第57話 前触れ……?

 落ち着いた俺は一度玲香と共に館内を散策する。隣に居る玲香のお陰もあって、ちょっと幸せな気分だ。

 色々なところを見て回ってる内に麻那ちゃんと出会った。


「あ!姉さん!お部屋どうでしたか?」


「麻那。うん、すっごい良いお部屋だったよ」


「わぁ……!後で行っても良いですか?!」


 物凄く俺達の部屋が気になるらしく、麻那ちゃんのテンションが最高潮に。

 それを見た俺は苦笑を浮かべ、玲香も少し困った表情で麻那ちゃんを見た。


「別に良いけど……そんなに騒がないでね?ここには他の人も居るんだから」


「それぐらいは分かってます!子供扱いしないで下さい」


 むすーっと頬を膨らませて玲香に怒りの表情を見せる麻那ちゃんだが、怒った時は姉そっくりだなぁと思う俺だった。






 ☆






 他に見るところもないので、麻那ちゃんと共に一旦俺達の部屋に戻ることになった。

 先に俺が部屋の扉を開けると先程同様、麻那ちゃんのテンションが高い。


「いいなぁ……私は遥菜姉さんと一緒なんですけど、こんなに綺麗なお庭なかったです。代わりと言っちゃなんですが自然豊かな感じです」


「それはそれで見てみたい気もする」


「お父さん達も凄いお部屋に泊まってるみたいなので、颯斗兄さん一緒に行きませんか?」


「な、なんで私抜きなのよ……!」


 俺を取られたくないのか、玲香はぐっと俺を抱き寄せた。


「良いじゃないですか一日ぐらい、夜は二人でお楽しみでしょ?」


「麻那?!」


「麻那ちゃん!?」


 俺達の顔がかあっと赤く染まり出す。

 さっきの事とこの発言も相まって、お互い顔を見れない状態になってしまった。


「という訳で!颯斗兄さん、一緒に行きましょ」


 そのままズルズルと部屋の外へと連れ出される俺、玲香はというと真っ赤に染まった顔で自分の体を執念にチェックしていた。

 俺の目の前でそういうことしないで欲しい。愚息が目覚めてしまいそうだから。






 ☆







 部屋の外へ出た俺と麻那ちゃんは、俺の隣で腕を抱き締めて少しだが顔を赤く染めていた。

 さっきの一件で流石に恥ずかしかったのだろうか。


「……颯斗兄さん。私達って周りから見たらどう思われるんですかね?」


「さあ……仲の良い兄妹ぐらいじゃないかな」


「なら良かったです……か、彼女だとしたら後で姉さんに怒られちゃいますし」


 これだけでも充分怒られるような……とは言えず、苦笑を浮かべるしかなかった。

 そんな時だ。何処かから聞き覚えのある声が聴こえてくる。


「やっぱり荻谷先輩だ……!先輩はお泊まりですか?」


「……上村」


 なんで彼女がここに……。


「お手伝いで来てるだけです。一応実家なので」


 すると不意に服を引っ張られた。


「颯斗兄さん、この方は……?」


「どうも、麻那ちゃんだっけ?お姉さんと先輩との後輩だよ」


 やはりというか、麻那ちゃんは初対面相手はかなり警戒しまくってる。現に俺の後ろに隠れてしまったから。

 相変わらずなのか、上村は俺との距離を詰めてくる。


「先輩、後でお伺いしますね?ふふっ」


 そのまま上村は何処かへと去っていった。

 これが俺達の間で亀裂が走るとは知らずに。

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