13.張り合うは俺の金

ラドルフ

————

比較的すぐに次の予定が決まって何よりだ。

だが悠長なことは言ってられない。


まず、アイツの服装からだな。

まさか、あれ一着しか持ってないって訳じゃないよな?


「いえ、あれしか持ってないですけど。もともと騎士で就職した訳ですから、あれだけあれば充分だったし」


まじかよ……今からドレスってのは準備できるもんなのか?


「それなら、エミリアのが大量にあるから借りればいいじゃない!」


母上にちょっと話をしたら、そんな答えが返ってきた。


へー、いつの間に買ったんだ。

母上と父上も相当エミリアを溺愛してるからな。

外にでるようになって好き放題に買い与えたんだろうか。


そうして次の日、午前休んでまでヤツと母上とエミリアと向かった先は、あんまり使われてないはずの客間だった。


開けた途端、何だよこれ……

さすがに親だからこれを口にするのは、はばかられるが心の中ならいいよな……アホか?


2部屋つぶして宝飾品やら、ドレスの山が飾られていた。


「これなんか、どう? んー、エミリアのサイズに合わしてあるから難しいわね」


「お母様、こっちは? ゆったりして作られてるからイリスでも着られそう」


まあ騎士をやってるだけあって無駄な肉は付いてなさそうだが、体はエミリアよりひょろ長い。


母上とエミリアで選んできたのを、ヤツは隣の部屋で着替えることになった。


戻ってくると、まぁだいぶマシになったな。いいんじゃないか?


「やっぱりお嬢様の婚約者様からのプレゼントだと思うと気が引けてしまいます……」


ヤツは俯きながら遠慮がちに喋った。


はあ? 


「おい、今なんて言った!? 誰からのなんだって?」


ヤツはうるさいな、と言わんばかりの表情でこちらを見てきた。


「ヘイゼル公爵家のご子息から、エミリアの婚約パーティーの準備の時に全部頂いたものよ」


代わりに母上が答えた訳だが。


あいつ、女を落とすためならいくらバカに見えても手段を選ばないってのかよ?


あの男の金で買われたものを俺の目的のために使えるか……


あー、ムカムカしてきた。

午後も休みだ。



イリス

————

もう明後日が次の舞踏会だっていうから、諦めてお嬢様の婚約者様からのドレスで決まりそうだったのに、どういう風の吹き回しか帝都の超高級ブティックに連れてこられた。


いや、でも……

こういう所、一度入ってみたかったんだよね~!!

ワクワクしてる自分が、ヤツに踊らされてるみたいで嫌になる。


だけど、ここって完全オーダーメード、完成まで手縫いで相当時間がかかるもんじゃないの?


「えー、最短でも7日はお時間を頂かないと……」


やっぱりお店のご亭主困ってるじゃん……


「じゃあ3倍の金額を払う」


ヤツがちょっとイカれた発言を始めた。


「あ、いや、そう言われましても。仕立てができる人間には限りがありまして……」


「じゃあ10倍の金額に釣り上げてやる。帝都中の職人を集めてでも、何でもいいから2日間で完成させてくれ」


ちょっと待ってよ……やっぱりコイツ、常識性に欠けてるんだ。

乗り合い馬車に乗った事がないように、既製服の存在も知らないのかも。


仕方ない、お金なんかこれっぽっちも無いけど、借金でも何でもしてもう一着買っておこう。


「私向こうのお店に行ってきまーす」


ご亭主もホッとした表情して、なんかいいことしたような気分。

立ち上がって行こうとすると服を引っ張られて、またそこに座らされた。


「ダメだ。うちの面目保つには、最高級の品で固めてもらわないと意味ないんだよ」


そう言ってヤツはその場で提示した金額を現金払いし出した。


面目、面目って……私があの婆さんにけなされた時には、放っとけって言ってたクセに。言ってること矛盾してるんだよ。


私は別室で採寸された後、すごい勢いでデザインから生地選びやらに付き合わされ、店を後にするとご店主はすぐさま血相を変えて店を飛び出して行った。


前に何でも金にもの言わせる貴族男が出てくる小説を読んだことがあるけど、本当にこういうヤツっているんだ……

あんまり文字見るのも好きじゃないから、そんな小説もう随分読んでないけど。



そして、夜会当日。


なんか見慣れない女の人とメイド数人が急に部屋に入ってきて、お風呂やらエステとかもされて、勝手にどんどん化粧をされ始めた。


ちなみに私の部屋は、女騎士をやってた時にあてがわれた奥様の部屋の隣をずっと使わせてもらってる。

もちろん、そんな騎士部屋にはお風呂がないから、隣の使われてないバスルーム付きの部屋に連れて行かれて色々やらされた。


顔から上のセットは終わったんだけど、もう夜会が始まる時間になってもドレスが届かない。


やっぱり無茶だったんだって。

そう思って、玄関の方が見える窓をチラ見してたら、門の方からすんごいスピードで馬車が入ってきた。


すごいよ、ご店主、あの変態野郎の要求に報いろうとするなんて……



ラドルフ

————

ったく、なんだってこんなに焦っちまったんだよ。

そんなにでっかい会でもないのに。


全部、あの顔のキツい令嬢と、女たらしの皇女の側近のせいだ。



馬車に乗り込んで、座席の前に座ってるあの女は、まあ満足のいく仕上がりにはなっていた。

帝都のスパにいるという評判のプロを呼び寄せて、急ごしらえだったが一流の仕立て屋にあつらえさせただけはある。


あとは、もっと堂々としてりゃあ完璧なんだけどな。

まあ、それはおいおいでいいか。


それにしても、随分時間が推してる気がするな。


手元の懐中時計を見ると、そろそろダンスタイム突入の時間になりそうだ。


コンコン


すると、御者席の窓が叩かれた。

ちょっとそこを開けてやると


「坊っちゃん、やばいっす。道に迷いました」


まじかよ……ったく、俺が焦るとロクなことにならないらしい。

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