59:59



 時刻は2時。


 ある人は、その時間まで連続して起きているある人は、こう言うかもしれない。


 26時、あるいは、丑三つ時と。



 景色が変わった、気配が変わった。

 落ちていた空き缶が、新聞紙が、紙屑が、消えた。

 先程までいた眠る酔っ払いが、やんちゃな男達が、消えた。

 浦崎千花は最初、その異変に気付かなかった。

 しかし気付いてしまった。

 目の前で、二人の人間が、殺しあっている事に。

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