女子高生、投資で稼ぐ

霜月トイチ

女子高生、投資を始める

第1株 投資とギャンブルの違いってなに?

「美咲、投資やってるってマ?」


 墨染葵すみぞめあおいはバイト漬けの毎日を送る勤労型女子高生。

 久々にシフトのない放課後、ベローチェの窓際の席にて親友の中書島美咲ちゅうしょじまみさきとお茶しているさなか、彼女のとある噂を聞いた葵は事の真相を探るべく、単刀直入に尋ねた。


「マ。何で?」


 ストローでアイス豆乳ラテをすする美咲は首を傾げて訊き返す。


「す、すごっ! 投資とか大人じゃん!」


「そうかな。この間家庭科でも投資信託の授業あったじゃん」


 2022年4月から、高校の家庭科にて投資信託の授業が設けられた。

 株式や債券、投資信託など基本的な金融商品の特徴を教わるには教わった彼女たちだが、


「あれも投資なの? 資産運用……だっけ? 正直よくわからなかった。お金は大事にしましょう的なことはわかったけど」


「だろうね。あれそもそも家庭科の先生が投資の知識なさすぎて教える立場になれてなかった。教科書に載ってる内容も浅すぎる上にわかりにくい」


「っていうか投資って何? お金稼げるの? お金持ちになれるの? だったら教えて! 今月マジ金欠だから!」


「いや、そういうのは働いて稼いで。投資はすぐにお金が手に入る方法では決してないから」


「え? でもよく言うじゃん。『ビットコインで一発当てて億り人になりました!』みたいな」


「あれは投資じゃなくて投機ギャンブル


「……違いがわからない。ビットコインは投資じゃないの?」


「投資と投機ギャンブルの違い、まずそれから教えるね」


 美咲は改まって席に座りなおした。


「パチンコ、競馬、競輪、競艇が投機ギャンブルなのはわかるっしょ?」


「うん! なんとなくだけど」


「あとFX、仮想通貨(暗号資産)、株の売買も投資じゃなくて投機ギャンブルだからね」


「株もなの? 投資といえば株! ってイメージだけど。じゃあ投資ってどれのことなの? 他もうなくね?」


「これは私の持論だけど、『勝負を何度も繰り返して利益を狙うのが投機ギャンブル、何もしなくても勝手にお金が入ってくるシステムを構築するのが投資』」


「え! 投資って何もしなくていいの!? めっちゃ楽じゃん! 最高かよ!」


「そう。楽なの。逆に楽じゃなかったら投資じゃないの。株の売買は企業研究したり、リアルタイムで株価確認したり、前日に仕込んだりしておかないとダメでしょ? そんな手間かかるもんは投資じゃない」


「ほほー! ダメでしょ? って言われてもあたしわからないけど!」


「っていうか葵は投資したいって言ってるけどさ、もうしてるよ?」


「……え?」


「バイトしてるでしょ? そのお給料どこに振り込まれる?」


「え? え? 銀行だけど……」


「そうそれ。銀行預金。それ投資だから」


「どゆこと……?」


「葵は銀行に『お金を保管してもらってる』って感覚かもしれないけど、あれ『葵が銀行にお金を貸してあげてる』って状態だからね?」


「そ、そうなん?」


「そう。あんたが銀行に預けてるお金、勝手に他の人とか会社とかに貸したり、それで株や債券買って運用してるからね? 残高表示はそのままになってるだけで」


「えー! なにそれ聞いてない!」


「これ大人でも知らない人いるからね。で、銀行ってお金預けてると利子がつくのは知ってる?」


「あー、何か聞いたことある。でも利子って何?」


「簡単に言えば『お金貸してもらってるからお礼にお金あげます』ってやつ」


「えー? あたし貰ったことないんだけど?」


「今は金利0.001%だからね」


「き、金利……? れーてん何?」


「えっとね、『100万円を1年預けて10円貰える』ってこと。あ、税金20%取られるから8円か」


「何それクソじゃん。そもそも100万円も持ってないし」


「利益は小さいけど立派な投資よ? だって『何もしなくても勝手にお金が入ってくるシステムを構築』してるじゃない」


「ほ、ほんとだ……でもでもでも! 投資ってあれじゃん。損する可能性もあるって聞いたことあるけど、銀行の預金ならしないじゃん」


「いや損する時もあるよ」


「え……するの?」


「銀行が破綻したら。まぁそれでも1000万円までは保証してくれるけどね。でも返ってくるまでにお金が必要になって借金したら損するし、そもそも1000万円以上預けてた人は無条件で損するでしょ?」


「そんな急に潰れたりしなくなーい?」


「でもリスクがないわけではないでしょ。そもそもリターンが少ないものはリスクも少ないものなのよ。それにインフレしたら目減りするしね」


「いんふれ……? めべり……?」


「例えば、17歳のあんたが3年後の成人式で振袖着るためにおばあちゃんが今30万円銀行に貯金してたとして、銀行の金利0.001%だと30万円は3年後に30万9円になってるわけだけど、物の値段が上がってお金の価値が下がって(=インフレ)振袖代が31万円になったら9991円損するでしょ? 着る振袖は同じはずなのに。貯金の金利がインフレに追いつかなくなるのを『目減りする』って云うの」


「んー、わかるようなわからないような……。インフレってそんなするもんなの?」


「今のはは大げさな話だけど、国の理想としてはちょっとずつインフレしたいのよ。物の値段上がらないと日本人の給料も上がらない、そうすると順調にインフレしてる他の国に国民の給与水準どんどん追い抜かれちゃうでしょ? それは国際競争力で負けるってことだから」


「む、難しい……あたしにはキャパいわそれ」


「とにかく、『銀行にお金を預けるのも立派な投資で損をする可能性もある』ってことだけわかってくれればいいよ」


「うむ」


「銀行預金以外にも『年金』『保険』も投資だからね。これらも『何もしなくても勝手にお金が入ってくるシステムを構築』してるわけじゃん? それにこれは大人も勘違いしてる人多いけど、年金も保険も国民や加入者から受け取ったお金をどっかの金庫に保管してるわけじゃなくて、株や債券で運用してるのよ。だから減るリスクも全然あるし」


「そうなの!? 酷くないそれ!? 貰える額が減ったり無くなったらどうしてくれんの!?」


「単純に貰える金額が減るか貰えなくなるかだね。保険屋さんは『責任準備金があるので減った場合はそこから補填します!』って言うけど、これがあやしいんだわ。年金なんか既に減ってるしね」


「えー、なにそれ詐欺じゃん」


「だからたまに問題になったり、訴えられたりしてるんだよ。でもね、預金も年金も保険も、昔はすごい良い投資だったんだよ」


「そうなの?」


「定期預金は年利8%、つまり100万円1年間預けてたら8万円貰えて、年金は払ってれば老後死ぬまで安泰に暮らせるだけお金貰えて、保険は保険料に見合ったサービスをちゃんと受けれたしね」


「なにそれ超いい時代! うらやま~」


「ほんとにね。もう預金、年金、保険っていう投資は過去の投資法なのよ。まぁ今でもまだ使える部分はあるからそれは利用するとして、今の時代は今の時代に見合った投資法を私はしてるって感じかな」


「それが知りたいんご! イマドキの投資!」


「うん。じゃあ次は投資――――『何もしなくても勝手にお金が入ってくるシステムを構築する方法』を教えるね」


★今日のまとめ

・投機=勝負を何度も繰り返して利益を得ること(危険!)

・投資=何もしなくても勝手にお金が入ってくるシステムを構築すること(最高!)

・銀行預金、年金、保険も投資。ただし今はもうあまり良い投資ではなくなった

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