第2話 騙したんじゃないです。内緒にしてただけなんです。



 周りがざわついている。

 この騒ぎを鎮めたいのに。受付嬢の言葉が火に油を注いでしまった。


「な、ななななんで言っちゃうんですか!? 内緒って言ったのに!」

「あれ、そうでしたっけ?」


 ルルエルは涙目で受付嬢に訴えた。

 自分が魔女だとバレたら誰も近寄ってくれないし、かつて共に旅をしてきた仲間は彼女の目的に反対している。だから誰かのギルドに入るしかなかったのだ。


「……そ、そんなはずないだろ! 貴様の魔力値は赤だぞ!」

「そ、それは……そのぅ」


 ルグトが声を荒げる。確かに彼の言う通り、今のルルエルの魔力値は赤、最下層に位置する。

 誰もが不思議に思うだろう。目の前にいる女が本当に魔女ルルエルなのだとしたら、なんで正体を隠しているのか。なんで魔力が低いのか。


「そうか、分かったぞ。お前、そのカードを魔女から奪ったんだな? そうでなければおかしい! 魔女が火炎弾ファイアーボールしか使えないなんてあり得ないからな!」

「そうよね。ちょっと受付、騙されてないで早くその違反者を捕まえなさいよ!」


 ルグト達がルルエルに向かって指をさして糾弾している。

 どうしよう。どうすればいい。ルルエルは涙目で受付嬢からカードを奪うように取り、その場を走り去ろうとした。


 しかし、集会場を出ようとしたところで長い髪をルグトに捕まれてしまい、引き留められてしまった。

 痛みで顔を歪めていると、アミレが喉元にナイフを突きつけてきた。ひやりと冷たい感触に思わず息を飲む。


「白状しなさいよ。魔女がこんな簡単に捕まるわけないでしょ? 嘘なんてすぐバレるんだからね」

「え、えっとぉ……」


 正体を隠したのも魔力値が赤なのも、当然理由がある。

 しかし、それをここで説明する訳にはいかない。何故なら、余計に怒られそうな気がするからだ。


 ルルエルは悩んだ。

 この場からどうやって去るか。荒っぽいことはしたくないし、なるべく穏便に済ませたい。

 相手にどう思われていようと、ルルエルにとってはさっきまで仲間だった人たちだ。平和的に解決できるなら、それに越したことはない。


「あ、あの……えっとー、別に騙すつもりはなくてですね。私にも事情があるというか……あの、刃物は退けてもらえませんか?」

「はぁ? 何言ってるの。そっちこそ、そのカードを渡しなさいよ。それ、本物の魔女のものだとしたら……相当な金額が口座にあるんじゃないの?」


 冒険者カードは、ギルドに登録するために必要な身分証明書だ。

 個人の身分を証すものであり、銀行と連携されているので先程のようにアイテムを換金した時に振り込まれた報酬もこのカードを使って引き落とすことが出来る。


「奪っても無駄ですよ。本人でないと引き落としできませんし」

「だったら、アンタも持っていたって無駄でしょ。それに、他人のカードから金を盗む方法なんて探せばいくらでもあるのよ」


 アミレが耳元で囁いた。

 それはあからさまな違法行為。重罪だ。そんなことを知っているということは、今までも他者のカードを奪ったりしてきたということだろう。

 このギルドが高ランクにいるのは、そういった違法なことを裏でしてきた結果なのだと、ルルエルは察した。


「……これは、追い出されて正解でしたね」

「何をブツブツ言っているんだ。早く自分の罪を認めろ! 貴様みたいな奴は協会に罰してもらわないとな」


 ルグトが腰の剣に触れた。

 こんなところで必要以上に揉めたくはない。ルルエルは息を吐き、両手を上げた。


「でしたら、さっさと連れていってください。そっちの方が良さそうです」


 ギルド協会に行けば自分がルルエル本人であると認めてもらえる。あまり大事にしたくないが、これしか方法はない。


「……良いだろう。そいつを拘束しろ」

「わかりました」


 彼の仲間の一人、とんがり帽を被った少女がルルエルに拘束魔法を掛けた。

 どうやら彼女はルルエルの代わりに入った魔道士のようだ。

 魔力値は赤より二つ上の青。見た目はまだ十五、六歳。その歳でこの魔力値だとすれば、かなりの使い手だ。


「……はぁ」


 ルルエルが溜息を吐いて受付の方をチラッと見た。

 受付嬢は相変わらず笑顔で、ひらひらと手を振っている。




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