正月に見る夢は初夢だけどクリスマスに見る夢は何と呼ぶのだろう?

烏川 ハル

第1話 女子高生の会話

   

 会社帰りのバスの中。

 疲れた体を背もたれに預けて、いつものように私は、ボーッと窓の外を眺めていた。

 灰色の雲に覆われた寒空の下には、無機質なビルが建ち並ぶ。駅前の広場などには、ちらほらとクリスマスのイルミネーションも見え始めているが、私には他人事としか感じられなかった。

 あれらは全て、前途洋々たる若者たちのためにあるのだろう。ちょうど今、私の真後ろで喋っている女子高生たちのような。

 私みたいな者が――もはや若くもない独り身の男が――女子高生の会話に聞き耳を立てる姿は、はたから見たら、かなり気持ち悪い光景に違いない。私自身『聞き耳を立てる』というつもりはなかったのだが……。

 乗客は多くても会話は少ないバスなので、彼女たちの話は、自然に耳に入ってくるのだった。


「あらあら。恵美子ったら、ずいぶんとロンチストなのね」

「ほんとだ。よりにもよって、サンタさんへのお願いが『愛』だなんて!」

「からかわないでよ。正直に書いただけなんだから……」

 個性的なハスキーボイスと、甲高いキャピキャピ声と、透明感のある涼しげな声。三つの音色が聞こえてくるので、振り返るまでもなく、三人組なのがわかった。

 もうサンタなんて信じていない年齢だろうに、それでも「サンタさんへのお願い」という話題が出てくるとは……。

 最近の女子高生もなかなか純真ではないか、と私まで微笑ましい気持ちになる。しかし、それも一瞬に過ぎなかった。

「恵美子、このハッシュタグの意味、理解してる? この『#サンタさんへのお願いを書こう』はね、本当にサンタ宛の願いを書くんじゃないのよ。それを見た誰かがプレゼントしてくれるかも、って期待してツイートするんだよ!」

 どうやら、思いっきり物欲にまみれた話だったらしい。見ず知らずの男からのプレゼントを期待するなんて!

 とはいえ、そこまで酷いのは、ハスキーボイスただ一人。残りの二人は違うようだ。

「あれ、そうなの?」

「おいおい、詩織もか! どれどれ、詩織の願いは……。うわっ、詩織は『彼氏』か。でも、これならツイート見た人が『僕が彼氏になります』って申し出てくれるかもね」

「嫌よ、そんな出会い系みたいな話。恋人っていうのは、ちゃんと時間をかけて互いに知り合って……」

「ほら、ユリ! 詩織の方が、私よりもよっぽどロマンチストよね?」

   

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