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最後はベタといえばベタなヒロインと殺人鬼の追いかけっこな訳だが、最後の最後で主人公はヒロインを手に掛けることを躊躇う。振り下ろしたナイフはヒロインから逸れ、彼はそんな己の行動に戸惑いながらも、自分から一生離れるな自分に自分だけに従順であれと彼女に迫る。
「僕、もう怖くて結末まで見れなかったんだけど、結局どうなるんだっけ?」
「蘭さんずっと私にしがみついて顔も上げなかったもんね」
「だって女の子がひたすら可哀想で。みんなの前ではカッコよくて人気者でも、ホントは中身が冷たいボーイフレンドでさ。そんな奴を理解しようと色々頑張ってた超健気な子だったのに」
「でも、だから主人公も彼女を殺さなかったのかもよ」
「え⁉︎あの子って最後助かったの⁉︎」
結局、2人は膠着状態で押し問答を続けた挙句、ヒロインがあらかじめ通報していた警察が駆けつけ主人公は逮捕されるのである。
ヒロインは助かったものの、物語はこれで終わらず、不穏な余韻を残した結末を迎えることとなる。
取調べを受けた
彼女の住む家の隣に、新たな住人がやってくるのである。ラストシーンでは、ヒロインをカーテンの隙間から見つめる目だけが映され、曲のない静かなエンドロールが流れる…。「ホラーじゃん‼︎‼︎」
怖っ‼︎‼︎とめいいっぱい叫んで、ヒトデの身体をよじらせる蘭さん。
「ホラーじゃないよ、サスペンスだよ」
「どちらにせよ怖いから‼︎」
「やーホント、あの俳優さんの演技力が光ってると思うわ」
「だから怖いんだよ本物の殺人鬼みたいで‼︎」
「まさに怪演!って感じでカッコいいよね」
「カッコいい⁉︎何言ってんの⁉︎」
「…ねえちょっとうるさい耳元でやめて」
悲鳴のような声を上げる蘭さんに、思わず顔を顰める私。
「アキちゃんどうしてあんな奴が好きなのあんなの最低野郎だよサイコパスだよ⁉︎」
そんな私の肩を掴んでガクガク揺さぶってくる彼に、「私もだよ」と言ったらどんな顔をするだろう。
もっとも、私は人殺しなんてハイリスクなことはしないけども。ああでも、ムカつく奴相手に脳内殺人ならしょっちゅうしてるな、それこそ連続殺人鬼並みに。
「ねえアキちゃんってばアキちゃんはああいう悪い男が好みなの⁉︎ねえねえアキちゃ「落ち着けってば!」ギャン!」
思わず頭を
実は私は、アルコールを少しでも飲むとすぐに世界が回りだすくらい酔いやすい体質で、缶チューハイでも2本目あたりから気持ち悪くなるタイプである。私が気持ちよく酔えるのは、せいぜい度数3%の350mlくらいまでだ。そのくせ、いつかは身体が慣れてくれるだろうと定期的に許容量オーバーで飲んでは、悪酔いしているのだから、我ながら自分の負けず嫌いには呆れる。
「気持ち悪い…」と呻く私の背中を慌てて摩ってくれた蘭さんだが、その後、件の映画の主人公を巡って軽い口論になった。
どうも彼は、主人公をあたかも実在の人物として捉えているようなフシがある。いや、頭ではフィクションだということくらい理解はしているのだろうが。まあ、あの映画は、本当に実在した殺人鬼を話の中で登場させているところも、売りの一つだろう。それが、あの物語によりリアリティを与えている。蘭さんはそんな映画の生々しさに“やられた”のだろうが、一方私は、世間で言うところのいわゆる“推し”として、映画の主人公にハマったのだ。
それに、仮にあの映画に続きがあるとすれば、主人公はこの先もヒロインを殺したりしないだろうと、私は思っていたりする(蘭さんとはこの部分でも考え方が違った)。
「映画の途中でもその傾向はあったでしょ?」
「ええ…?口封じの為にあの子を追いかけて来たとしか思えないけど。だって、アイツにナイフを向けられて助かった唯一の生き証人なわけだし」
「そうかな。主人公は、やっぱりヒロインのことが好きだったんだと思うけど。彼なりに」
「まさかあ。長い間一緒に過ごしたっていっても、自分の本性を知られちゃった相手なんだよ?殺す一択に決まってる」
怖がっている割にはシビアな意見だ。
「でも実際、サイコパスと一緒に過ごして、普通に生き残った人間はいるらしいよ。あの映画が史実だったとすれば、ヒロインもその中の1人になってたんじゃないかな」
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